第21話 水の都アクア 

 水の都アクア西側。

 巨大なアメンボに似た者が一体。

 二足歩行の獣人が一体。

 二体は魔王軍の幹部。

 西側の魔王軍は幹部と合わせると五二体。

 西側の魔王軍が大地に襲い掛かる。


            ***


 水の都アクア東側。

 翠たちが生き残った兵士と冒険者と共に魔王軍三〇〇体と戦っていた。

 兵士が苦戦する中、翠たちは連携して次々に魔王軍を倒してゆく。

 翠と琴音は勇者の素質があった。

 大地の想像以上に成長していた。

 

            ***


 水の都アクア西側。

 大地は魔法で強化した拳で殴り倒す。

 魔王軍は幹部を残し全滅した。

 獣人の鋭い爪が大地の背後から迫る。

 大地はかわす。

 巨大なアメンボに似た者が魔法を唱えた。


「氷岩雨」


 大量に岩の様に硬い氷が大地の頭上にできると同時に獣人が向きを変え口を大きく開ける。


「口弾」


 口の中で緑色の塊が大きくなってゆく。

 悪寒が走り大地は技を発動した。


「硬化」


 体が鋼以上に硬くなる。

 頭上からは岩の様に硬い氷が雨の様に降る。

 ほぼ同時に正面からは緑色の塊が弾丸の様に飛んだ来る。

 大地は硬くなった体で受け止め技を使う。


「硬化刃」


 大地の両腕が刃の様に鋭くなる。

 大地は動いた。

 音よりも速かった。

 獣人とアメンボに似た者の首が切断され地面に落ちた。

 獣人とアメンボに似た者の体が光に包まれる。

 

「「ありがとう」」


 ロビンとカレンの声が聴こえた。

 ロビンとカレンがぼんやりと大地の瞳に映った。

 ロビンが語り出した。


「俺はお前に言いたい事がある。俺はお前の事がうらやましいかった、カレンと結ばれたお前が。俺はカレンが好きだった。ずっと好きだった。

俺の中にあったドロドロした感情があった。ある日、爆発した」


 ロビンは涙を流した。


「どうしても俺はカレンに振り向いてほしかった。だから俺はカレンに魅了の魔法を使った。魔王ダークは俺を獣人にした。報いだ。俺は消える。俺の魂は解放された。ありがとう」


 ロビンの姿が消えてゆく。


「待ってくれ。俺は言いたい事が……」


 大地はロビンの手を掴もうとした。

 大地の手はすり抜け、ロビンは消えた。

 カレンの口が動く。


「次は私の番ね。初めはね、ロビンの魔法で魅了されてた。でもね、だんだんロビンが好きになった。貴方の事、好きなのに変だよねごめんね、貴方を裏切った。ロビンを選んだ。私は魔王ダークにアメンボにされた。私の事は忘れて。私の魂を解放してくれてありがとう」

 

 カレンは消えた。

 大地は泣いた。

 大地の心に穴が開いた。


(俺は……)

 

 大地は虚ろなまま歩く。

 

            ***


 水の都アクア東側。

 魔王軍三〇〇体は全滅した。

 だれも喜びの声を上げる者はいなかった。

 翠たちは大地を待っていた。

 大地が翠たちの瞳に映る。

 翠たちは一瞬、誰だが判らなかった。

 

 虚ろな目。

 汚れた服。

 

 明らかにいつもと違った。

 翠は近づき声をかけようとした。

 痛々しさが伝わり声が出ない。

 琴音は心から声が聴こえた。


(キスするのよ、私。想いを込めて。今なら間に合うから。早くしないと大地君の心、完全に壊れてしまうよ)


(キス?)

(そうキス。キスして魔力流し込むの)


 琴音は心の声を信じ大地に近づく。


(大地君……)


 琴音は大地を見つめる。

 高鳴る鼓動と共に想いを乗せて琴音はキスをした。

 大地の心の穴が少し塞がってゆく。

 ゆっくりと唇と唇が離れる。

 琴音は振り向き翠とリーンに言った。


「二人とも早くキスしてあげて。そうすれば大地さん元に戻るわ」


 翠とリーンは一瞬思考が止まった。

 リーンが先に動く。


「ことね、信じてあげる。キスすれば良いのね」


 琴音は下がりリーンが大地の目の前に立つ。


 ……


(だいちさん……)


 リーンは大地にキスをした。

 大地に魔力が流れ心の穴が少し塞がった。

 リーンはゆっくり離れた。


 ……


 翠は大地を見た。

 翠の心に痛みが走る。


(好きな人を放っておけない)


 翠はリーンと代わり大地の目の前に立つ。


(大地……)


 翠は大地にキスをした。

 大地がいつもの大地に戻ってゆく。

 大地の心は回復する。

 大地は翠に寄りかかり眠りについた。

 翠とリーンが大地を小屋まで運んだ。

 


 

 小屋の被害は比較的少なかった。

 翠とリーンは大地をベッドで寝かせた。

 翠、琴音、リーンは眠りについた。



 日が明け大地は目を覚ました。

 大地はぼんやりと救われた事を覚えていた。

 翠、琴音、リーンを呼び大地は座った。


「ありがとう。あのままだったら俺の心は壊れていた」


 優しい笑顔を大地は翠、琴音、リーンに向けた。

 大地は翠、琴音、リーンへ視線を向けた。


「翠たちには花の都フェアリーに着いたらお礼に何かしたい。俺ができる範囲だが」

「あの花の都フェアリーに何かあるのでしょうか?」

「船を買い。魔王のいる西の大陸に行く」


 大地が翠の質問に答えると翠たちは息を飲んだ。


「花の都フェアリーはブレーヌの東だ。ブレーヌまでテレポートするから三人とも支度が終わったら俺に声をかけてくれ」

 

 大地は席を立ち支度を始めた。



 二週間が経過し大地たちは花の都フェアリーに到着した。

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