第387話 アルボス城の調査Ⅱ

 まずは本のタイトルだ。新国誕生秘話と古来の森妖精エルフというタイトルだ。ページを捲っていると神と呼ばれる存在の森妖精エルフが東の国を築き上げたという話だ。当然ながらこの森妖精エルフはミロクの事を言っているんだろう。その神と呼ばれている森妖精エルフが、神秘的な力を使って、100の国を建国したという。


 そもそも100の国って別格すぎるな――。そんな森妖精エルフが目指したのは、人間と魔物の共存だ。ありとあらゆる種族が皆平等に手をとって生きていこう。そんな理想が書かれていた。まあ完全に俺がやろうとしている事そのものだよな。


 けれども、魔界から魔王の軍勢がやって来て、人間に扮した魔物が、地上の魔物を襲う事によって、人間と魔物との間に亀裂を走らせる。ただ、それに気付いた森妖精エルフは、見事に魔王の軍勢を退けた――という話だった。正直言ってそれほど重要ではない。が――本の文末に書かれているメモ書きが俺は気になった。


『我々は神を崇高し神に全てを捧げる。それが我々の役目である』と――。推測だけど、ミロクに全てを捧げるということで間違いないし、創世ジェスの創始者がミロクという何よりの証拠だ。


「何て書いているのだ?」


「神と呼ばれる森妖精エルフが、国を100個造ったという話だ。その神と呼ばれている森妖精エルフはミロクという森妖精エルフの始祖で間違いない。文末に我々は神に全てを捧げると書かれているから、ミロクが創世ジェスの創始者という事だな」


「神と呼ばれているのがミロクという人物とも限らないだろ?」


「じゃあスカーは、他に神と呼ばれている人物を聞いたことがあるか?」


「――青龍リオ・シェンラン様くらいしかいないな」


「だろ? ミロクを信仰している集団がいたらしいが、その集団こそが創世ジェスだと思っている」


「成程な。だとすると、創世ジェスにちょっかいをかけるのはかなりマズいんじゃなかったか?」


「そんなもん、3つのスキルに関する話を聞いた時からヤバいのは分かっていたから今更だよ。もう後には退けない」


「確かにそうだ」


「とりあえずそれをミク・アサギに渡しておいてくれないか?」


「ああ。分かってる」


 カルディアにそう言われて、俺はミクちゃんに本を渡しに行った。


「どうだった?」


「まあミロクが創世ジェスの創始者で間違いないって事くらいかな」


「それ、結構重要な情報じゃない?」


「まあ言われてみたらそうかも」


 まあ、多かれ少なかれミロクだろうなって思っていたから別に今更って気もする。単純に創世ジェスの創始者がミロクって断定――。


「よくよく考えたらミロクって断定していいのか?」


「何で今更?」


「この本の文末のメモ書きには、我々は神を崇高し神に全てを捧げる。それが我々の役目であるって書いているんだよね」


「絶対創世ジェスの幹部の誰かでしょ。これ見た? 何か書いているよ。右下に書いているから名前じゃないのかな?」


「legatus――この国の言語じゃねえな」


「ラテン語だよね? 多分――」


 俺はそうミクちゃんにそう言われて再度読み上げてみた。


「――なあ、これレガトゥスじゃね?」


「た――確かに。カルディアさんと戦った人の事だよね?」


「そうだな。まあラテン語が何で起用されているのかが謎なんだよ。元々俺達って普通に会話をしているけど、日本語でもなければ、英語でもない。イタリア、スペイン、ドイツ、中国、とまあ色々あるわけだし、こういう異世界ってルーン文字が使われていたりするけど、ルーン文字ですらないもんな」


「そうだね。それに不思議な事に、言語は統一されていて、主な言語が私達人間が使う言語だけど、他には竜語、魔人語、森妖精エルフ語みたいな感じで色々な言葉があるんだよね?」


「そうだな」


「そうなるとレガトゥスって男の人は転生者と森妖精エルフのハーフなのかな?」


「そうなるよな。一体誰が名付け親なんだろう」


「まあ今考えていても仕方ないし作業をどんどん進めていこう」


「そうだな」


 ミクちゃんにそう言われて俺は引き続き作業を進めた。そしてあれから数時間――。進捗率は40%といったところだろうか。まだまだ探さないといけない箇所は多いけど日も暮れてきたので、今日はここで野宿となる。


 俺は家を建てたけど、この辺りは電気もガスも水も無い。アルボス城で住んでいた人々は皆スキルを使って、電気、ガス、水道のライフラインを整えていたようだ。


「屋根があるだけで楽だな」


「今までの野宿とは快適さが違う」


 スカーとカリブデウスがそう感心していた。


「そうだろ?」


 俺が建てた仮宿は2階建ての洋館だった。無駄に大きいがそこは気にしない。水はカリブデウスの自然水ミネラルウォーターがあるし、スカーが持っている火のスキルがあれば何とでもなる。


 そして食料に関しては、カルディアがその辺りにいる魔物を狩ってくれたので、それをミクちゃんが手料理をして3人に振舞った。肉と野菜だったたけど、ミクちゃんの手が加わることによって最高の塩焼きができた。何でそんな料理ができるかって? 調味料に関しては転移テレポートイヤリングを使ってマーズベルに戻るというズルをしたからだ。


 料理も食べ終えてからの残業タイム。5人で見つけた資料に目を通す作業が始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る