第12話 過去

 大地たちは馬車を購入後、東へ進んでいた。

 揺れる馬車の中、大地は眠りについた。

 翠の瞳に大地の寝顔が映る。


(こいつの寝顔初めて見ました。……かわいい)


 翠は四つん這いになり大地の頬を人差し指でつっついた。


(柔らかい)


 大地の肌は子供の様に柔らかった。


            ***


 大地は夢を見ていた。

 背を向けた黒髪の女性と背を向けた銀髪の男性。

 二人は歩く。

 大地は遠のいて行く二人を見ながら言う。


「待ってくれ」


 黒髪の女性は振り向き大地に視線を向けると涙を流した。

 銀髪の男性の右手が黒髪の女性の肩に触れた。

 黒髪の女性は前を向き銀髪の男性と共に消えた。

 

            ***


 大地の瞳から涙が流れた。


(え? どうして泣いているの?)


 翠は驚き姿勢を変えその場に座った。


            ***


 大地の夢に出てきた二人。

 二人の名は。

 黒髪の女性がカレン。

 銀髪の男性がロビン。

 という。

 

 魔王ダークが現れる前、世界を荒らしていた魔王ヴァ。

 女神により大地と共に召喚された二人だった。

 大地たちは魔王ヴァの幹部を倒し魔王ヴァを追い詰めた。

 魔王ヴァとの決戦を前にカレンとロビンは大地に別れを告げた。

 大地は呆然と立ちすくむ。

 大地が理由を尋ねるとカレンが答えた。


「ごめんなさい。私……ロビンを好きになってしまったの」


 恋人だったカレンと親友だったロビンは大地の下を離れた。


              ***


 大地は心に大きな傷を負いこの日を境に大地は鍛錬に没頭する。

 月日は流れ大地は独り魔王ヴァの住み家に乗りこみ魔王ヴァを滅ぼし元の世界に強制的に転移させられた。

 大地は勇者と人々から呼ばれる事はなかった。

 女神により改竄され恋人だったカレンと親友だったロビンが勇者と呼ばれた。

 年月が経ち再び女神により召喚された大地。

 魔王ダークを倒すために。


              ***  


 大地は目を覚ました。


(嫌な夢を見た)


 大地は翠と目が合った。


 ……


 翠の口が開く。


「大地さん。これで涙拭いてください」


 翠はポケットからハンカチを取り出す。


(涙?)


 大地は自身の顔に触れた。

 滴が手に付いた。

 大地はハンカチを受け取り涙を拭いた。


             ***


 サハラ国の王都サンジャオが見えリーンは馬車を止めた。

 後ろを向きリーンは大地たちに声をかけた。


「サンジャオが見えたよ」


 リーンは前を向き馬車を動かす。

 馬車はサハラ国に入ってゆく。



 

  

 

 

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