第514話 力を開放する黒龍Ⅴ

 神撃天波しんげきてんは。やたらと格好いいスキル名の俺の新技は黒龍ニゲルを耳をつんざくような轟音と太陽光にも似た眩い光と共に飲み込んだ。なんかもう超電磁砲レールガンみたいで格好いい。


 光が止んだと思えばそこに黒龍ニゲルの姿はなかった。跡形もなく消し飛んだ――。


「そんな訳ないよな」


 俺がそう呟いた瞬間だった。死の領域デス・テリトリーの範囲外の後方から人の気配がした。当たり前だけどこれは黒龍ニゲルだ。俺は直ぐに後ろに振り向いて――。


「甘い」


 黒龍ニゲルの黒刀を完全に受け止めたと思っていたが甘かった。


「喰らえ。黒滅龍炎波ニゲル・ルインフラムヴァーグ


 禍々しい大量の邪気と、紫色の雷を纏った極大な黒炎のエネルギー波は俺に容赦無く襲い掛かった。当然反応できなかった俺はモロに直撃。体も一度バラバラに吹き飛ばされた。


 また、黒滅龍炎波ニゲル・ルインフラムヴァーグはそのまま俺を通過して遥か彼方まで飛んで行った。あのエネルギーだ。宇宙の彼方まで飛んでいても可笑しくはない。


「まだだ!」


 黒龍ニゲルはそう言って黒刀を一旦鞘に納めて抜刀の構えを行った。


黒滅爪斬こくめつそうざん!」


 黒龍ニゲルから放たれた刀スキルは龍の爪の数と同じ連撃だった。たった6本の赤黒い斬撃が俺に襲い掛かってきたのだが、身体が硬直して黒龍ニゲルの攻撃を避けることができなかった。


 体中が引き裂かれたような痛みを襲った――。


「こんなに攻撃を喰らっていては、俺のメンタルが持たないな」


 俺は思わず苦笑いを浮かべた。


「痛みを感じる割には断末魔すら上げないとは流石だな」


「痛すぎて上げられないんだよ。しかもしれっとステータスに無い技をいきなり出しやがるし」


「貴様と戦っているうちに俺様もどんどん技を習得しているようだ」


 黒龍ニゲルはそう言ってどこか嬉しそうな笑みを浮かべていた。


「歓迎したくないね。スキルなんか覚えなくていいぞ」


「それほど熱い戦いが出来ているという訳だ。さあてもう少しギアを上げるか」


 黒龍ニゲルはそう言ってさらに邪気を上げていた。これがまた面白い冗談にしてほしいのだが、魔真王サタンを使っているアスモデウスさんや、やたらと邪気が多いルシファーを遥かに凌駕する邪気を放ちつつ、パワーが面白い程膨れ上がっていく。恐らく破壊神シヴァのユニークスキルを発動しているのだろう。


「ったく。止めてほしい限りだぜ」


「待たせたな」


 俺が苦笑を浮かべていると、黒龍ニゲルはそう俺に言い放ってきた。今の黒龍ニゲルのステータスを視ると戦闘値は50,000程になっていた。戦闘値だけで言えば勝てる見込み全く無いんだけど――。


「行くぞ!」


 黒龍ニゲルがそう言ったと思えば俺の上半身と下半身が二つに分かれていた。引き続き黒龍ニゲルはバラバラになっている俺に、容赦なく刀で連撃を入れてくる。


 ってえなクソ――。


 俺の体が再生しようとバラバラになった肉片が俺の頭部に集まっていた時だった――。


黒滅龍炎波ニゲル・ルインフラムヴァーグ!」


 その台詞と共に俺の体は再び吹き飛ばされてしまった。これぞ手も足も出ないというやつだ。


 絶対に死ぬことが無い俺は戦意喪失する事はないが、これだけ大量の邪気と攻撃を喰らっていたら、体力の消耗が激しく判断力や動きのキレも鈍ってくる。


 完全に体が再生した俺は、創造主ザ・クリエイターで直径50mの岩山を出現させて黒龍ニゲルの頭上に落とした。


「こんなもの!」


 黒龍ニゲルは斬撃を飛ばして真っ二つにしようと思っていたが、岩山はその斬撃をモロともせずに黒龍ニゲルを地面へと叩きつけた。


 俺は眼下に見える岩山に向かって天を穿つ者エンデュアーを構えた。


 そしてその岩山の四方には北にミクちゃん。南に青龍リオさん。東にアスモデウスさん。西にルシファーの姿があった。


「行くぞ!」


 俺の号令で皆が放出系のアクティブスキルを繰り出した。


 ミクちゃんは創世の超光星ジェネシス・クエーサーを。青龍リオさんは発泡の嵐流スパークリング・ストリームを。アスモデウスさんは魔真王の破壊光サタン・ディストラクションを。ルシファーは死絶デスペリアを放っていた。


 そして俺が放ったのは神撃天波しんげきてんはだ。俺にしては珍しい放出系統のアクティブスキルは、最低でも魔真王の破壊光サタン・ディストラクションばりの威力はある。それに消費するMPも魔真王の破壊光サタン・ディストラクションより少ない。そう考えるとMPが一般的に少ない俺にとってはコスパの良いスキルだ。


「さて――どうなった」


 皆の決死の攻撃は当然ながらマーズベル森林をめちゃくちゃにしていた。半径3km程の巨大なクレーターを作りその周辺の緑は無くなっていた。え? ここって荒地だっけ!? って勘違いするほどの有様だ。まあ仕方ないか。


「どうかな?」


 ミクちゃんが俺にそう言い寄って来た。


「こればかりは分からないな。アレで死ぬような戦闘値じゃないし――不滅イモータルを持っていないのにタフすぎるんだよな」


「確かにそうだね。戦闘値はどれくらいまで上がっているんだっけ?」


「50,000だぜ? 信じられないよ」


 俺がそう言うとミクちゃんは「ハハ――」と乾いた笑いを浮かべていた。


「それ――どうしたら倒せるの?」


「分からねえ。アードルハイム帝国に落とした神罰空堕しんばつくうだでも倒せるかどうか怪しいもんな」


「流石にそれはいけるでしょ?」


「でも相手黒龍ニゲルだぜ?」


「まあ――確かに」


 俺がそう言って妙に納得をしたミクちゃん。これまで何回も戦ったけど結局倒せずにいるのはそういう事だ。いっそ、この世界の星のマントルに閉じ込めるとかの方法じゃないと、一生黒龍ニゲルと戦うような気がするのは気のせいか?

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