第485話 復活後の安息Ⅳ

 朝起きるとミクちゃんが、寝息を立てながら心地よさそうに眠っていた。


「こうした普通の生活いつぶりだろう」


 とは言っても油断はできない。黒龍ニゲルの行動は監視しておかなければならない。そう思い、頼むから千里眼オラクルアイで視えないようになっていてくれと思い、黒龍ニゲルの動向を探ってみた。


「映らないな」


 ふうと大きく息を吐いた。千里眼オラクルアイ黒龍ニゲルが映らないという事はまだどこかで体を休めている証拠だからだ。そりゃ安堵する。


「可愛いな――本当の天使みたい」


 ミクちゃんの寝顔があまりにも尊いのでそう呟いてしまった。


 俺は起き上がって部屋着に着替えると、昨日二人で飲んだミルクココアのマグカップを洗って朝食を作ることにした。いつもなら従者達サーヴァントに任せたり、カフェでコーヒーを飲みながら朝食を摂るけど、今日は無性にミクちゃんに料理を作ってあげたいと思った。


 ここ最近は不在の場合が多いけど、俺が帰ってきた時には冷蔵庫に食べ物を何点か常備させている。マーズベル湖のお魚。卵。鶏肉、豚肉、牛肉。あとは野菜類だ。お肉とお魚に関しては冷凍でいいと伝えている。お魚の解凍は、袋に入れた状態で氷水に二時間程付けていれば、鮮度がいいものであれば刺身にもできる。この解凍方法が魚の生臭さを含んだ水分。ドリップが少ない解凍方法だ。


 まあ、消費期限は冷凍をしていても三週間が限界だけど、魚によってはもっと短いものもある。


 今日の朝食は和食と洋食のコラボにしようと思っている。とろろの麦ご飯。お味噌汁。白身魚のバター焼き。オクラとイカの香草和えだ。


 現在の時間は朝の七時。ミクちゃんはしばらく起きないだろうし、魚をじっくり解凍している間にご飯を炊いて、長芋の下処理と和え物を作った。


 しっかり溶いた卵をすり鉢に入れて、その中にすろおろした長芋を入れる。卵と長芋をすりあわせると、みりん、しょう油、お出汁、塩を投入する。これで完成だ。


 和え物は下処理をしたそうめん状のイカとオクラをボウルに入れて、オリーブオイル、レモン汁、塩、ブラックペッパー、砂糖を少し入れて、刻んだ香草を加えてマリネしたら完成だ。完成した二つの料理は時間までに冷蔵庫で保存。


 また、お味噌汁は豆腐、玉ねぎ、ワカメをお鍋に入れて沸騰させたら完成の状態にしておく。あとは魚の解凍とご飯が炊き上がるのを待つだけ。


 二時間後、魚がしっかりと解凍できているのを触って確認したら、オリーブオイルを少々入れてフライパンに魚を投入。ある程度焼けてきたら大量のバターを投入して、フライパンを斜めにした状態にする。その状態で溶けたバターをスプーンを使って白身魚にかけ続けることによって、白身魚にバターの旨味を浸透させるのだ。これは動画を見て覚えたんだけど、目安は五分くらいらしい。けど、正直なところ感覚です。とイタリアン料理のシェフが言っていたから、イタリアンって本当にムラがあるよな~と思う。


 換気扇をガンガンに回していても使っているバターの量が多い事もあり、部屋にバターの香りが充満していた。


「ん――」


 ミクちゃんの声が聞こえた。後ろを振り向くとミクちゃんが目を軽く擦っていた。


「え!? 凄くいい匂い!」


 と言ってミクちゃんはカッと目を見開いた。


「おはよう」


「おはよ~。もしかして朝食作ってくれているの?」


「まあな。たまにはいいかなと思って」


「流石旦那さんだね。ありがとう」


 ミクちゃん。全裸でそんな事言わないで。なんか朝から色々と刺激が強すぎるのですが。


黒龍ニゲル・クティオストルーデは大丈夫そうなの?」


「今のところ千里眼オラクルアイでは映らないから大丈夫だと思う」


「そうか。黒龍ニゲル・クティオストルーデは一体どこに隠れているんだろうね?」


「そうだな。転移テレポートイヤリングも発動しないから、あいつが出てくるまで大人しくしておくしかないよな」


「そうだね~」


 ミクちゃんはそう言って上下の部屋着に着替えると、俺の隣まで来て作っている料理をのぞき込んできた。


「何これ凄い! 白身魚のバター焼き!?」


「そうだよ。よしこれくらいでいいかな」


 白身魚がいい感じの焦げ色になり、バターで身が全体的にツヤツヤになっていたので火を止めた。そして、お皿に大葉も盛り付けていく。


「ミクちゃんは座っていていいよ」


「私も手伝うよ。他に何かあるの?」


「冷蔵庫の中にとろろとオクラとイカの香草和えがあるよ」


「何それ凄い!」


 ミクちゃんはそう言って目を輝かせていた。


「旦那さんの手料理最高だね」


 吃驚するくらいのルンルン気分で俺が冷蔵庫に入れていた料理を並べていた。


「ご飯もよそってもらっていい?」


「勿論」


 ミクちゃんがお茶碗にご飯をよそっている間、俺はお味噌汁を用意する。そして全てがテーブルの上に揃ったので、俺とミクちゃんは席に着いた。


「では頂きます」


「頂きます」


 ミクちゃんの後に俺がそう続いた。ミクちゃんが始めに手を付けた料理は白身魚のバター焼きだった。


「なりゆき君プロみたい。凄く美味しい」


「本当はここにアンチョビを使ったトマトソースとかをかけてあげるとより美味しくなるんだけどな」


「それ凄く美味しそうだね」


「平和が戻ったらミクちゃんと二人で色々料理もしてみるか」


「それ最高だね」


 とミクちゃんは満面の笑みを浮かべていた。


 喋りながらミクちゃんの様子を見ていると、ミクちゃんは小声で「美味しい」と呟きながらとびきりの笑顔で俺の料理を食べてくれている。


「眩しいな」


「ん? どういう事?」


「何でも無いよ」


 俺がそう言うとミクちゃんは怪訝な表情を浮かべていた。そこもまた可愛い。





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