第374話 再会のダヴィツⅡ
「ヒントはないのか?」
俺がそう問いかけるとダヴィツは首を左右に振った。
「この部屋は引き続き、手がかりを探しても問題無いわよね?」
「ああ問題無い。好きに探すといい」
ん? ということは何か他にも手がかりになるような事はあるのか? ヒントが無いのであればここには何も無いと言う筈だもんな。
「施設に行く手がかりをもう一度探そう」
エヴァの言葉に俺達は頷いた。辺りはすっかり暗くなってしまっているので、子供達数名が厨房で夕食を作っている頃だ。案の定スパイシーな匂いがする。それに人参や玉ねぎを鍋に入れてぐつぐつと煮ている。この匂いはカレーだな。
「見つけられないわね」
「本当ですね」
「どこか探していないところはあったっけ?」
そう言って床に座りながらヘトヘトの姿を見せている3人だった。
「勿論、ダヴィツさんの部屋はくまなく探しましたし」
「子供達の遊び場も探した」
「厨房も、物置、倉庫、屋根裏も探したわね」
アリス、フィオナ、エヴァの順番にそう呟いた。
「ん? 何だあれは? アリス、あの本に挟まっている紙切れに何が書いているんだ?」
俺がそう本棚の方向を指すと、アリスは「ちょっと待って下さい」と言って
「何か書いていますね」
アリスはそのまま本に挟まれていた紙切れを手に取った。
「ネイロン・ビアーズ。住所も書いていますね。この方は誰なのでしょうか?」
アリスがそうダヴィツに問いかけると、ダヴィツは黙秘を続けていた。
「そこはどこなのかしら?」
「マルーン共和国のリクスという場所らしいです。一旦行ってみるのはどうでしょうか?」
「その人がどんな人かすら分からないわよね? そもそも、ダヴィツと何の関係が分からない」
「確かに――でも答えないという事は施設の関係者ではないのでしょうか? ダヴィツさん。この方は施設の関係者ですか?」
「ち……違う」
ダヴィツがそう声を漏らすと、冷や汗を流しながらアリスを見つめていた。
「どうやら関係者のようですね。会いに行ってみましょう」
「それならば今から行く方がいいわね。仮にそこが家なら夜はいるでしょうから」
エヴァの意見に俺も賛成だ。行くなら今が良い。ただ、施設の職員も施設で住んでいる者が多くいた。上のクラスなら家に帰っている可能性はある。もしそうなら半殺しにしてやる。
俺達は二手に分かれた。子供達に気に入られたシュファ、カルロータ、ランベーフは院内に待機して、子供達と遊びつつ、ダヴィツの見張り役となった。
早速俺達はリクスという場所へと向かった。場所が分からないのでまずはマリ村の人間にリクスという場所を聞くことにした。再度教えてくれたのはダヴィツの情報提供をしてくれたあの男性だ。教えてくれた情報によれば、マリ村から30km離れた場所にあるらしい。それほど遠い距離じゃない。
俺達は早速オスプレイを使ってリクスへと向かった。勿論、エヴァの馬は孤児院に置いて来た。彼女だけを馬で移動させるのは酷だしな。
10分~15分ほどで着いて俺達はリクスの街へと入った。なかなか人通り多い都会だ。俺がもし孤児院にいたときなら、こんなところに連れて来られたら大喜びだっただろう。
そう思いながら街並みを眺めていた。綺麗な服を着た人に、外でお酒を楽しむ大人達。行き交う人が皆、幸せそうな表情を浮かべているように見えた。
「ここみたいですね」
アリスがそう言って立ち止まった。目の前にあったのは3階建ての一軒家だった。周りの家が2階建てが多い事を考えると、この家は周りと比べて少しだけ裕福なのだろうと感じた。
コンコンコン。そうフィオナが強めにノックするなり家の扉を開こうとした。案の定開かない。
「どうしますか? 一旦待ちますか?」
アリスの問いかけに「そうね」とエヴァが頷く。
「別に入っても構わないだろう。入れるなら入る。それが俺達の常識だ」
そう主張するのはレイだった。なかなか身勝手な集団だな――
「駄目よ。不法侵入になるわ」
「さっき孤児院に入っただろうが。同じことだろ」
「あれは、一応子供に聞いたからね」
フィオナとレイがそう言い合っていた。まあでも、院内に入ったのも全然駄目な気がするのは俺だけだろうか。あそこの持ち主はダヴィツだからな。
「とりあえず少し離れたところで待機しませんか?」
「そうね。皆お腹減っているでしょ? あたしが何か買ってきてあげるよ」
フィオナはアリスの意見に賛成した後、夕食を買って来ると言っていた。俺はこの体になってからはお腹が減るという概念が無いからな。食べても特に満たされるのは無い。
「フォルボス君は何かいる?」
「いや、俺は別にいらない。ありがとう」
「本当にいいの?」
「お腹が減るという概念が無いんだ。大丈夫」
俺がそう言うとフィオナの表情は沈んでいた。まあ同情をしてくれているんだろう。
そこからフィオナの買い出しが終わり、骨付き肉などを食していたところ、一人の男性が家の前に立ち止まった。
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