第381話 アルボス城での激闘Ⅴ

「ったく。殺されるかと思ったよ」


 そう声が聞こえた。この特徴的な声はLエルだ。


「もう帰って来たのか」


「お陰様でね」


 地獄から生還してきたLエルはそう息を切らして俺達の元へと戻ってきた。LエルIアイの右隣に移動した。


「随分とやられたみたいね」


「お陰様でね。ただ、魔王と戦った事がある僕からすれば彼の魔界の扉イビル・ゲートはまだ温かったさ」


「不屈の精神力は魔界で鍛えられたって言ったものね」


「ああ。そうだね。ただまあ疲れたよ。精神崩壊していないだけで精神そのものはボロボロだ。やっぱり魔界の扉イビル・ゲートは絶対に喰らいたくないスキルだね」


 何!? 奴は魔界そのものに行った事があるのか? 俺ですら行ったことが無いのに――。


「魔界に行ったことがあるのか?」


「まあね」


「誰と戦った事があるんだ?」


「魔王プルソンだよ。知っているかな? この世界で住んでいると魔王の情報なんてベリアルとルシファー。あとはこの世界で国主をしているアスモデウスくらいしか聞かないから知らないと思うけど」


「確かに知らないな」


 俺がそう言うと「でしょ?」とLエルが返してきた。確かに魔王との戦闘経験があるのであれば、魔界の扉イビル・ゲートの攻撃に耐えることができるだろう。ったくワイズといい、コイツといい魔界の扉イビル・ゲートで相手を完全に戦闘不能にするのが難しい。運が悪いな本当に――。


「これじゃあ埒が明かないな。本気を出すか」


 俺がそう言うとLエルが「どういうことかな?」と訪ねてきた。対してIアイは「ホラを吹くのも大概にしてほしいわ」と呟く。


「コレを使うと動けなくなるからな。それに上手く使いこなせないんだ」


「――まさかアレを使う気か!?」


「それは我等も巻き込まれる可能性があるという事だな……」


 スカーのあとにカリブデウスがそう呟いた。まあ無理もないだろうな。俺はこれで一度2人を殺しかけている――。


「でもどうせこのままなら拙僧達は死ぬ。ならばカルディアに頼ったほうがいいだろう」


「そうだな」


 そう言ってカリブデウスはスカーを背中に乗せて上空へと避難した。


「まさか僕とIアイの2人を相手にするんじゃ?」


「そのまさかだ。まあ見ていろ」


 俺は目を瞑り詠唱を唱えた。いわゆる魔族語だ。


「何て言っているの? Lエル分かる?」


「魔族語だね――何て言っているかは分からないよ」


 Lエルはそう言って俺の事しばらく見ていた。俺はこの詠唱を唱える事によって1つの力を手に入れることができる。魔族の特性ってやつだ。聞いた話では魔王クラスの魔族しかできないらしい。ナリユキ閣下のところのベリトや、カーネル王国のクロノスも使えない筈だ。


 そして魔族語の詠唱の意味はこうだ。


『我、魔族における最大の力を発揮せん。我が道を阻む者総て破壊の対象となる』


 ここまでが使える魔族全員に共通する詠唱だ。そしてここからは人によって変わる詠唱だ。


『闇の印が現れるとき、弱者の魂を食らい尽くし我の力とならん』


 俺がそう唱えるとLエルが「分かったぞ……」と呟いた。


「何が分かったの?」


魔真王サタンという魔族の特性だ。噂でしか聞いたことが無かったが、確か魔王クラスが使える特殊能力だ。だから鑑定士ではこの力があることは隠されている」


「そんな化物じみた特殊能力を、人間と魔族のハーフのあの子が持っているとでも言うの?」


「そういう事だろう。それに見てみろ。あの全身にあった紋様が顔にもある」


「――そうね。それに凄い殺気ね」


 そうだ。俺はこれを使うと全身の紋様が顔にも出てくる。それに髪もオールバックになるし、目もいつも以上に紅くなる。まあコレを使うと痛みとかは一時的に無くなるからいいけどな。


「待たせたな」


 俺がその一言を発しただけで、敵兵はバタバタと気絶していった。それに気絶した人間の魂は抜かれてしまい、俺の力の根源となる。


「な……何をしたの!?」


「恐らく彼の魔真王サタンの特殊能力だ。魂吸引ドレイン・ソウルのような効果を持っているのだろう」


「喋っただけで気絶して、その魂を自分の力に変換ってこと?」


「だろうね。正直なところかなりヤバいかもね」


「気を抜いたら一瞬でやられてしまうわね」


 呑気に話をしているがいつでも襲ってもいいのだろうか?


「いくぞ」


 俺は両手を広げて2人の頭を地面に叩きつけた。距離? 確かに10m程はあったが、今の俺のスピードは龍騎士の剣速と同等だ。奴等は気付いたら気絶をしているといったレベルだろう。


「相変わらず化物みたいな速さだな」


「そうだな。理性はあるみたいだぞ」


 カリブデウスとスカーがそう感想を述べていた。確かに理性はあるがこれがいつまで持つか。


「死ね。魔真王の破壊光サタン・ディストラクション!」


 そう唱えると、俺の手からは赤黒い邪気と雷をまとった禍々しい闇のエネルギー光が放たれた。威力は悪の破壊光アビス・ディストラクションの数十倍らしい。普通に考えればアクティブスキルではなくアルティメットスキルばりの威力だ。消費するMPも半端じゃないからな。


 と、まあ地面に倒れている2人に向かって放ったので、当然地面は陥没した。大地は大きく揺れてアルボス城は崩壊を始める。それもそうだ。さっきの攻撃で隕石が落ちたようなクレーターを作ってしまっているんだからな。まあ中心部にいたあの2人は奈落の底に落ちていったが――。ヤバい。心臓食べないと情報分からない。


「一件落着だな」


 俺はそう言ってカリブデウスとスカーを見た。


「随分と派手にやったな。またこの世界の地図を書き換えるのか」


「そうだな……いや、見ろ!」


 スカーがそう指したので、俺はその方角を見た。すると奈落の底からは人陰が――。


「随分と派手にやってくれたね」


 そう言って出て来たのはクリーム色の髪の若い女性を抱えたライトブルーの髪をした青年だった。



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