第373話 再会のダヴィツⅠ
「誰だお前達は――!」
そう怒号を散らしていたのが聞こえた。声を聞く限りでは尋常ではない怒り。その怒りに圧倒されてか、少女が泣いているのが聞こえた。そして、大きな足音を立てながら、俺達の方へ向かってくる。
扉が勢いよく開けられた。そこには俺が知っているダヴィツとは少し違っていた。数年会っていないだけで白髪が大分増えた。裸眼だったのに眼鏡をかけている。それに俺が最後に見た時とは違って随分と痩せているようだ。
「誰だ貴様等は――!」
そう言った後、エヴァが持っているノートを見るなりエヴァに襲い掛かる。手から出現させたのは
エヴァはそれを隠し持っていた短刀で受け止める。
「いきなり襲い掛かってくるなんて随分と焦っているわね」
「ほざけ――!」
「私達もいるんですよ?」
「そうだ」
そう言って威嚇したのはアリスとフィオナだ。彼女達は掌を向けて威嚇をしている。
「貴方も人間にしては相当な戦闘値ですが、ここで暴れるのは良くないでしょう?」
アリスがそう追い打ちをかけた。
「それに子供も見ている」
扉から顔を覗かせている子供達。シュファ、カルロータ、ランベーフがあっちに行こうと優しく声をかけて、子供達をこの部屋から遠ざけていた。
「思ったより華奢な男ね」
「昔はもっと体格は良かったがな。俺も見違えた」
俺がそう口を開くとダヴィツが一瞬固まった。
「その声――フォルボスか――!?」
俺はそれを聞いて一瞬固まった。何なんだその反応は――まるで再会を望んでいたかのような声色じゃないか――。
「良く分かったな。この外道」
俺がそう吐き捨てると、ダヴィツは涙目になっていた。
「ど――どういう事でしょうか?」
「わ――分からない」
アリスの後にフィオナがそう言って同意をしていた。エヴァに関してはダヴィツの様子をじっと見ている。
「良かった――! 無事でいたんだな!」
ダヴィツはそう言って俺に抱きついてきた。
は――? これは何だ? どういう事だ?
「無事な訳が無いだろ! 俺はお前のせいで亜人に変えられたんだぞ!」
俺は無意識にダヴィツを突き飛ばしていた。ダヴィツは壁にそのまま背中を強打していた。
「ふ――フォルボス君落ち着いて」
フィオナにそう言われたが俺は堪忍袋の緒が切れていた。許せるはずがない――!
怒りと同時にフラッシュバックした――。
施設に入れられてからは地獄だった。まずは魔物になるために必要な特殊な成分を注射させられた。熱も出るし、頭痛もする。眩暈と吐き気。そして下痢。酷い風邪のフルコンボのような副作用が俺を数日間襲った。その後は身体の様子を見る為に身体にメスを何度も何度も入れられた。
麻酔? そんなもの無い。あるのは壮絶な痛み。それを何日間か続けられた。未だに麻酔が出来なかった意味が分からない。俺からすれば、ただ痛がっている所を楽しんでいるだけにしか思えなかった。
「わ―わー喚くな」
「いやいや、なかなかいい声じゃないか?」
「趣味が悪いな」
「集中しろ。被検体が死んでしまうぞ」
そう言っていたのを思い出す。趣味が悪い――。ただ俺をそうした奴等の事を思い出せない。思い出すだけで吐き気もする。ただ、亜人という特殊な姿に変えられてしまったから、この姿になって吐くという概念が無い。人間らしさなんて有りはしない――。
「最近、エヴァンスが消えたそうだ。心当たりはあるよな? 俺と同じ所へ送られたんだろ? 答えろ」
俺がそう言うと光が宿っていない目で俺を見てきた。エヴァンスという言葉だけで生気が一気に抜かれたかのようだった。
「どうなんだ!? 答えろ!」
俺がそう言ってもダヴィツは首を左右に振るだけだった。何故答えてくれない!
「どうなったのかしら? 答えて?」
俺とは違いエヴァの声色は包み込むような優しさだった。膝をついて生気が感じとれないダヴィツを見て同情でもしているんだろう。けれど、何があろうと俺は許さんぞ。
「俺は亜人の姿に変えられた! それにあの実験内容だ! 死人も沢山出ているだろう! お前がやった事は極悪非道の外道だ!」
俺がそう言うとダヴィツは「ああ――そうだな」と力無く答えた。
「反省しているフリをしているだけだろ!」
俺がそう言うと「違う……」と応じた。
「嘘じゃないですよ。この人は本気で反省している。それにエヴァンス君の行方について、答えらないと言うのは本当です。私の
アリスがそう言った。確かにアリスの
「一体何がどうなっているんだ――」
「それも答えることはできない。ただ、反省しているのは本当だ。いっその事死にたいとすら思っている」
死にたい――ダヴィツからそんな言葉が出てくるとは思いもしなかった。何で? どうして? もうそれしか頭に思い浮かばない。奴は何を考えて――!
「無理に問い詰めても意味が無いわね。少なくとも彼は罪悪感で押し潰されそうになっている」
止めろエヴァ! 奴にそれ以上同情をするな――!
「私達で探すしかありません」
アリスがそう言うとフィオナは「そうね」と頷いていた。
「どうしても答えられないのか?」
「すまない……」
ダヴィツはそう言って頭を床に擦り付けていた。そのダヴィツの姿を見た俺は様々な感情が入り混じっていた。全てがグチャグチャだ……。
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