第522話 最終局面Ⅲ

 そうして始まった俺と黒龍ニゲルの戦い。文字通りこれが最終局面というやつだ。しかし想像していた通り。俺と黒龍ニゲルの戦闘値は大幅な差がある。それ故――。


「どうしたナリユキ! その程度か!」


 黒龍ニゲルの黒刀を受けきることができず、俺の身体には黒刀の刀傷が刻まれていく。


「化物かよ!」


 俺はそう叫びながら黒紅煉刀くろべにれんとうを振りかざした。


「なっ――」


 黒龍ニゲルは思わず俺の刀を避けていた。俺が振ったと同時に飛び出した斬撃は空間を切り裂いていた。見えている世界は魔界なのか、俺達とミクちゃんが来た世界なのか分からない。しかし俺の斬撃によって切り裂かれた垣間見える空間は、明らかにこの世界のものでは無い別のどこか空間だった。


「本領発揮のアンタでも今の攻撃は避けるんだな」


「空間を切り裂いて別次元の空間と繋げる斬撃。流石の今の俺様の体力では致命傷になるからな」


「やっぱり初めて戦った時とは比べて随分と冷静だな」


「ただの戦闘馬鹿じゃないからな俺様は」


「それは分かっているさ」


 この戦いどうしても負けられない。今の俺でコイツを倒す事ができる突破口を見つけないと確実に負ける。どうすれば――。


「迷っている暇はないぞ!」


 黒龍ニゲルはそう叫んで俺に目一杯の斬撃を飛ばしてきた。俺は刀で受け止めたが、あまりにも強い力に押されてしまい地面に叩きつけられた。


「いてぇ――」


 こりゃあまた随分と派手にやられてしまった。先程再生したばかりの背骨が、再び何本か折れたようだ。つか絶対に折れてる。少しでも背中に力を入れると激痛が走るもん。


「ふう」


 6秒程で体は完全に元通りになった。背中に力を入れても痛みは全くない。ただ、このままだと俺のMPと体力が切れてしまう。黒龍ニゲルの残りのMPと体力は1/10しか残っていない。工夫次第で何とかなる可能性がある。


 ただ戦闘値に差がある分、MP切れを狙う事は困難だろう。普通に考えれば少しMPを込めたアクティブスキルだけで俺にとっては大技になるからな。普段はアクティブスキルすら使わずに勝負ができる。そうするなら体力切れ――。いや、俺の戦闘値は奴の1/10ちょっとしかない。何なら奴は目を瞑っていても俺に勝つことだってできる筈なんだ。少し力を入れただけで俺をねじ伏せることができる。体力切れを狙うのは現実的に難しい。


 だとすれば奴の負けず嫌いな性格を逆手に取り、MP消費の多いスキルを発動させるしかない。


「と、思ったけど奴のスキルを止めることができるようなスキルが俺には無い」


 どれだけ試行錯誤してもアレも駄目。コレも駄目となってしまうのは決して良い事では無い。悪い言い方をすれば最初から諦めているようなものだ。けど、俺はそうじゃなくてどれだけ色々な勝ち筋を考えても、全て閉ざされてしまうこの状況だからこそ楽しいと思えている部分がある。


 負けられない。


 この思いは皆の命が懸かっているからだ。俺がここで倒れてしまうと、世界中に発生した黒炎はさらに激しくなり、この地上は黒炎に包まれて全て文明が焼き払われてしまう。だから俺の肩には皆の命が重くのしかかっている。


 けれども頭でごちゃごちゃ考えて勝利への道筋は見えていない――。


「ナリユキ。直感を信じるんだ」


 隣からそう声が聞こえた。無事で良かったぜ龍騎士さん。


「私も色々と考えたがどうも勝てる手段が思い浮かばない。だから私は考えるのを止めて直感を信じる事にした。あとはそうだな――私にも神理ヴェリタスを与えてくれないか? ナリユキの知性・記憶の略奪と献上メーティスで」


 ルシファーはそう真っすぐ俺を見てきた。確かに勝つ可能性が少しでも上がるなら――。


堕天ノ王ルシファー英雄ノ神インドラの力で奴をねじ伏せる」


「分かった」


 俺はルシファーの頭に触れて知性・記憶の略奪と献上メーティスを発動した。コイツは俺達に手を出すことは絶対に無い。この際だから俺が持っているスキルの情報全てを与えた。


「何だこの力は――? それにナリユキの技も――」


 ルシファーの戦闘値が跳ね上がった。Z級のルシファーの戦闘値を1,000も上げてしまったのだ。この世界での通常時が8,500から9,500。ミクちゃんの強化バフで12,500。そして魔真王サタンを発動して戦闘値は16,500と大幅に上がった戦闘値。


雷弓シャクラダヌス


 ルシファーがそう呟き出現させたアクティブスキルは、青い雷で出来た弓だった。弓そのものが雷で消費MPが少ない割にはアルティメットスキルのようなパワーを感じる。これが神のユニークスキルを者にしか使えない固有アクティブスキルの力。


 ルシファーが雷神弓シャクラダヌスの矢を放つと、そのまま黒龍ニゲルの腹部に突き刺さり、黒龍ニゲルが青い雷に飲み込まれた。


雷神剣パランジャ


 次に出現させたアクティブスキルは、青い雷が剣のような形をしていた。正直雷のような剣と言うよりかは、剣のような雷と表現するのが正しい。


「味わうといい」


 ルシファーが雷神剣パランジャを天に掲げるだけで辺りは真っ暗なったと思えば黒龍ニゲルを青い落雷が襲った。


 落雷に直撃した黒龍ニゲルは俺達の前に落下してきた。


「この程度の攻撃。まだまだ浴び足りないだろ?」


 ルシファーがそう呟くと黒龍ニゲルがむくりと立ち上がる。


「ほう。知らない間に英雄ノ神インドラを使いこなしていたか」


「そうだ。まだまだこんなものじゃないぞ。私の英雄ノ神インドラは」


「面白い。二人まとめてかかって来い」

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