第3話 別れ
外はすっかり暗くなっていた。
蛍光灯の明かりが照らすハナコの部屋で、ガイはノートパソコンの検索結果をハナコとミレイに向けた。
「………駅前のシュークリームが半額セール――って!真面目に探せ!!」
ミレイはガイの胸ぐらをつかみ、揺さぶった。
ハナコはパソコンの画面をものほしそうに見ていた。
「俺様もお前たちが学校に行ってる間に外で身辺調査したさ。でも、手がかりがないのに何を探せばいいのかもわからない。」
ガイは冷静に答えた。
「っていうかあんた!なんでそんなに落ち着いていられんのよ!そういえば、あんた前言ってたわよね?『俺様は戻らなくても大丈夫だ。』って!『この世界の女の子を俺様の虜にする』って!!元の世界に戻る方法を探す気なんてさらさらないんでしょ!!」
「………。」
「――もういいわ。話になんない。ハナコ。もう一度学校に行くわよ。」
「………え?学校は今閉まってるよ?」
「………え?学校って夜も開いてるんじゃないの?」
「いや、不審者とかいるから開けちゃダメでしょ。」
「………。」
あるある⑪ 夜に学校が開いている
学校は閉まっているものの、夜になったら別の景色が見えるかもしれないというハナコの提案で、ハナコ一行は学校の校門の前まで来ていた。
「………本当に閉まってるわね。」
「だから言ったでしょ。ごめんね、ガイくんまで来てもらって。」
「ふ。真夜中に女の子二人を放っておくわけにはいかないからな。」
真夜中の学校は不気味にそびえたっている。
時々通りかかる車の音が、より一層不気味さに拍車をかけている。
「………車。」
「ミレイちゃん?」
「私たちは、トラックにひかれてこの世界にやって来たの。」
「ねぇ、それも漫画あるあるなの?」
「そうなの!?」
ハナコは冗談のつもりで言ったのだが、ミレイの普段は見せない真剣な表情にたじろいだ。
「え、うん。最近流行ってるんだけど、トラックにひかれて別の世界に行っちゃう――みたいな。」
「………もしかしたら。」
「おい、バカな考えはやめろ。」
「あんたにバカって言われたくないんだけど?やっぱり元の世界に戻りたくないんだ!」
「違う。お前を危険な目に遭わせるわけにはいかない。」
「………そんなの建前よ。」
その時だった。
前方から走ってきたトラックのヘッドライトが道路を照らした。
さっきまで暗くてよく見えなかったが、路上で黒猫が毛づくろいをしているのがゆっくりと照らされた。
黒猫はトラックに気付いていないようだった。
「危ない!」
ミレイはすかさず道路に飛び出そうとしたが、ガイがミレイの腕を掴んだ。
「放して!」
「やめろ!お前が危ない!」
「そんなの関係ない!目の前の猫ちゃんを助けるのが先!」
「ミレイ!」
ミレイはガイの手を振り払い、黒猫の元へ駆け寄った。
すると、黒猫はミレイに気付き、道路の外へ逃げていった。
「よかった………。」
トラックはスピードを落とさず、ミレイの目の前まで迫っていた。
ガイも飛び出し、ミレイを突き飛ばした。
「ガイくん!ミレイちゃん!」
トラックのブレーキ音とクラクションとハナコの叫び声が道路にこだまする。
ドンッ!!
トラックは止まり、運転席から運転手が降りてきた。
「大丈夫か!?キミたち………あれ?」
そこにガイとミレイの姿はなかった。
ハナコは二人がここではない、どこか別の世界に行ってしまったことを確信した。
「ガイくん………ミレイちゃん………。バイバイ。」
ガイとミレイは、気付くと道路に横たわっていた。
「大丈夫か!キミたち!」
通りすがりの人たちの声が聞こえてくる。
体の痛みはなく、意識もはっきりしている。
目を覚ますと、そこには二人が元々いた世界が広がっていた。
「………戻ってきたのね。」
「そのようだな。」
「………なんであんたもついて来たのよ。」
「なんでって、そんなことはどうでもいい。好きな人が危険な目に遭っていたら助けるだろ。それだけだ。」
「………バカ。」
こうして二人の異世界生活は幕を閉じた。
あるある⑫ なんだかんだあってハッピーエンド
学園ものあるある あーく @arcsin1203
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