愛はない

@tukimotokiseki

愛はない

 彼女と出会ったのは、小学3年生の頃。

 私は、本を読むのが好きで、あの日も、ただひたすら本と向き合っていた。

 そんな私に、彼女は声をかけてくれた。

 その後は、風のようだった。

 同じアニメが好きだったのをきっかけに、すぐ仲良くなった。

 ワークスペースで何度もヤンチャした。

 それを見たクラスメイトは、私たちを気味悪がったが、気にならなかった。

 隣に、彼女さえいればいい。

 それだけだった。


 年月が経ち、高校生になった私たち。

 別々の道を行く前に、モールに遊びに行った。

 私は、いつもみたいに笑えなかった。

 いつもみたいに話せなかった。

 何故か、いつも無言になってしまう。

 でも、何とかいつもより少し強引に、今日を乗り越えた。

 でも、彼女が親の運転する車に乗って消えたとき、何かがはじけた。

 何か、気づいてはいけないものに気づいたのだ。

 何か、私の中にずっと秘めておかないといけない何かに。


 高校生になって日が経った。

 すっかり新しい生活に慣れても、私は未だに彼女と連絡を取らなかった。

 あの気持ちに気づいて、彼女に合わせる顔がなかった。

 もちろん、彼女からメールも電話も来る。 

 何をしてるの?

 連絡ないけど大丈夫?

 何か返事して。

 そのメッセージを見る度、私が汚くなる。


 夜、私は眠れない。

 毎日、彼女が私のことを蔑んで見る、悪夢に襲われる。

 そして、私は、いつも泣いた。

 好きになってごめん。

 こんな汚い私でごめん。

 あなたの隣に居たくない。

 もっと好きでいたい。

 あなたを愛すれば愛するほど、私は美しくなる。

 あなたの隣に居たい。

 ずっと。


 ある日、スーパーの買い出しから戻ると、彼女が家の前にいた。

 私を見ると、元気そうじゃん馬鹿、と言って笑った。

 強引にも彼女が家に上がると、激怒してきた。

 なんで出ないの?

 どこで何してたの?

 心配したんだから!

 その言葉の一つ一つが、私の心に刺さった。

 ナイフのようにグサッと刺さり。

 内臓を抉り出し。

 そのままグツグツ煮た感じ。

 血の気が引き、冷や汗が吹き出した。

 私は、いつの間にか彼女に向かって叫んでいた。

 そのまま、彼女を追いだした。

 そして、泣いた。


 ある、洋楽を聞いたことがある。

 男性が、その低い声で悲しく歌っていた。

 今夜は行かないで

 もう一度だけここにいてよ

 あれがどんな感じだったのか思い出させて

 そしてもう一度、恋に落ちよう

 君が隣に必要なんだ

 君に断られると、張り裂けそうだ

 お願いだから、ただそばにいて

 ごめん

 離れないで

 やっぱり君にいてほしい

 愛が行ってしまったのは分かってる

 息ができない

 弱いんだ

 簡単じゃないのは分かってるけど

 愛がないなんて言わないで

 愛していないなんて


 君には知られたくない。

 君には離れてほしくない。

 君にはそばにいてほしい。


 君のことが好きだ。


 たったそれだけのことが言えなかった。


 言っちゃいけないのかも。


 私のこの気持ちはあってはならないのかも。


 私は、おかしいの?

 

 

 

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