第15話 オークの森

 大地たちはオークの森に入り一日が過ぎた。

 荷物を背負い棍棒を持ち大地はテントから出た。

 隣りのテントの前まで歩き大地は声をかけた。


「入って良いか?」

「入って良いです」


 翠の声が聞こえ大地はテントに入った。

 テントに居たのは翠だけだった。

 大地は荷物と棍棒を置き座る。


「二人は?」

「川辺で顔を洗いに行きました」


 大地は棍棒を翠の目の前に置いた。


「この棍棒を琴音に渡してくれ。まだ弓で獣に当てるのは無理だからな。

俺はこれからオークロードの居場所を突き止めてくる。二人戻ったら獣狩りに行ってこい。夜には戻ってくる」


 大地は荷物を持ち立ち上がりテントから出た。

 翠は思う。


(あいつ、琴音先生の事しっかり見ているんだぁ。……私の事も見てほしい)


 翠は琴音とリーンが戻ってくるのを待った。

  

 一時間後。

 大地はオークを見つけ尾行した。

 

             ***


 同時刻。

 翠たちの前に獣が一体現れた。

 獣は猪に似ていた。

 翠は琴音の前に出る。

 後ろを向き翠は言った。


「琴音先生。私、狩りに行ってきます」


 翠は前を向き獣に近づく。

 琴音の口が開く。


「翠さん、待ちなさい」


 琴音は前に進もうとした。

 リーンが手を伸ばし琴音を遮る。


「ことね、大丈夫よ。すいなら。あの獣なら一人で充分。見守りましょ」


 琴音は思う。


(……そうね)


 琴音とリーンは見守った。

 

 翠と獣は睨み合う。

 獣は殺意を感じ取り戦闘態勢に入った。

 翠にとって初めての戦闘の始まりだった。

 翠は獣の側面に回り込み正拳突きを放つ。

 正拳突きが当たる。

 獣は泡を吹き横向きに倒れた。

 翠は驚く。


(私、独りで。やった)


 翠から笑みがこぼれた。


「グフフ。獣一匹倒したぐらいで調子に乗るなよ。人間」


 声が聞こえ翠、琴音、リーンは一斉に視線を向けた。

 全身が黒い者が木影から現れた。

 黒い者は見回した。


「グフフ。勇者は居ないようだな」


 リーンが声を発した。


「勇者なら亡くなったわよ。数百年前に」


 黒い者はリーンの方へ向き口を開いた。


「グフフ。勇者なら生きておるわ」

「嘘よ。人間は数百年も生きる事ができないのよ」


 黒い者は笑う。


「グハハハ。我ら魔王ダーク様は力を感じたとおしゃった。ここに来て判った。俺様にも感じるわ。なら生きている」


「嘘言わないで! 勇者ロビンが生きているなんて信じられない」


 リーンの言葉を聞いて黒い者は笑う。


「グハハハ。面白いぞ、人間。勇者ロビン? 魔王ヴァを滅ばしたのは勇者ダイチだ。勇者ロビンというまがい物ではないわ。

勇者ダイチとロビンは魔王ヴァの幹部と共に戦った、ただそれだけの事。魔王ヴァとの決戦前に逃げ出した男の名だ。

勇者ダイチに聞いてみると良い。俺様の名はルイド。魔王ダーク様の幹部。オークと魔族の混血、オークキングなり。勇者ダイチの仲間よ。勇者ダイチに俺様の名を伝えるがよい。ではさらばだ」


 背中から左右に黒い翼が一つずつ生えルイドは飛び立った。

 リーンはその場に座り込んだ。


(だいちさんが勇者? 訳が分からない)



 大地がここに来た頃には三人とも疲れ切っていた。


              ***


 テント。

 四人が座った。

 リーンがルイドの事を話し大地に聞いた。


「だいちさんが魔王ヴァを滅ぼしたって本当なの?」

「本当だ。ロビンの話をする前に俺と翠と琴音について話そうと思う」


 大地は自分たちが別世界から来た事、女神に連れて来られた事を話した。

 沈黙が流れる。


 ……


 大地の口が動く。


「ロビンとカレンは魔王の幹部や配下の魔物と共に戦った仲間だった。だが二人は魔王ヴァの決戦前に俺から姿を消した。

理由は分からない。俺が力をつけ魔王ヴァを滅ぼした後、人々の記憶から俺の存在が消えた。その結果、ロビンが勇者と讃えられ王都に仲間であるカレンと共に石像が造られた訳だ。簡単に話すとこんなところだ。疲れていると思うから話しは終わりだ。おやすみ」


 大地は隣りのテントに移動し眠りについた。

 

 琴音の口が開く。


「リーン。ごめんなさい。別世界から来た事、黙っていて」


 リーンは言った。


「良いのよ。それよりも寝ましょ」

「そうね」


 琴音は頷いた。

 翠、琴音、リーンは眠りについた。

 

 

 

  

 

 


 

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