第521話 最終局面Ⅱ

「どうやら俺様は復活を遂げたようだな。今は最高の気分だ」


 そう後ろから声が聞こえた瞬間だった。とてつもない邪気が放たれただけかと思えば、腹部と背中に強烈な痛みを感じた。まるで全ての骨が折られてしまったかのような衝撃――。


 俺はゆっくりと目を開けると空を見上げていた。とは言っても空が視えるのは俺の視界で言うとほんの数センチ。一体どれほどの地中深くに落とされたのだろうか――。


「クソ……駄目だ」


 起き上がろうとしても全身に力が入らない。一体どうなっているんだ。


 俺は千里眼オラクルアイを使って皆の様子を見てみた。すると、ミクちゃんもデアも、アスモデウスさんもルシファーも気絶をしていた。一体何をされたか分からない一撃は、俺達を沈めるには十分な威力だった。


「成程ね――。でもこのままだとマズいな。皆殺されてしまう」


 すうと大きく深呼吸。そして「ウオオオオ!」と叫んだ。お陰様で全身バキバキに痛いが気合は十分のようで体は何とか動いた。自動回復もしている事もあり、疲労感は半端ないが体中の骨が再生しているのが分かる――。


「俺、これ8割方折られていたな」


 そう思うと苦笑しかない。たった一撃の謎攻撃で同じZ級なのにここまでの重症を負わされるとは。まあ、斬撃でも銃でもなかったから、打撃なのは間違いないがパンチなのかキックなのかも分からん。速過ぎて見えなかったもんな。


 ――手を見ると驚く程震えていた。恐怖を感じているのだろうか? 


 いや、確かに恐怖は感じているがこれもある。


 それは武者震いだ――。


 圧倒的に戦闘値を離されているのに何故こうもワクワクするのだろうか。本当にいつから戦闘民族になったんだ俺。


「よし」


 体力は完全回復だ。そりゃあ一分もあれば元通りになるな。


 俺は早速転移テレポートイヤリングを使って黒龍ニゲルの目の前に現れた。勿論戦場は空中。


「悪い。待たせたな」


「そうこなくてはな」


 黒龍ニゲルはそう言って嬉々とした表情を浮かべていた。


「一撃で死ななかった事は褒めてやろう」


「そもそも俺は死なないって。気絶するけどな」


「確かにそうだったな――さて強くなってしまった俺様だが、どう戦おうと思っているのだ?」


 と、黒龍ニゲルは不敵な笑みを浮かべていた。今まで、黒龍ニゲルの不敵な笑みは何度も見たことがあるが、ここまで黒龍ニゲルの笑みが俺の海馬に不気味に刻まれたのは初めてだ。それは圧倒的な力の差を感じたからに違いない。


 黒龍ニゲルは漆黒の巨大なオーラと紫色の雷のようなものを纏い、圧倒的強者の風格が出ていた。こんな奴誰が倒せるんだよなってな感じに。


「再戦前に一つ質問いいか?」


「何でもいいぞ?」


「心臓押し潰されていたんだよな? 何で体は元通りになっている上に生き返ったんだ? そもそも一度死んでいるよな?」


「死んだ。しかしいけ好かない神と再び会う事になってな。あいつは好きでは無いが今回ばかり礼を言わんとな。体に関しては知らん。いけ好かない神が気を利かせてくれたんだろう」


「成程ね。それでやたらと強くなってきた訳か。やっぱり俺と似たような体験をしていたか――」


「そう言えば破壊神シヴァがそんな事を言っていたな。ナリユキが創造神ブラフマーと対話をして生き返ったとな。まさか貴様と同じ境遇に俺様もなるとは思わなかったけどな」


「それは喜んでくれているのかな?」


「そんな風に見えるか?」


 黒龍ニゲルはそう不気味な笑みを浮かべた。不敵な笑みや不気味な笑み。コイツが様々な笑みを浮かべる度に禍々しく凶悪な邪気が放出される。コイツが近くにいるだけで、まるで深淵の中にいるような絶望感がある。


「まあ破壊神シヴァは瀕死から生還を遂げる度に強くなるスキルでもあるしな」


「それで? ナリユキは俺様に勝てそうか?」


 黒龍ニゲルは俺をそう言って笑みを浮かべた。まるで俺を試しているかのようなそんなだ。


 言葉とはとてつもなく恐ろしいものだ。自分が発言した通りに物事が進んでいく。言霊ことだまってやつだ。思えば俺は前の世界で自分の事を陰キャラだから彼女ができないだの、ぼっちだの散々自分の事を卑下してきた。そのせいで悪い方ばかりに動いていた。結果その通りになっていた。唯一違うかったのは仕事だっただろうか? そりゃ仕事という責務を与えられている以上は、数字を取っていかなければ自分が豊かな生活を送ることができないから全うしていた。そして契約するまでのKPIをしっかり定めてその通りに動き、駄目だったところは改善を重ねてきたら、気付けば予算達成が当たり前になっていた。だから仕事だけはそこそこ出来ていたんだと思う。仕事は楽しんでやる! そういったモチベーションでやっていたから仕事のパフォーマンスはよかったのだ。


 そして今の世界になって、全てが楽しいと思えるようになっていた。何より痛いとか嫌だったのに、チートスキルを手に入れたからこそ勝てて当たり前。痛みを感じないの当たり前。自動回復と自動再生当たり前になっていた。だからこそ痛みが新鮮だ。何度も再生と回復ができるのであれば、どれだけ痛くても立ち上がれるさ。一番痛いのは皆が悲しむ顔。何よりミクちゃんが悲しむ顔を想像するのが痛い。


 だからハッキリ言わせてもらおう。


「勝てそう? 違うな。楽しんで勝つんだよ」


 俺がそう言うと黒龍ニゲルは満足気な笑みを浮かべていた。


「それでこそナリユキだ!」


 と、黒龍ニゲルは叫んだ。狼の遠吠えのように響く歓喜に満ちた声だった。





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