第494話 最強の美女転生者の挑戦状Ⅳ

「ジャンヌ・ダルク。19歳で火刑に処されたフランスの救世主。確か神の声が聞こえたんだよな――」


「そうよ。でもこのスキルだと貴方が有利なだけ。とてもじゃないけど、神理ヴェリタスを持っている貴方と戦えるようには思えない。対等に戦うなら私とは違うZ級になればいいだけの話」


「違うZ級?」


「そうよ。見てみたいでしょ?」


 デアはそう言ってきたが俺は正直見たくない。デアが戦った事があるZ級――。一体誰になるんだ――。


 次の瞬間現れたのは、紫色の長い髪色をした女性だった。妖艶な雰囲気を纏っているのは、何も豊満な胸を強調するかのように、胸元が開いた和服を着ているからではない。アスモデウスさんと同様の色気を放ちつつ、龍族というステータスが圧倒的な存在感を演出しているのだ。そして稲妻のようなギザギザの紋様で、宝石のように輝くこの眼。忘れもしないこの天眼に似た眼は冥眼――。


「冥龍オルクス――!?」


 俺は思わず声を上げて驚いてしまった。すると、ミクちゃんはステータスが視えなくなっているのだろう。「本当に!?」と俺に問いかけてきた。


「冥龍オルクスって名前で女性の姿をした龍だと思っていたぜ」


「そう。基本的に龍族にオスもメスも無いけど、オルクスに関しては女性の姿をしているわ。最も、私のほうが強いからオルクスの姿を使うメリットは、私でも使えないこの冥眼を使える事よ」


「成程」


 冥眼――。地下世界アンダー・グラウンドに棲息する魔物の一部しか使えない特殊な眼。俺がゾークと戦った時に苦戦した眼だ。あの時使われた冥眼の能力名は今回で分かった。返痛ペイン金縛バインド除去デリート強化パワー抑制コントロールの5つ。さらには、幻影イリュージョン無効インバリッド透明ステルス時空スリップなどの能力を扱う事ができる。どの作品でもそうだけど、眼に備わっている能力凄すぎるんだよな。特に俺が厄介だなと思うのは、時空スリップだ。この能力は時空間移動できるという面倒くさい能力だ。対象を時空間に飛ばすことができる能力らしく、自分が時空間へ逃げたり、敵やスキルを時空間へ飛ばすことができるらしい。ゾークはこんなスキル使ってなかったけどな。


「ゾークと戦っているから冥眼が強力な事は知っているよ」


「そうか。ならば遠慮なく使わせてもらうわ」


 オルクスの姿をしたデアは、魔刀ハデス冥覇斬めいはざんの斬撃が飛ばしてきた。神樹の宝刀セフィロト・スパーダに関しては、デアはオルクスの姿になっているからスキルが消滅している。だから刀を出現させるスキルは魔刀ハデスのみ。てか、オルクスが魔刀ハデスを使えるのは正直意味分からんがあまり気にしないでおこう。


 まあ、ゾークの時にはステータスが分からなかったけど、今俺は神理ヴェリタスがあるのでどんな理由があっても、ステータスの確認もできるし無効系統の能力を無効にできる。つまり、俺の前では無効インバリッドの効果は無効になる。


 ただ厄介なのはやはり天衣無縫オーディン――。


 俺は冥覇斬めいはざんの攻撃を受けながらも、天を穿つ者エンデュアーを放った。


「そんな事もできるの!?」


 デアはそう驚きながら天を穿つ者エンデュアーのエネルギー弾を避けた。


 天を穿つ者エンデュアーは込めたMPによって弾の威力も攻撃範囲も変わる特殊な銃。普段撃つときは普通の弾丸に少しのエネルギーが纏われている攻撃。そして、先程俺が撃った上位アクティブスキルと同等の威力があるエネルギー弾は、同等の実力を持つ相手でも、パッシブスキルで銃弾の強化バフがかかりまくった状態の為、敵の体を吹き飛ばす事ができるくらいの威力はある。流石のデアも攻撃をまともに喰らえば、体力とMPだけは一気に削られるからな。


 でも問題は何で避けたのかだ。避けるのではなく、未来が視えているのであれば天衣無縫オーディンを使えば、先程のように俺は天を穿つ者エンデュアーの弾をMPで装填する事はできなかった筈だ。


「貴方思った以上の曲者ね。まさか未来を変えてくるとは思わなかったわ」


「未来を変えた?」


 俺がそう言うとデアはさらに驚いていた。


「貴方無意識だったの!?」


「俺は最初避けようとしたけど――」


 俺は最初攻撃を避けようとした。避けて再び天を穿つ者エンデュアーで背後から攻撃をしようとした――。


「成程。そういう事か。仮説はできた。あとはもう一度立証するだけ。アンタの天衣無縫オーディンにも弱点はあったんだな」


「私の天衣無縫オーディンの弱点?」


「ああ。そうだ。まあ気にせず戦おうぜ。天衣無縫オーディンどんどん使って来いよ」


 俺がそう言うとデアは「いいわ」とクールな表情を見せた。でも天衣無縫オーディンの弱点と聞いて少し焦っているな。それもそうだ。戦闘において、10秒以内までの未来をねじ曲げるなんてチートにも程がある。ましてや、黒龍ニゲルの時のように死闘を繰り広げてみろ。10秒で数千の攻防を繰り広げることが可能だ。それほど、10秒という時間は戦闘において長い時間なのだ。そんな無敵で隙の無さそうな能力の弱点と聞けば誰でも焦る。


 そしてそのチートスキル弱点はこうだ。そもそも天衣無縫オーディンはコピー能力が優れているだけで、天衣無縫オーディンそのものに未来を視る力はない。未来を捻じ曲げる場合は能力の同時使用が必要不可欠。そして、天眼の能力の中の一つの未来予知眼ヴィジョンアイは常に未来を視続ける訳ではなく、アクティブスキル系の能力。なので、未来予知眼ヴィジョンアイを発動するという工程が必要となる。


 であるならば、俺が避けようとしたした時の未来をデアは視ていたので、俺がデアの背後に回った時に、天衣無縫オーディンで俺の行動の未来を変えてカウンターを仕掛けようとしたのだ。しかし俺は、デアが未来を視た0.01秒後には、無意識のうちに作戦変更を行って違う行動を取った。やたらと体力の疲労は激しいが、攻撃を受けながら天を穿つ者エンデュアーで反撃というものだ。つまり、無意識のうちに作戦変更すれば、デアは天衣無縫オーディンで未来を捻じ曲げることはできず、己の肉体やスキルで俺の攻撃を防止する必要がある――。


 これが何を意味するか。


 神理ヴェリタスを持つ俺はデアに如何なる攻撃でもダメージを与えることができる。一方デアは俺に対して僅かながら体力を奪う事しかできない。そもそもスキルの優劣をおさらいするとこうだ。


 不滅イモータル神理ヴェリタス>神格化>あらゆる効果を無効化するZ級補正>無効インバリッド超越者トランセンデンス>無効系パッシブスキル>通常攻撃となる。あとは、これらの組み合わせ次第で攻撃を受けるか受けないかが決まってくる訳だ。デアが神理ヴェリタスがある俺に対抗できるのは、天衣無縫オーディンで俺の姿になること。つまり現状では体力とMPが大幅に削られた俺でも、デアと五分五分の勝負ができる訳だ。


 天衣無縫オーディンは俺次第で攻略できる。あとは、俺の体力の減りがやたら早い正体を突き止める事と、何故天衣無縫オーディンで俺に変身しないのかの疑問を突き止める事だ。正直俺に変身されたらマジで勝ち目ないからな。


 俺はそう考えると思わず苦笑していた。早く天衣無縫オーディンのコピー能力の解明をしないとな。



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