第9話 アルブル2

 朝。

 布の袋を開け中身を見る。

 大地は心の中でため息を吐いた。


(はあ、これ渡すのか。持っていても仕方ない。持っていても良い事がない)


 バニースーツ一式を二つ取り出し大地は立ち上がった。

 大地は翠と琴音に近づく。


「出かける前に二人に渡したい物がある」


 息を飲む大地。

 大地はバニースーツ一式を翠と琴音に一着ずつ渡した。

 二人は受け取ると頬が赤くなる。


(これ、あれよね。こいつ、こういうのが好きなの)


 翠と同時に琴音が思う。


(大地君って。男ね。やっぱり好きなのか。この服、きわどくて恥ずかしいのに)


 琴音は大地の意識が男の子から男へ変わりつつあった。

 翠と琴音は布の袋にバニースーツ一式をしまった。

 


 アルブル内を歩く大地たち。

 翠が発言した。


「あっ。あの服屋そさそうです」


 琴音は左側を見た。


「翠さん、後で行ってみましょうか?」

「そうですね」

 翠は頷いた。

 二人が笑顔で会話している中、大地は真剣な表情だった。


(さてこの町は安全なのだろうか)


 大地は右側を見た。


(あそこにあるのは美容院か。二人に行かせるか。見た目、変えた方が良いからな)


 三人は町を見て回った。



 昼食後、大地は魔法を発動する。


「サイレント」


(これで良し)


 大地はテーブルに銀貨を三枚置く。


「魔法で範囲内のみ声が聞こえるようにした。奴隷と知られるのはまずい。わかるな?」


 二人は頷いた。

 大地は続ける。


「髪型を変え見た目を変える。そこで美容院に行って買い物してくると良い。

美容院代は銀貨三枚に含まれる。俺は俺で必要な物、買ってくる。買い物等が終わったら宿屋で休んでいてくれ」


 大地は立ち上がり会計を済ませ店を後にした。


           ***


 ブレーヌ。

 夜になると人さらいが現れる。

 リーンに迫る影。


 ……


 リーンは眠らされ男二人に連れ去られた。




 二日後。

 翠と琴音がトレーニングをしている中、大地は独り山賊の住み家に乗りこんだ。


(早く宝を手に入れるか)


 大地は洞窟内を進んで行く。


 襲ってくる山賊たちを大地は瞬殺する。


(独りで来て正解だったな)


 大地の左目に牢屋が映り近づく。

 大地は鉄格子越しにリーンと三人の女性が見えた。


(酷い)


 リーンの肌は至る所に汚れと傷があった。

 リーンと同じく三人の女性は至る所に汚れと傷がある。

 大地は怒りが沸き鉄格子を握り力を入れる。

 音と共に鉄が曲がる。

 人が通れるほど曲げ大地は牢屋に入ってゆく。

 大地はリーンの汚れを取り治療を始めた。

 大地の右手が白く光る。

 傷が徐々に消え肌が綺麗になってゆく。


(他の人を治療しないと。……その前に何か着せないと)


 大地は布の袋から布切れを取り出しリーンに被せ移動した。


 三人の女性を一人ずつ汚れを取り治療をする。

 治療後、布切れを三人の女性に被せた。

 大地は思う。


(無いよりましだろう)


「リフレッシュ」

 大地の魔法でリーンと三人の女性の体力が回復してゆく。


 ……


「ここは」


 リーンは右手で頭を押さえながら起き上がった。

 布切れがずれ落ちる。

 視界に大地の姿がぼんやりと映った。


「だいちさん?」


 冷たい空気がリーンの肌に当たる。

 リーンは視線を下に向けた。

 自身が服を着ていない事に気づきリーンは悲鳴を上げた。


「きゃー」


 自身の胸を手で隠し涙目でリーンは大地を見た。


「だいちさん。見ました?」


 大地は頭を下げる。


「すまない。治療はしたが痛みはないか?」


 リーンは嫌な記憶が蘇った。

 山賊に乱暴された記憶を思い出す。

 リーンは震え他の女性も目を覚まし震えだした。

 幻覚で山賊が見え四人の女性は叫び出した。


「「「「痛い事はしないで。乱暴は止めて。何でもするから」」」」

 

 四人の女性は涙を流した。

 大地は魔法を使う。

 

「キュアオール」


 四人の女性の精神が回復し正常に戻る。


 ……


 リーンは大地に視線を送った。


「だいちさん。取り乱してごめんなさい。もう大丈夫よ」


 大地は微笑んだ。


「良かった」


 リーンは大地に見惚れた。


「立てるか。テレーポートで脱出する」


 大地はリーンへ右手を伸ばした。


(テレポートが使えるって事はだいちさんって。少なくても中位魔術師以上……なら)


 リーンの瞳が輝く。


「奴隷契約上書きできますか?」

「できる」


 大地が言葉にした瞬間、四人の女性の鼓動が速くなった。

 三人の女性は立ち上がり布切れで前を隠しながら大地に近づく。

 リーンは大地の右手を両手で包むように握った。


「あの私の奴隷契約上書きしてくれませんか? 山賊の奴隷、嫌なの。それにこのままじゃここを出る事ができないの」


 三人の女性は大地を囲む。


「「「私もお願いします」」」


「分かった。一人ずつだ。言っておくが脱出後は全員の面倒みれない。俺にはやる事がある。仕事等は自分で探してくれ。先ずはリーンから上書きする。始めるぞ」


 大地が言うとリーンは頷いた。 

 大地は一人ずつ奴隷契約を上書きしてゆく。


 ……


 上書きが終わり四人の女性は礼を言った。


「「「「ありがとうございます」」」」


(奴隷契約をして礼を言われるのは変な感じだ)


 大地は思った。

 

「魔法を発動する。魔法陣の中に入れ」


 大地が言うと四人の女性は魔法陣に入る。


「テレポート」


 大地と四人の女性は光りに包まれた。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る