第333話 楽園Ⅱ

「メルム・ヴィジャさんがこの土の壁に聞けば分かるんじゃないですか?」


「確かに本物の土で出来ているなら大丈夫だが」


「確かに――さっきは樹でサウスを縛り上げていたもんな」


 と、ランベリオンが呟いていたけど、それに関しては相変わらず無視していた。メルム・ヴィジャとランベリオンさんとアマミヤさんが仲良くなる未来が見えない。


 メルム・ヴィジャが土の壁に触れると――。


「ご主人様。ご指示を下さい」

 

「何か思ったのと違う――普通に可愛い」


 土の壁には目と口がついていた。しかも土の壁は満面の笑みを浮かべている。


「この部屋には何らかの仕掛けがあるのか?」


「ええ。ありますよ」


「それはどのような仕掛けなのだ?」


「火を消すとこの国に関する書物が閲覧できます」


「だそうだ」


 そうメルム・ヴィジャが私達に話しかけてきた。


「火は簡単に消せるものなのか?」


「いえいえ。高い戦闘値をお持ちでないとこの特殊な火を消すことはできません。それに聖属性をお持ちでないと難しいです。普段、ここに来られる方は森妖精エルフか幹部の方なので」


 森妖精エルフ――。森妖精エルフがこんなところに来るんだ?


「ねえねえ土壁さん。その森妖精エルフってどんな人ですか?」


「これはこれは可愛いお嬢さん。森妖精エルフは数名いますよ。しかし名前をお出しすることはできません」


「我の命令でもか?」


 メルム・ヴィジャさんがそう質問してくれた。意外と気が利く魔物で助かる。


「ええ。大変申し訳ございません」


 土壁さんはそう言って申し訳なさそうな表情を浮かべていた。


「まあ良い。それで火は聖属性でどうやって消せばいい?」


「聖属性をお持ちの戦闘値が5,000以上の方であれば、あらゆる聖属性のスキルで火を消すことができます。但し、全ての火を同時に消さなければなりません」


「ミク殿なら問題無いな――というか、この中なら聖属性を持っているのがミク殿しかおらん」


「頼めるか小娘?」


 頼めるか小娘って――どんな頼み方!? というのはさておき、私は早速、松明の中心の位置についた。


 さて――。


 私は目を瞑って深呼吸を行った。同時に消さないといけないとなると少し集中力がいる。どれくらいの範囲の同時かは分からないけど、私が立っているこの位置が、寸分の狂いも無いど真ん中とは言い切れないので、スキルが火を消すまでの時間が僅差で出てくるはずだ。


天使の音アンジェラス


 私がそう唱えると火が一瞬にして消えた。このスキルは本来火を消すだけのスキルでは無い。そよ風のような衝撃波を発して相手を探知することができるスキルだ。その探知した周囲の人間の強さが分かる。まあ敵はいないようだね。


 効果範囲が半径20mってそんなに広くないからな~。


 ゴゴゴゴゴゴゴ――。


 そう音を立てながらここの空間が少し揺れた。感覚でいくと震度2くらいの揺れだ。それほど強い揺れではない。寧ろ音が強烈だ。


「何か出て来たぞ!」


「やったねミクちゃん!」


「凄いな――たった一発で凄い集中力だ」


「上出来だ」


 ランベリオンさん、アマミヤさん、フーちゃん、メルム・ヴィジャという順番で私を褒めてくれた。音がした後ろを振り返ると、壁から何やら土の台が出て来て、その上には巻物が出て来た。お城のような外観といい巻物といい、もしかして創世ジェスの幹部の中に日本が好きな人でもいるのだろうか?


「この字の感じ――鍾乳洞にあった石碑と同じね」


「確かにそうだな。全く読めない」


 ランベリオンさんとアマミヤさんがそう言っていたので、私もその巻物を見せてもらう事にした。確かに読めない――けどこの字はネットやテレビで見たことがある――。何だったかな――。


「我なら読めるかもしれない。貸してくれ」


 そう言われたので一旦メルム・ヴィジャにその巻物を渡した。


「分からん」


 思わずズッコケそうになった。分からんのかーい! とも言いたくなったけどキャラ崩壊しそうだから止めよう。


「この字は私も知らないな。どこの言語だ?」


 フーちゃんも顔をしかめて「う~ん」と唸っていた。分かるはずもない。だってこの字は私達の世界にあった言語なのだから――。


「ロシア、フランス、スペイン、ポルトガル……イタリア――ラテン語だ!」


 私がそう大声で叫ぶとランベリオンさん、フーちゃん、メルム・ヴィジャは首を傾げていた。


「何だその言語は? 聞いたことが無い」


「私も知らんな」


「勿論我も知らん」


 ランベリオンさん、フーちゃん、メルム・ヴィジャの順にそう感想を述べていた。


「どこかで見たことがあると思ったのはそれが理由ね。字が英語に少し似ていたのもその影響ね」


「ですね。でもラテン語って分かっても読めないんじゃ――そもそもこの世界にラテン語読める人いるんですか?」


 私がそう訊くと全員首を左右に振っていた。


「それこそQキューなら読めるのではないだろうか? Qキューがもし読めるのであれば、Qキューを倒してナリユキ殿が知性・記憶の略奪と献上メーティスを使ってラテン語を覚えるしかないだろうな。十賢者じゅっけんじゃにも考古学者がいると聞くが、生憎パイプが無いしな」


「ということはQキューを倒すのは避けては通れない道ですね。とりあえずこの巻物の写しを作りましょう」


 私がそう言うと、皆が「奪えばよくない?」と言ってきた。そんな4人一気に言わなくても――。


「この巻物が相手にとってもし貴重な物なら必ず取りにくる。それに戦力総出で来るかもしれない。さっきアヌビスに少しヤバい話を聞いたのよ」


「ヤバい話?」


 アマミヤさんがそう訊いて来たので私は「はい」と言って頷いた。


「敵はナリユキさんと同じように複数のユニークスキルを持っている人物かもしれないです」


「かもしれないか――根拠は何なのだ?」


 ランベリオンさんがそう訊いてきた。


 







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