第388話 研究施設Ⅰ

 ビアーズと話をしたあの夜。直ぐに行くという話だったが、より高度な潜入ができるように2日後の夜にここ来ていた。と、いうのもパラシュートの練習をしていたからだ。何かあったときの為にとレイが予め用意をしていたらしい。


「とうとう来たわね」


「この日をどれだけ待ち望んでいたことか――」


 俺はエヴァの言葉に同意した。地上からの潜入が難しいのであれば、空から行けばいい――というレイの提案だ。そして背中にあるバックパックという背負う事ができる鞄から、パラシュートというものを使って降りるらしい。何度か練習したので、レイはもちろんの事、アリス、フィオナ、エヴァ、シュファ、カルロータ、ランベーフも準備はバッチリだ。


「いいか? 作戦通り中央の屋根がある発煙筒を目指して着地するんだ」


 レイの作戦では、巨大な八角形のドームのような建造物の中央の屋根に着地しようとのことだった。


 現在は北、東、西と警備がされているが、唯一南側だけは警備員が配置されていないらしい。なので、後ろを振り返らない限りはバレないという事になる。というか夜なので基本的には気付かれないと思う。


 しかし、それだと発煙筒が目立ちそうだが、設置場所の屋根の部分はちょうど周りより低い場所にあるので、発煙筒が気付かれることはまず無いとの事だった。


「まあこの作戦は最善やな。俺が空飛んでいたら目立つやろうし」


「練習したとは言えドキドキするね~。それにウイングスーツも着てる! めちゃくちゃ感動!」


「確かにミリタリー映画でしか見たことが無いからな。まさか異世界でオスプレイからパラシュートを使って飛び降りるとは思わなかったし、ウイングスーツを着るとも思ってなかった」


 ランベーフ、シュファ、カルロータがそう意気込んでいた。ウイングスーツという奇妙な物にも着せられていた。このスーツは風の抵抗をより抑えることができる代物らしい。大きく広げると、鳥の翼のように広がる変わったデザインの服だ。


「お空から飛び降りる何てワクワクしますね」


「あたしも緊張とワクワクが半々」


 マーズベル組は割と呑気だった。アリスに至っては好奇心しかないようだ。


「それでは降りる。ついてこい」


 レイはそう言ってゴーグルを付けて飛び降りた。その次はエヴァが躊躇なく飛び降りる。ここは高度3,000m程あるらしいが、そんな所から飛び降りて無事の技術なんて、俺達の世界では物理攻撃無効Ⅴのスキルがついていないと無理な気しかしかないが、このパラシュートというのは風船のような傘をしたものを展開して、空気抵抗を利用して減速し、安全に着地する代物らしい。正直、転生者が来た世界の発明品は素晴らしい物ばかりだからな。


「よし。いくか」


 俺もオスプレイから飛び降りた。初めて見た時は勿論感動したのものだ。空ってこんなに素晴らしいのか! と。それに何度も見ても空から見下ろすこの世界の地上は素晴らしい。広大な森もあるし湖もある。そして北側にはマルーン共和国の都市も見える。遠くでやけに灯りが集合してるのは民家の証だ。


 俺はそう思いながら真っ逆さまに落ちていくと、遠くに火花を散らしている発煙筒が見えた。俺はレイがパラシュートを開いた高さあたりで俺もパラシュートを展開した。


 使い方は簡単だ。パラシュートの本体を空に放り投げてバックパックに付いている金具を抜くだけだ。そうして俺は無事にパラシュートを展開することができた。あとは操作をしながら目的地を目指すだけだ。


 レイとエヴァが先に着いていた。そこで空を飛んでいる俺達を見守ってくれているが、高度30mとかになっているのでもう誰も死ぬことはない。


 無事に皆が到着するとレイはどこか安心した表情を浮かべていた。


「よし、皆無事に着陸できたな」


「ものすごく楽しかったです!」


 と、満面の笑みを浮かべているアリスを見ていると緊張感という概念が無くなりそうだ。レイに関してはヤレヤレと溜め息をついている。


「まあ無事で何よりだ。強大な相手がいるのが予測されるなか、欠員が出てしまっては任務をこなせる可能性が低くなってしまうからな」


 だよな。レイが人の命の心配をするはずがないよな。


「アリス。入れそうなところはあるか?」


 レイの言葉にアリスは「そうですね~」と言って白い鉄の屋根をまじまじと見ていた。青の瞳ブルーリー・アイズを使って、降りるところに敵がいないかを確認しているのだ。


「あ、この辺り倉庫みたいなところがありますね」


 アリスがそう言って止まった場所は、着陸地点から東に40m程離れたところだ。


「この倉庫には敵はいないようです。入りましょうか?」


「よし。入ろう」


 レイはそう言って屋根に触れるなり、何のスキルを使ったのか分からないが、人が一人分入れる程の穴を空けた。


「本当に潜入に特化しているな」


「俺がいればどんな所でも入ることができる」


 レイはそう言って穴の中に入って行った。俺達もその穴の中に入るなり辺りを見渡す。


 辺りにあるのは木箱が置かれている30㎡くらいの空間だった。箱の中に一体何が入っているのか気になるとこではあるが――。


「恐らくここはF地点だな。子供達がいるB地点まで向かうぞ」


 レイの指示に俺達はコクリと頷いた。どういう結果が待ち望んでいるかは分からないが、救い出せる命があると信じて突き進む。

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