第512話 力を開放する黒龍Ⅲ

「気を付けろよ。黒龍ニゲルは何か企んでいるぞ」


「貴様は黒龍ニゲルのステータスも視えるのではなかったんじゃないのか?」


「確認しているんだけど、こんな序盤でダメージを受けまくって放つようなアクティブスキル――」


「それが無いという訳か」


「そういう事だ。あいつ、再生はしているけどしっかり体力は減っているんだ。それは皆がプラスの邪気を操ることができているからだ。俺に関しては神理ヴェリタスがあるから、モロにダメージを与える事ができている」


「成程――」


 ルシファーはそう言って何か考えていたようだけど――。


「特性じゃない?」


「確かにそうかも。でも考えていても仕方ないか。早いところ決着をつけよう。破壊神シヴァを発動されてしまったら何もできない」


「作戦会議は終わりか? ナリユキ」


「――いや、いっそ破壊行動止めてくれね?」


「それは無理な申し出だな。俺様は貴様と戦うのが面白いから、地上を破壊していないだけで、貴様との決着をつけたら俺様は全ての人間を地獄に葬り去り、あらゆる文明を破壊する。それが俺様の目的だ」


「――そうですよね」


 まあ、俺との戦闘中にあちこち破壊行動しなくなっただけマシか。


「少し本気を出すぞ? ナリユキ」


 黒龍ニゲルはそう言って口角を不気味に吊り上げた。同時にとてつもない邪気が解放され、パワーが膨れ上がっていく。これは実力を隠していただけなのか、破壊神シヴァの効果で強くなっているのか――。いずれにせよ、黒龍ニゲルが言った少し本気を出すという言葉に嘘はない。その影響でマーズベル森林の木々がなぎ倒されて、マーズベル山脈の山々がいくつか崩落している。ちょっと力を入れただけで俺の国の自然をめちゃくちゃにするのは止めてほしいよ本当に。上手くコイツを倒す事ができたら、青龍リオさんの美しき生命ヴィヴァ・ラ・ヴィダで元通りにしてもらうか。


「いくぞ。これは挨拶代わりだ。黒滅龍炎弾ニゲル・ルインフラム!」


 黒龍ニゲルがそう言って放たれた黒い炎がマシンガンの如く飛んでくる。しかしいつもであれば10m程の大きさなんだけど――。


「ほう――これを挨拶代わりか。冗談キツイな」


「ねえ、ナリユキ君。これ15mくらいあるよね?」


 ミクちゃんは苦笑を浮かべながら俺にそう問いかけてきた。


「その通りだな。ミクちゃん任せた」


「うん」


「いや、私に任せろ。巫女の力を持つミク・アサギのMPをここで大量に消費するのは惜しい」


 マシンガンの如く飛んでくる巨大な黒い炎の塊に立ち向かうルシファー。ルシファーが刀を振るうと全ての巨大な黒炎は消し飛んだ。


「いくぞアスモデウス」


「そうじゃのう。あやつばかりに出番を取られたくはない」


 青龍リオさんとアスモデウスさんはそう言い残すと力を少し開放した黒龍ニゲルに立ち向かっていった。もう二人は様子を見るのは止めたようだ。


 アスモデウスさんの共鳴シンパシーにより、青龍リオさんとアスモデウスさんの二人の動きは良くなっていた。しかし黒龍ニゲルには余力があった。一見二人が押しているように見えるが――。


「やられるな」


 ルシファーがそう言った途端。二人は黒龍ニゲルの黒刀の餌食となってしまった。青龍リオさんは肩から。アスモデウスさんは腹部から鮮血を散らしていた。


「こやつ底知れないのう」


「呑気な事を言っている場合ではないぞ。次の攻撃がくる」


「喰らってみろ。黒滅炎光線ニゲル・ルインリュミエール


 黒龍ニゲルはそう言って二人に指を指した。その瞬間放たれたのは俺を殺したアクティブスキルだった。黒い炎をまとった音が無い不気味な光線が二人の腹部を貫いた。


青龍リオさん! アスモデウスさん!」


「私行ってくるね!」


 ミクちゃんは急いで二人に治癒ヒールを行った。すっかりMPも体力も元通りのようだったが、青龍リオさんとアスモデウスさんは苦笑を浮かべていた。


「指先が光ったと思えば次の瞬間には腹部を貫かれていた。天眼でも追えないとは出鱈目な速さのアクティブスキルだな」


「避け方も防ぎ方も分からんのう」


「あのアクティブスキルは対象を指す必要がある。その瞬間から防衛スキルを発動するしかない」


 ルシファーがそう呟くと、「それは納得じゃな」とアスモデウスさんは頷いていた。


「悪いが私でもあの攻撃は放たれた時点で防ぎようがない」


「それは私も同じ」


 ルシファーの意見にミクちゃんは同意していた。それほど黒滅炎光線ニゲル・ルインリュミエールというアクティブスキルは速いスピードで襲い掛かってくる。そりゃ、バテバテだった時に放たれたら命奪われるわな。


「どうした? その程度か二人とも」


「いいだろう。余の全力を持って貴様を倒そう」


「望むところじゃ。我、魔族における最大の力を発揮せん。我が道を阻む者総て破壊の対象となる。真紅の瞳が紅桔梗べにききょうの瞳に変わるとき、あらゆる邪気を我の力とせん」


 魔真王サタンを発動したアスモデウスさんの瞳は、真紅から紅桔梗べにききょう色へ変化した。そして、アスモデウスさんの魔真王サタンの効果で黒龍ニゲルの邪気もルシファーの邪気も、アスモデウスさんの方へと掃除機のように吸い込まれていた。


「人の邪気を勝手に力にするとは、とんでもない魔真王サタンだな」


「其方も開放すればよかろう。魔真王サタンを発動せずに勝てるような相手では無い」


「いや、私まで発動すると終盤の戦況が不利になる。ユニークスキルを使おう」


 お! 皆やる気を出してきたな。これは俺もギアを入れないとな。


「やっと魔真王サタンを発動したか。少しマシな戦いができるな」


 黒龍ニゲルはそう言って不敵な笑みを浮かべていた。「かかって来い」と言わんばかりのをしていた。


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る