第469話 オロバスの力Ⅲ

 色々と試行錯誤してこの結界の破壊を試みた。アクティブスキルの悪の破壊光アビス・ディストラクション悪の爆風撃アビス・ブラスト紅炎放射プロミネンス・バースト死絶デスペリアのを使用。そして、アルティメットスキルの悪の混沌玉アビス・カオスボールを発動しても破壊する事はできなかった。また、転移テレポートイヤリングの使用も効力を発揮しなかった。


「これじゃあMPを消費しただけじゃのう」


「――驚いた。まさかあれ程のMPを使ってMP量は80%程余っている」


「生憎じゃな。正直なところベリアルよりもMP量だけは多いと思うぞ?」


「認めたくはないがそのようだな」


「これも地上で得た力のお陰じゃ。しかし困ったのう――」


「せいぜい熟考するんだな」


「せっかく閉じ込めているのに、味方の加勢をしなくてもよいのか?」


「必要ない。俺の部下は優秀だからな」


 オロバスはそう言って不敵な笑みを浮かべていた。こやつの言う通り、シトリーからの念話の連絡では徐々に戦力を削られているようだった。シトリーのような強力な戦士がいる訳では無い。ただ総合力と戦士一人一人の個人の能力。そして作戦が功を奏していた。


「結局は魔王同士の戦いになるのか」


 こんな事はあまり言いたくないが、結局のところ大将を倒すのには大将しかいない。理由は簡単じゃ。如何なる作戦を用いても、S級とZ級では次元が違う。S級がどれだけ理不尽な作戦を立てて、Z級に挑んでも無力化されてしまう。つまり、この戦は始めから無謀な挑戦なのじゃ。


 妾も、ルシファーも、バラム、プルソン、バエル、ヴィネの現魔王達。そして、旧魔王のベレトとザガンも然りじゃ。勝った魔王と言えば太古の昔まで遡り、旧魔王ベルゼビュートがベリアルに勝利したというのを、両親から聞いたくらいじゃからな。


「ナリユキ閣下であればこの状況を打破するのじゃろうか?」


 妾の愛しきナリユキ閣下であれば、この結界をどう破り、この戦況をどうひっくり返すのだろうか? ふとそう考え始めた。ナリユキ閣下はどんな困難な状況であっても諦めない。少々のトラブルがあって最初に考えた作戦で上手くいっている。そもそもそこが不思議なのじゃ。


 何故上手くいくのじゃ? 政治に関してもそうじゃ。失敗はしていると思うが、妾達のように何百回も何千回も失敗をしている訳では無い。ほんの数回の失敗で最善の選択肢を導き出している。そして今やマーズベルは巨万の富を得ている国の一つにまで成長している。元々マーズベルの資源は豊富じゃが、資源が豊富でも失敗する人は失敗する。妾もマーズベルの国営に自信があるかどうか問われたら、自信と不安の半々じゃ。食糧や鉱石が主な稼ぎになっている訳じゃが、その拡販をどうするか? というところだ。たった一年足らずで巨万の富を得ることができたのはナリユキ閣下だからこそじゃ。妾が同じところへ到達しようとすれば、一体何年かかるんじゃろうか? 


 いや、今はこの結界をどう打破するかだけを考えよう。普通に考えれば術者を何とかするしかないのは明白じゃ。そうするとシトリーに頼るしかない。


「シトリー。戦況はどうじゃ?」


《アスモデウス様! ご無事でしたか!》


 シトリーの声はどこか歓喜に満ち溢れた声じゃった。


「無事は無事じゃが少々面倒臭い事になってのう。戦況が悪くないのであれば妾のところへ来てほしいのじゃ」


《戦況は変わらずよくはありませんが、アスモデウス様の身に何かあったという事ですよね? 私の命はアスモデウス様の命でもあります。今からそちらへ向かいます》


 冷静なように見える声色じゃったが、内心はものすごく焦っているじゃろう。


「さっきも言ったように、オロバスに結界に閉じ込められてしまって、あらゆる手段を試したが出ることができないのじゃ。申し訳ないが其方がオロバスを倒してくれぬか? 普通に考えれば術者を何とかするしか無いじゃろう?」


《勿論でございます。お任せください》


「頼んだ」


 待つこと数秒後に現れたシトリー。


「お待たせしました」


「悪いのう。妾の力でもどうにも出来んのじゃ」


「この結界凄いMPですね――」


「そういう事だ。魔王アスモデウスの側近、シトリーだな?」


「そうだ。アスモデウス様を閉じ込めたのは貴様のスキルだな?」


「スキルではない。魔王ベリアルの血を引く者だけが許された特殊能力だ。そして、貴様は俺と戦いここで朽ちる。それが運命というものだ」


「アスモデウス様がいる前でそのような恥を晒す訳にはいかない。私が貴様ここで必ず倒す」


 シトリーはそう言って剣でオロバスを指した。一方オロバスは「ほう……」と不敵な笑みを見せている。正直なところ、シトリーと天才的に強いオロバスは互角以上の戦いを繰り広げる事になる。オロバスの将来性で言えば、ベリアルより強い存在になるかもしれない。そう考えると、今ここで倒しておかなければならない。


「勝つのじゃシトリー。其方なら勝てる」


「必ず!」


 そう言ったシトリーの目は何時になく燃えていた。妾を助けなければならないという想いと、久々に全力を出せる相手が目の前にいる。ましてや、オロバスは未来を見る事ができる。シトリーにとって相当手強い相手になる筈じゃ。


「言っておこう。俺の序列はベリアル軍では4位だ。俺を倒す事ができなければ、兄と姉にも勝てないぞ?」


「ヴァサゴとストラスの事だな? ストラスは戦った事があるので実力は知っている」


「そうか。それなら良かった」


 オロバスがそう呟いた後緊張が走った。


 一陣の風が二人の間を通り過ぎたと同時に二人は大地を蹴り上げた。


 シトリーVSオロバスの開戦じゃ。

 

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