第470話 黒龍との死闘Ⅰ

 あれから戦い続けてもう24時間が過ぎようとしていた。


「人間は寝ずに戦えるものなのだな」


「正直集中力は少し切れているよ」


「それでも少しか」


 ニヤリと不敵な笑みを浮かべる黒龍ニゲル・クティオストルーデ。互いに大したダメージを与えることができず体力だけ浪費していた。


 黒龍ニゲル・クティオストルーデとの戦いはほんの少しでも気が抜けない。いや、気を抜いてしまったら殺されるかもしれないし、ここで俺が倒れてしまったらアードルハイム帝国は間違いなく壊滅する。せっかく俺がアードルハイム皇帝を潰して、新しいアードルハイムになり、国民の笑顔を見る事ができているのが現状のなか黒龍ニゲル・クティオストルーデに壊滅させられるなどあってはならない。


「流石の俺様も体力を浪費していると弱音を少し吐いておこうか」


「嘘つけ。ピンピンしているじゃねえか」


 俺がそう言うと黒龍ニゲル・クティオストルーデはニッと笑みを浮かべた。


「ナリユキ。貴様との戦いは俺様が今まで戦ってどんな戦士よりも強い。俺様を倒す手立てが無いとかほざきながら、これほど渡り合えるとは夢にも思わなかった。敬意に値する」


「それはどうも」


 黒龍ニゲル・クティオストルーデ。いや、黒龍ニゲルは俺の事をナリユキと呼ぶようにいつしかなっていた。敬意を払ってくれているのは間違いないだろう。


 ただ、怖い事が一つだけある。以前と比べて戦いを楽しんでいるので、破壊衝動は抑えられている。しかし、漫画やアニメのボスキャラがたまにするあの行動を取られると非常に厄介だ。それは戦いをさらに楽しみたいから、町を吹き飛ばして俺を怒らせるという事。そもそもだけど、俺がキレたところで黒龍ニゲルに勝てるかまた別問題だし、俺がキレたところで強くなるという根拠エビデンスは無いわけだ。


「戦いを楽しんでくれているなら、もう別に世界を滅ぼす必要もないだろ?」


 戦いを楽しんでくれているならそういう事だよな? と淡い期待を抱いてみる。


「戦いが楽しいのと破壊衝動は別だ。少し俺様の事について話をすると、生物には三大欲求というものがあるだろ?」


「食欲、睡眠欲、性欲だな」


「そうだ。俺様はそのなかに破壊欲というものがある。破壊衝動が抑えられているのは、今この瞬間を楽しめているからであって、貴様に張り合いが無くなればこの戦いもつまらないものになる。そうすれば破壊欲が込み上げる。前菜となるか主菜なるのかは貴様次第だ」


「しれっと物凄い脅迫だな。根本は変わらないという訳か」


「そういう事だ。貴様は俺様を倒すしかない。それはもう十分理解できているだろう? 中途半端では駄目だ。俺様を殺す気でないとな」


「そのつもりだよ。でないと痛い目を見るのは分かっているからな」


「ならば良い」


 黒龍ニゲルはニッと笑みを浮かべた後、殺意増し増しの目つきへと変貌していた。ただ、以前はただの破壊衝動で、黒龍ニゲルの目に映っていたのはただ快楽を求めているだけの殺意。しかし、今はその殺意の目のなかには俺に対しての敬意が宿されている。同じ殺意がある目でも意味が全く違う。


「いくぞ」


 そう言葉を残した途端、俺に向けて振り下ろされる黒刀。疲れている筈なのに何故か剣速が上がっている。そして俺もまた、黒龍ニゲルとの戦いに慣れたのか、驚くような速さと感じなくなっていた。何度も言うが驚くのは何故か上がっている剣速。ただそれだけだ。


 黒龍ニゲルの刀は変貌を遂げた時と比べて、軽々と受け止めることができるようになっていた。しかしまた逆も然りだ。俺の黒紅煉刀くろべにれんとうも軽々と受け止められる。死と隣り合わせの筈が、今はチャンバラのように軽い刀の打ち合いとなっていた。


 ただ、他の人からすれば異次元の戦いをしているのも頷ける。自分でも数えるのが面倒臭いと感じる程、黒龍ニゲルとの刀の打ち合いは凄まじい。1秒間で100回以上? いや、もう知らんって感じだ。まあこっちの世界に来て、あっちの世界ではできなかった事が軽々とできるようになったのも驚きだけど、ここまで異次元の存在に自分がなっているのも驚きだ。


 運が良かっただけと言える。死に際に想像したものを具現化できたらもっと生産性が上がるのにな。と思ってこの世界で授かったユニークスキルが、創造主ザ・クリエイターだった。このユニークスキルが無ければ、こんな短時間で強くなることができなかったのは間違いない。


 この化物には俺のユニークスキルが効かないのは事実だけど、俺がこの化物といい勝負ができているのもまた事実だ。そして自分でも恐ろしい事を言っているのは自覚しているけど、破壊衝動が収まっているこの化物との戦いを楽しいと感じている。


 黒龍ニゲルは元々容赦の無い生物。初めて戦った時に追い詰める事は少なからず出来ていた。殺戮の腕ジェノサイド・アームを使って黒龍ニゲルのMPを大量に吸い取って、あわよくば殺そうとしていた。しかし、その時に繰り出されたスキルは、俺達を本気で殺そうしたあの爆発だ。あの爆発で俺達の多くの仲間は命を落とすことになってしまった。


 その容赦の無さがこの刀の打ち合いで顕著に出ている。それもそのはず、刀で斬りかかって来たと思えば、口をパカッと開けて黒滅龍炎弾ニゲル・ルインフラムを繰り出してくる。


 純粋な刀の打ち合いに余裕は出来ているが、この強力なアクティブスキルをいきなり繰り出されるのは慣れてきた俺でも流石に焦る。


 そして、俺が避ける度に「やるな」と黒龍ニゲルは笑みを浮かべるのだった。



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