第458話 死の雨Ⅱ

「ぐぬうううう――」


 そう唸っている黒龍ニゲル・クティオストルーデ。俺の攻撃は相当効いているようだ。


「何故貴様等2人の攻撃をこの俺様が――」


「残念だったな黒龍ニゲルよ。余は地下世界アンダー・グラウンドにいる冥龍オルクスの魂魄を授かった。故に、常時プラスの邪気とマイナスの邪気を扱うことができる。つまり余は如何なる攻撃でも、魔族と同様に、邪気を込めた攻撃が可能となった訳だ。冥龍オルクスは地下世界アンダー・グラウンドにいるZ級の魔物。流石に貴様程ではないが、なかなかの邪気を持った龍のようだ。それに冥龍オルクスの魂魄が余に訴えかけてくるのだ。強力な邪気を持った龍は二頭もいらないとな」


「随分と言うようになったな青龍。強くなったからいい気になっているのか?」


 と、明らかに怒り口調の黒龍ニゲル・クティオストルーデ。まあ俺が切り落とした左半身はもう戻っているけどな。


「面白い。俺様本気で怒らせてしまったら、この国は一瞬にして滅ぶぞ?」


「そうはさせない。こちらが攻撃の手を緩めなければ良いだけだ」


 青龍リオさんはそう言って人間の姿に変えた。黒龍ニゲル・クティオストルーデも同様に人間の姿となる。


「体が大きいと、ナリユキ殿の斬撃を避けることが困難だろうな。その姿で正解だ」


 本当に煽るなこの人――。前回もだけど黒龍ニゲル・クティオストルーデと戦っている時、いつも以上に煽っているんじゃないか?


「生憎帝都は自然が少ない。貴様がより強力な力を手にすることもなければ、自動再生が無い貴様など、俺様の火力でねじ伏せてやる」


 黒龍ニゲル・クティオストルーデはそう言って、相変わらずデザインがやたらと格好いい黒刀を取り出して、俺達に刃先を向けてきた。あの刀折った筈なんだけど何で同じのがあるんだ? 


 ――まあいいや。


「来い」


 青龍リオさんがそう言うと、ゴウ――という暴風のような轟音を立て、空気中に黒い雷を走らせながら姿を消した黒龍ニゲル・クティオストルーデ


 天眼でも追うのがやっとのスピード。


 ガキン――。


 黒龍ニゲル・クティオストルーデの黒刀を受け止めた青龍リオさん。しかし青龍リオさんの表情はかなり険しいものだった。


 俺は黒龍ニゲル・クティオストルーデに斬りかかり、応戦しようと試みたが――。


 以前も出した攻撃だ。黒龍ニゲル・クティオストルーデが左手を振り払ったと思えば、その場の空間が引き裂かれて、そのまま斬撃が飛んでくるというアクティブスキル。お陰で俺は足止めを喰らってしまい、力負けをした青龍リオさんは左肩を斬り付けられてしまった。


青龍リオさん!」


「問題ない」


 青龍リオさんは冷静にそう言って黒龍ニゲル・クティオストルーデから一度距離を取ったと思えば、その青龍リオさんは姿を消した。


「どうなっている!?」


 そう呟いた黒龍ニゲル・クティオストルーデと同じ意見だ。一体何が起きているんだ?


「余はここだ。黒龍ニゲルよ」


 青龍リオさんはいつの間にか、黒龍ニゲル・クティオストルーデの後ろを取っていた。そしてそのまま、青龍リオさんの青龍偃月刀が黒龍ニゲル・クティオストルーデの腹部を貫通した。


「何だと……!?」


 黒龍ニゲル・クティオストルーデはそう言って吐血をした。青龍リオさんは身動きがとれない、黒龍ニゲル・クティオストルーデの背中に触れるなり――。


「今の余なら貴様にアクティブスキルが通用するからな」


 そう言って不敵な笑みを浮かべる青龍リオさん。


「味わうといい。水膨破ハイドロ・クラッシュ!」


 この技は、体内にある水分を膨張させて、内から体を破壊するという恐ろしいアクティブスキルだ。この技を喰らった黒龍ニゲル・クティオストルーデの体内から、バン! という爆発音が聞こえた。どれほどの量が体内で爆発したのか不明だが、肌艶が無くなっている。それに少し痩せたようにも見える。


 ぜえぜえと息を切らす。黒龍ニゲル・クティオストルーデ。今の攻撃で臓器もいくか破壊できた筈だ。


青龍リオさん。俺と奴は青龍リオさんが斬り付けられたように見えたのですが――」


「ああ。余は2人共に鏡花水月きょうかいすいげつをかけていた。以前は奴に通用しなかったが、冥龍オルクスの魂魄のお陰で通用するようになったな。ナリユキ殿にもやはり効いていたか」


「俺もそういう系統効かない筈なんですけどね」


「そういう事だ」


「冥龍オルクスの特性か何かですか? 天眼のスキルが大幅にアップしているの分かるのですが――」


「スキルに関しては今は言えないな。黒龍ニゲルがいるからな」


「成程」


 冥龍オルクスの魂魄を授かった事によって相当な実力を付けた青龍リオさん。洗脳系統の効果を無効にする効果を付けていた場合、この戦闘はかなり有利になる。


「厄介だな……」


 珍しく弱気な発言をした黒龍ニゲル・クティオストルーデ。以前戦った時は、最後に俺が殺戮の腕ジェノサイド・アームでMPを吸い取った時に疲れを見せたくらいで、到底敵いそうになかった。しかし今は普通の攻撃だけ――何なら青龍リオさん一人で追い詰めることができている。


 いける。いけるぞ!


「ふざけた真似を!」


 激昂した黒龍ニゲル・クティオストルーデが放った黒い光。俺はその強烈な光に思わず目を閉じてしまった。それはまるで原子爆弾のような強烈な閃光。そして龍の咆哮ドラゴン・ブレスの比では無い轟音が聞こえた。


 俺が目を開けた時には、黒滅龍炎弾ニゲル・ルインフラムの数百倍の規模の黒い炎のエネルギー波が青龍リオさんがいた場所を襲っていた。これほどの攻撃範囲だ。避ける事なんて不可能に近い。それに黒龍ニゲル・クティオストルーデの攻撃だ。光の速さで飛んできたのは間違いない。何なら、俺が前に住んでいた世界では光の速さが限界だったが、こっちの世界では光を超える速さが存在する。俺の語彙力では到底表現することができないが、光の速さを捉えることができるのが、S級最上位の限界だ。そして天眼を手にすることで、光以上の速さの物体を捉えることができるが、攻撃発射と同時にあんな強烈な光が視界を覆ってしまえば反応が遅れて攻撃に直撃するのは当たり前の話である。俺でも避ける事が出来たかどうか危うい。


 お願いだ! そこにいる青龍リオさんも鏡花水月きょうかいすいげつであってくれ! そう願うばかりだった。


「流石に今の攻撃の光には貴様も目を閉じたようだな」


 貴様も? つまり青龍リオさんも目を閉じていたことは確定した。


 得意気な笑みを浮かべる黒龍ニゲル・クティオストルーデ。俺は固唾を飲みこんで、爆炎の中をただ見つめていた。


 数秒すると人影が出て来た。しかし出て来たのは顔も含めた右半身が吹き飛んだ変わり果てた青龍リオさんの姿だった。

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