第459話 死の雨Ⅲ

青龍リオさん!」


「流石の貴様でもそれほどのダメージを受けていればさぞ苦しいだろ?」


 そう言って不敵な笑みを浮かべる黒龍ニゲル・クティオストルーデ


「流石に効いたな。以前の余であれば死んでいたかもしれない」


 そう言った青龍リオさんの身体はみるみる再生していく。俺や黒龍ニゲル・クティオストルーデと同じ能力をいつの間にか習得していたようだ。


「自動再生だと!? 全盛期の貴様でもそんな能力は持っていなかったはず……」


「言っただろ? 冥龍オルクスの魂魄が余の中にあると――以前まで出来なかった事が、今では軽々とできるのだ」


「成程――それは張り合いがあって面白い」


「それにこんな事も可能だぞ?」


 青龍リオさんがそう言って黒龍ニゲル・クティオストルーデに手を向けた。


「MPの流れも何も感じない。一体何をしようとしているのだ?」


 黒龍ニゲル・クティオストルーデの質問に、「味わってみるとよい」と一言。


 青龍リオさんが手を握ると、黒龍ニゲル・クティオストルーデが悲痛の声を上げていた。一体何が起こったというのだろう――。


「再度臓器を潰した。流石に心臓を潰すことはできなかったようだがな」


「舐めた真似をしてくれる……」


 ぜえぜえと息を切らして、青龍リオさんの事を睨めつける黒龍ニゲル・クティオストルーデ。それ、S級の人にやったら一撃必殺なんじゃ――。しかもそんな大技を出したにも関わらず、青龍リオさんのMPは全く減っていない。


「これを連続で行うと、どうなるか分るよな?」


「貴様……!」


 臓器の破壊、自動再生での修復。俺達の自動回復は自身の体力によって回復速度が変動する。あんな攻撃を仮に受け続けてしまったら、どんな奴だろうといずれ死ぬ。


 青龍リオさんが再度手を向けると、黒龍ニゲル・クティオストルーデ青龍リオさんの後ろに回り込んで攻撃を仕掛けた。あそこでどこかへ逃げずに、あえて攻撃手段を選ぶなんて、一体どんな思考しているんだよ。でもまあ、後ろに回り込めば、視界にも映っていないから、攻撃を防ぐことができるのでは? と考えたのだろう。


 案の定、青龍リオさんは黒龍ニゲル・クティオストルーデに斬り付けられた。が――またしても。


「偽物だと!?」


 黒龍ニゲル・クティオストルーデは周囲の気配を探っていた。


「チッ――」


 そう舌打ちをして見上げた黒龍ニゲル・クティオストルーデ。奴が見ている上空には青龍リオさんの姿が――。


「喰らうがよい」


 青龍リオさんがそう言うと再びもがき苦しむ黒龍ニゲル・クティオストルーデ。まあどうせ再び臓器も再生するんだろうけど、苦しみが長くなってきているのは確かだ。まあそうじゃないとおかしい。臓器が破壊されたのはこれで三度目。異常な回復速度を持つ黒龍ニゲル・クティオストルーデが、俺より少し遅いくらいの回復速度になっている。相当なダメージを負っているのは明らかだ。


 また、青龍リオさんが手を向けただけで臓器などを破壊するアクティブスキル? まあ、あんなに連発するくらいだから、アルティメットスキルでは無いだろうけど、そのスキルをどうやって避けるかを攻略されていない以上、青龍リオさんが圧倒的に有利だ。一番大きいのは、その強力なスキルと、鏡花水月きょうかいすいげつの組み合わせだ。


「何度も味わってもらう」


 青龍リオさんがそう何度も、手を向けて握るだけで臓器を破壊するアクティブスキルを連発した。あの黒龍ニゲル・クティオストルーデがこれほどまで苦しんでいる――と同時に、俺は黒龍ニゲル・クティオストルーデが何かをしでかしてきそう――という可能性に、ただならぬ恐怖を感じていた。本当にこの攻撃だけで終るのだろうか――?


「――妙だな」


 青龍リオさんは息を切らしながらそう呟いた。


「何が妙なんですか?」


「奴の寿命が全く変わらない」


 青龍リオさんがそう答えくれた。確かに変だ。普通に考えれば強力な攻撃を受け続けると、死が近いという判断をされて寿命が縮まっていても可笑しくない。寿命と死は直結していないという事か? いや、そんな訳ないよな。イコール関係にならないと可笑しい。じゃあ何故だ? まさかあれだけの攻撃を喰らって、寿命が縮まるに値しないと言う事か!?


「致命傷の攻撃を与え続けていれば、寿命が縮まるという論理は俺も同意です。だから、俺としてはこうとしか考えられないんですよ」


「だな。恐らく余と考えている事は同じだ」


 青龍リオさんがそう言ってこの戦闘で初めて冷や汗を流していた。大量にあった青龍リオさんのMPも、このバテ方からして、半分前後になっている事だろう。


「マズイですね――とは言っても、俺と奴の相性は最悪ですからね。攻撃手段は黒紅煉刀くろべにれんとうのみ。ユニークスキルが効きませんからね」


「分かっている。だから余の算段では、さっきの水心握すいしんあくで、何とか体力を削り切り、ナリユキ殿の攻撃でフィニッシュを決めてもらう予定だったが厳しそうだな」


  青龍リオさんはそう言って苦笑を浮かべていた。対して黒龍ニゲル・クティオストルーデを見ると、不気味に口角を吊り上げて笑っていやがる――。


「確かに対個人では相当腕を上げたようだ。忌まわしき2,000年前のあの時。龍騎士がいなくても。その実力であれば俺様に勝つことはできただろうな」


 そうなんだ――! つか、青龍リオさんそんなに強くなっているのかよ。確かにMP量可笑しいもんな。俺だったらほぼすっからかんのMPになってるもん。龍ってだけあって元々のMP量は桁違いだもんな。それに冥龍オルクスの魂魄が宿ったことにより、さらに多くなっているし。


「しかし残念だな。貴様が俺様に与えたダメージが、この国の人類を滅ぼす事になるのだから」


「おいちょっと待て! 一体何をする気だ!」


 俺の呼びかけに何も答えず、ただただ不気味な笑みを浮かべる黒龍ニゲル・クティオストルーデ。野球ボール程の大きさをした黒い炎の塊から、無数の黒いレーザーのようなエネルギーの塊が、無情にも地上へと降り注いだ。その1つ1つの威力は、ミクちゃんが大勢を相手にするときに使う、無限の光線園インフェニット・レイガーデンの数十倍の殺傷能力、スピードがある強力すぎるスキルだった。


 俺は防御系のスキルが無い。青龍リオさんも疲労で判断能力が鈍っている。故に許してしまった地上への攻撃は死の雨と化した。

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