第518話 恐るべき天衣無縫Ⅳ

「流石に効いたようだな」


「貴方もMPを相当削っているじゃない」


「しかし効果はあった。貴様のMPと体力を相当削ったからな」


 黒龍ニゲルはそう言って不敵な笑みを浮かべていた。実際にデアの回復速度と再生速度は完全回復まで5秒は要する。万全な状態であれば1秒もかからない事から、相当なダメージを受けたのは間違いない。


 一方で黒龍ニゲルは余力をまだ半分は残している。しかし――。


「仕方ないわね。ミクちゃんに後でMPを回復させてもらおうかしら」


 デアはそう呟くと黒龍ニゲルは怪訝な表情を浮かべていた。それもその筈。デアは一度元の姿に戻ってしまったからだ。


「何をする気だ?」


「勿論コレよ?」


 デアはニッと笑みを浮かべると、デアのMPが右手に集中していた。これはあのアルティメットスキルだ。


神槍グングニル!」


 デアがそう叫んで巨大な光の槍を投げ飛ばすと、黒龍ニゲルは見事にそれに命中。勿論当たって当然の攻撃ではある。その威力は俺が身をもって体感している。


「何だこれは!? 力が一気に無くなった――!」


 と黒龍ニゲルは驚いた表情を浮かべていた。それもそうだ。神槍グングニルのスキル効果は体力もMPも元の1/10にしてしまう。これで一気に戦況を有利に進めることができる。


「それでは続きを始めましょうか」


 デアはそう呟くと天衣無縫オーディンを使って黒龍ニゲルの姿に戻る。


「これであおいこよ」


 デアはそうは言ったものの疲労した様子を見せていた。さっきの発言も他人から見たらただの強いがりだ。それを黒龍ニゲルは見透かしていた。


「これは俺が時間を稼ぐか。ミクちゃん、デアのMPを回復してあげてくれ」


「任せて」


 俺はミクちゃんにそう指示をすると、早速黒龍ニゲルの前に現れた。


「ほう。時間稼ぎにきたのか?」


「ご名答。でも俺が勝っちゃうかもよ?」


「やってみるがいい」


 俺が黒紅煉刀くろべにれんとうの連撃を浴びせた。やはり体力も相当落ちており、避けるスピードにキレがなかった。その証拠に、少しずつではあるが黒龍ニゲルはダメージを負っていた。再生速度も随分落ちているので、黒龍ニゲルの身体に刀傷が増える方が早かった。


 その間にもデアはミクちゃんによる回復ヒールで、体力もMPも元通りになっていった。


「私も混ぜさせてもらおう」


 そう言って応戦に来てくれたのはルシファーだった。俺も刀の腕は相当が上げたが、ルシファーは最強の剣士。当然、彼が応戦してくれた事で黒龍ニゲルの刀傷はさらに増えていく。


「MPは余っているな?」


「ああ」


 ルシファーの確認のサインに、黒龍ニゲルは怪訝な表情を浮かべていたが、俺はこのタイミングでルシファーがわざわざ俺に残りMPの確認をしてきた意味が何となく分かった。


 そして俺とルシファーは二人同時に刀を一度鞘に納めて抜刀の構えをした。


黒絶斬こくぜつざん!」


 俺とルシファーのW黒絶斬ダブルこくぜつざんが炸裂。当然俺にも痛みはあるが、それ以上に苦しんでいたのは黒龍ニゲルだった。斬ったという結果のみを残すこの強力なアクティブスキルは、弱っている黒龍ニゲルを苦しめるのに十分な威力を発揮していた。


 そして、このアクティブスキルを受けた黒龍ニゲルは体が四等分になっていた。右上半身。左上半身。右下半身。左下半身といった具合にだ。


「のう。もしかしてこのまま勝てるのではないか?」


「そうだといいが」


 アスモデウスさんの発言に、青龍リオさんは淡い期待を込めてそう呟いていた。黒龍ニゲルをこのまま俺も倒せるとは思っていない。攻撃ができる時に攻め続ける。


 まだ体を再生しようとしているときに俺とルシファーは容赦無く斬りかかろうとした。しかし――。


 完全には回復していないのに、バラバラになっている黒龍ニゲルの手が俺とルシファーの刀を止めた。左手で俺の刀を。右手でルシファーの刀をといった具合だ。


「そうはさせんぞ」


 体が完全に元通りになっている訳では無いのに俺達はそのまま後方へぶん投げられた。


 空中で体勢を整えた頃には体が元通りになっていた。


「俺様の嫌いなアクティブスキルを二つ同時に使いやがって。貴様等許さんぞ」


「――本当に化け物だなアイツ」


「魔界にあれほどしつこい生物はおらんぞ」


 ルシファーも思わず苦笑。これほど追い詰めているのに、倒せるイメージが浮かばないって本当にどうかしていると思う。


「待たせたわね」


「凄いなめちゃくちゃ元気になっているじゃん」


 俺がそうデアに言うと、「ミクちゃんのお陰よ」とデアは笑みを浮かべていた。


「ふざけた真似を――」


 俺達が黒龍ニゲルを倒せるイメージが強く浮かばないのと同様に黒龍ニゲルもまた。俺達を倒せるイメージが具体的に浮かんでいる訳ではないと考える。流石の黒龍ニゲルもあんな大技を出したのに、元通りの体力とMPになられては億劫おっくうになるよな。


黒龍ニゲル。お前が破壊の権化じゃなければ1VS1で戦いたいところなんだけどな」


「何だナリユキ? 俺様に情けか?」


「情けというよりある意味尊敬しているんだよ。これほど多くのZ級に囲まれているのに絶対に勝負を諦めないその姿勢に」


「成程な。しかし俺様は全てを破壊する事で欲を満たせる生物であり、それが俺様の使命。地上を破壊すれば、地下世界アンダー・グラウンドと魔界を破壊するつもりだ」


「――地上へ来てよかったな。魔界まで来ようとしていたとはな」


 ルシファーはそう言って黒龍ニゲルに刀を向けた。


「やはり貴様はここで殺しておかねばなるまい。覚悟はいいな? 黒龍」


 ルシファーの目つきがガラリと変わった。そして邪気が高まっていく――。


「そろそろ発動しよう」


 間違いない。ルシファーは魔真王サタンを発動する気だ――。

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