第516話 恐るべき天衣無縫Ⅱ

 デアは早速好き放題に暴れている黒龍ニゲルに近付くと、黒龍ニゲルはデアに気付き動揺していた。


「な――貴様。何者だ」


「へえ。相当驚いているわね。私はデア。貴方を倒しに来たの」


「俺様を倒しに?」


「そうよ。どう? 目の前にもう一人の自分が鏡以外で見る事ができるのは」


「――気味が悪いな」


「でしょうね。それにスキルもそっくりそのまま使えるのよ」


「らしいな。しかし威力はどうだ!」


 黒龍ニゲルは早速デアに向けて黒滅龍炎波ニゲル・ルインフラムヴァーグを放った。対するデアも黒滅龍炎波ニゲル・ルインフラムヴァーグを放つ。


「す――凄い。全くの互角」


「想像以上だな。これ見ている方が面白いんじゃね?」


「気持ちは分かるけど援護しよう!」


「そうだな」


 黒滅龍炎波ニゲル・ルインフラムヴァーグのぶつかり合いで、黒龍ニゲルは俺達にまで気を配る事はできていなかった。「何だと!?」と黒龍ニゲルは驚きながらも、デアの黒滅龍炎波ニゲル・ルインフラムヴァーグに食らいつく。しかし俺達がやることは、黒龍ニゲルに対してちょっかいをかける事。俺は早速創造主ザ・クリエイターでミニガンを取り出してから設置した。


「いくぞ!」


 俺はミニガンを発射。銃口から火が噴いているようなマズルフラッシュと、ブーという繋がった音。勿論、メタルストームにはレートは敵わないが、黒龍ニゲルの注意を逸らすには十分な武器だ。まあ、毎分6,000発らしいもんな。凄いよ十分。


 発射時間は僅か3秒。俺が発射した弾は勿論全て黒龍ニゲルの頭に命中。すると、黒龍ニゲルは「ナリユキー!」と言ってデアの黒滅龍炎波ニゲル・ルインフラムヴァーグに飲み込まれた。


「す――凄いのう。まさか黒龍ニゲルにも化けるとは――」


「ナリユキ殿。もしかしてまた新しいZ級か? 聞いていないぞ」


 と、俺の隣に来て少し怒り口調な青龍リオさん。


「そ――そうですよ。カルベリアツリーのダンジョンの1,000層のボスです」


「……全く。どれほど国の軍事力を上げれば気が済むんだ。ではあれか? マーズベルはZ級が三人いるのか?」


「そういう事になりますね」


「次回の六芒星会議ヘキサグラム・サミットでその情報を話すんだぞ」


「勿論ですよ」


 俺がそう返事をすると、青龍リオさんはハアと溜め息をついていた。


「本当に六芒星ヘキサグラムに入れていて良かった。ナリユキ殿がもし違う性格なら全世界はナリユキ殿が独占していたな」


「でもまあ、そんな独占するような嫌な性格していたら人は寄ってませんよ」


「確かにな」


 そう青龍リオさんは頷いた。


「おい。悠長に話をしている場合ではないぞ」


 ルシファーがそう土煙が上がっている方向を指した。そこには憎悪むき出しのをした黒龍ニゲルがいた。つうかその憎悪は邪気にも込められていた。


「完全に怒っているな」


 ルシファーも思わず苦笑を浮かべてそう呟く。


「まあ、全く同じ自分が現れた時点で嫌じゃろうな。黒龍ニゲル・クティオストルーデは特に嫌いそうじゃ」


「貴様は絶対に殺す!」


 そう怒号を散らしながら黒龍ニゲルはデアに黒刀で斬りかかった。


「ナリユキ! 何でもいいから刀を出して!」


「え――あ、そうか。今は出せないのか」


 俺がそう言うとデアはコクリと頷いた。


「そう言われてもな~」


 と、咄嗟に思い浮かんだのが妖刀村正だった。徳川家に仇をなす妖刀と言われている割と有名な刀だ。でも妖刀って言っているくらいだから凄い邪気が出ているけど気にしなくていいか。


 俺が妖刀村正を放り投げると、デアは黒龍ニゲルの攻撃を避けながら器用に俺が放り投げた妖刀村正をキャッチした。


「なかなかいい刀じゃない」


 そう言ってデアは黒龍ニゲルの黒刀を受け止めた。キインという刀と刀が重なり合う金属音も相まってなのか、なんか格好いいとすら思えた。


「ふざけるな! 咄嗟に出した割にはやたらといい刀じゃないか!」


 と黒龍ニゲルはキレながらデアに攻撃を仕掛けていた。そこキレるところなのか? とか思いながらもデアの刀捌きを眺めていた。


「あの刀使ってみたいな」


 ルシファーがそう言ったので、俺が「ほらよ」と同じの出すと、妖刀村正を眺めていた。


「特に変わった見た目をしている訳ではないな。しかしキレ味はよさそうだ」


 と、言ってルシファーは刀をブンと素振りをしただけで辺りの木々を鰹節のように粉々にしていた。多分そんな恐ろしい事ができるの貴方だけです。はい。


黒滅爪斬こくめつそうざん!」


 と二人が同じスキルを出し合った。どっちが攻撃を受けるんだ? と思っていたら互いの攻撃を受け止めあっていた。


「普通に見物しておきたいな」


「そもそも妾達が入れる隙が無さそうじゃのう」


「それは言えているな。巻き沿いを喰らうだけだ」


 青龍リオさんとアスモデウスさんがそう会話しているところだった。黒滅爪衝斬こくめつしょうざんという刺突つき攻撃で、デアは黒龍ニゲルを吹き飛ばした。


 デアは吹き飛ばした黒龍ニゲルの後ろへ回り込み、黒滅龍炎弾ニゲル・ルインフラムを繰り出した。直径10mの黒炎がマシンガンの如く襲い掛かる。


 当然、黒龍ニゲルは避け切る事ができずに黒滅龍炎弾ニゲル・ルインフラムに直撃した。さっきから黒龍ニゲルのほうが攻撃が当たっているのは、デアの天衣無縫オーディンの効果で未来を捻じ曲げているからだ。それで黒龍ニゲルは避けようとしても避けることができない。天眼の未来予知眼ヴィジョンアイで視た未来から逃れようとしているけど、なかなかその未来に抗う事ができないでいる。


「あのもう一人の黒龍ニゲルになっているデアという女性――相当やるな」


「あの変身スキルは神のユニークスキルなんですよ。天衣無縫オーディンって言って相手の姿に変身してスキルをそのままコピーする効果と、未来を少し捻じ曲げる効果を有しています」


「未来を捻じ曲げる――どんな風にだ?」


未来予知眼ヴィジョンアイなどで未来を視ている事が前提ですが、例えば敵が右に移動しようとしているところを左に移動させるとかそういった小さい事です」


「成程――未来を変えるというより行動を変えさせるという感じか」


「正解です。それでも敵からしたら戦い辛いと思いますよ。俺は凄くやりにくかったし」


 俺がそう溜め息交じりに呟くと、「苦労したんだな」と青龍リオさんに労いの言葉をもらった。なんか凄い事をした気分だ。

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