第7話 彼女との再会と記憶の復元

 目が覚めると、僕はベッドで寝ていた。

 ……何で?


「お、目覚めたか」


「貴方は確か」


「おう、さっきドンパチやってたやつだよ。自己紹介がまだだったな。俺は魔術師殺者マジシャンキラーのガレリーバだ。いつもは人間に紛れて冒険者やってる。二つ名はその冒険者でやってる時についたやつだな」


「はあ。僕はアル・ローダスです」


「おう、よろしく頼むぜ。何たって、これからお前はここで暮らすんだからな」


「……は?え?何で?」


「いや、逆に聞くが、何で戻ろうと思うんだ?もうあそこにお前の居場所はねえよ」


「……そう、ですよね。家も壊れてたし」


 後から聞いた話なのだが、ニュールンクの悪魔騒動は僕が起こしたものだと正式に決定したらしい。勇者のクランが言ったことが一番信憑性があるとか何とか。

 だから冒険者ギルドがニュールンク及び、クラウディア皇国全域に僕を指名手配としたらしい。


「まあしばらく安静にしとけ。絶対安静な分かったな」


「はい、わかりました」


「にしてもお前、今10歳だっけか?魔力やばくね?」


「あ、やっぱり悪魔だからわかります?」


「…まあな。悪魔はそこら辺は敏感なんだよ」


 それから2人で魔術のことやら、いろんな話に花を咲かせた。

 そして気づくともう1時間はたっていたらしい。


「それじゃあ、俺はもう行くわ。いいか、絶対休んどけよ」


「はい、わかりました」


 そう言って、ガレリーバが出ようとした時、


 ドアと彼が吹き飛ばされた。

 そしてガレリーバは窓側まで吹き飛ばされた。


「……は?え?ガ、ガレリーバさん!?」


「うっ…俺は大丈夫だ。それと、魔術の準備はしなくていい。襲撃者じゃない」


「え?それはどういう…」


 そして次の瞬間、僕は女性に抱きしめられていた。

 …………………………え!?


「シン様シン様シン様シン様シン様シン様シン様シン様シン様シン様シン様シン様シン様シン様シン様シン様シン様シン様シン様シン様シン様シン様シン様シン様シン様シン様シン様シン様シン様シン様シン様シン様シン様シン様シン様シン様シン様シン様シン様シン様シン様シン様シン様シン様シン様…」


「ちょ、ちょっと痛い!誰!?何で急に女の人に抱きしめられてるの!?」


「…はっ!?失礼しました。シン様、大丈夫ですか?」



 もう少しで骨が折れそうなくらい、強く抱きしめられた。ものすごく痛い。

 そして、僕を抱きしめいる彼女を見た。


 銀髪の長い髪。顔はとても美しく、数少ない前世の記憶では、胸はあまり出ていなかったのだが、目の前の彼女はしっかりと膨らんでいる。 

 その顔は記憶だけしかなく、実際に一緒に行動していた時の記憶がないのだが、自然ととても懐かしく感じた。

 彼女の名は……


「っ⁉︎ア、アリシア……?」


「おかえりなさいませ…シン様」


 約1000年ぶりに見れたアリシアの顔。

 僕は驚いたと同時に、初めて記憶にある人に出会えてとても嬉しく感じた。


 ***


 一旦落ち着いた後、彼女に一通り説明してもらった。

 何でも、僕は今前世の記憶が殆ど欠如しているらしい。

 アリシアとの旅のことを覚えていないことが確たる証拠だ。

 僕自身そんな感覚はあまりしていなかったというか、そういうものだと認識してしまっている。

 今でも対面してようやくアリシアの顔をはっきりと思い出せたのだ。

 何でそんなことがわかるのか聞いてみたら、


「そんなこと見抜けて当たり前です。何てったって私はシン様のメイド兼唯一の部下なのですから」


 そんな、僕にとってはよくわからないことを言っていた。

 そして、アリシアは次にこう言った。


「ですので、今から記憶の復元をいたします」


 記憶の復元?


「そんなことできたっけ?」


「はい、昔にシン様が術式を作り、それを私に教えてもらいました」


 そんなことあったっけ?


「確かに術式は覚えてるけど、僕が創った?そんな覚えないんだけど」


「当たり前です。前世でのことですから。覚えてなくて当然です。なので記憶を復元する前にシン様の脳の中にある術式を快受することから始めましょう。まだシン様の脳の中に術式が発動されている痕跡がありますから」


「そういえば、アリシアって術式がんだっけ?」


「はい、そうです。そこは覚えていたんですね」


 普通、術式は発動してしまったら人の目からは見えない。それは悪魔も同様である。

 しかし、アリシアにはという、魔眼を持っている。

 これは、目に見えない物でもみれるようになるというものだ。

 魔眼は他にも色々あって、その中でもこれは中の上辺りのものだ。


「ですので、まずはその術式を解除してから、記憶復元の術式を発動させます。術式の解除は……せっかくですからガレリーバにやらせましょう。ガレリーバ」


 アリシアは未だに窓側で伸びているガレリーバを呼んだ。

 しかし、彼は反応しなかった。


「はあ。しょうがありませんね。えい」


 そう言って、アリシアはガレリーバに向かって人差し指を向けると、そこから電撃を放った。

 アリシアは普通の悪魔よりも魔力値が多い。

 何なら今の僕よりも多い。

 そんな彼女が放つ初級魔術だ。当然魔力は大量に込められている。

 案の定、ガレリーバの


「っ!?痛っっっっっった!?何するんすか!?アリシア様!?」


 普通、雷属性の初級魔術、電撃ボルトは対象の相手を痺れさせる効果があるだけで、攻撃力を持っていない。

 しかし、先程の彼女が打った電撃ボルトには大量の魔力が込められていた。

 。それだけでどんな魔術も凶暴化する。その分制御は難しいが、彼女くらいの実力の持ち主ならそのくらい余裕だろう。

 ちなみにどれくらいの魔力を込めたかというと、それと同じ量を別の術式、最低でも中級攻撃魔術に込めれば小さな町なら半壊にできる。

 そして初級魔術に大量の魔力を込めることなんて滅多にないから、それに耐えられる術式ではない。


 魔力を大量に込めて初級魔法を放つということは、難易度で言ったら上級魔術、それも複雑怪奇な術式で普通の人間だったら頭がパンクしてしまうような物と同じなのだ。

 彼女が平気顔でそれを行っているということはそれほどの制御技術があるということだろう。

 普通はやらない。なぜならそれが出来たとしても所詮は初級魔術。威力は期待できない。完璧で無駄な技術ということだ。


「貴方が起きないからでしょう?ですから、こうやって起こしてるんじゃありませんか」


「だからと言って、こんな過剰なやり方ありませんよ!?アルだって怯えるかもしれないじゃないですか!?」


「何を言ってるんです?この方はシン様ですよ?」


「そんなことは今はどうでもいいんですよ!?どうするんすか!?治療費これまあまあかかるんですよ!?」


「…シン様が、どうでもいい?貴方、死にたいようですね」


「シン様がどうでもいいなんて、一言も言ってないっすか!?わかりましたからその殺意しまってください!キツいんすよ!?」


「…はあ、わかりました。今日はこのくらいで許してあげましょう。後で治療所に行って腕の修復の治療費3倍にするとすぐに通達を…」


「やめてください!マジで!そんなんなったら俺貯金めっちゃ減って嫁に怒られますんで!」


「しょうがありませんね。ではさっさと始めてください」


「……はあ、分かりましたよ。術式の解除でしたっけ?すぐ終わらせますよ」


 ガレリーバのスキル、術式破壊スペリングロスト

 そういえば、僕との戦闘の時に、何回か僕が放った術式を解除されていたっけ。


「んじゃ、始めますよ。すぐ終わるからな、アル」


「はい」


「『術式破壊スペリングロスト』」


 彼は僕の頭の上に手を乗せると、術式を発動させた。

 術式破壊スペリングロストは僕も使えるけどスキルとは違い、自分の体に付与された術式は破壊できないという弱点がある。

 しかし、術式破壊スペリングロスト自体使える人がほとんどいないかなり高等な魔術なのだ。


「よし、終わったぞ。これである程度思い出しやすくなったんじゃねえのか」


「はい、ありがとうございます」


「……なあアル、じゃなくてシンか。なあシン、俺に対して敬語やめにしてくれねえか?タメ口の方が気安くていいし、どうだ?」


「……わかったよ。これでいいかい?」


「おう!ありがとな!改めて、ガレリーバだ。よろしくな」


「うん、よろしく」


 こうして、僕の脳にあった術式はなくなった。

 そして、次はいよいよ…


「それでは、記憶の復元の術式を発動させます。ガレリーバ、術式によりシン様が情報過多で、意識を失う恐れがあるのでサポートを」


「了解っす」


「それでは始めます。記憶復元術式M115、展開」


 アリシアがそう唱えた途端、部屋の壁全体に術式が展開した。

 幾重にも重なる術式。そして術式は部屋の壁では飽き足らず、空中にまで展開された。


「は!?おいおい、空中に展開される程の術式って……。こんなんみたことねえぞ!?」


 ガレリーバが僕のそばで興奮している。

 そして僕も驚きを隠せないでいた。


(僕がこんな術式を?神聖樹にいた時も術式を創ってたりしていたけど、こんな術式を創っていたっけ?)


 そう思いながらアリシアを見ていると、術式の展開が終わったみたいだ。


「術式、展開完了。対象捕捉。発動します」


 そして、全ての術式に魔力が込められたのを見た後、僕の意識はそこで途切れた。

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