第334話 古来の伝説Ⅱ

「敵は前提としてアリシアさんを狙っている。どうやら森羅万象アルカナの力を欲しているみたいなんです。その森羅万象アルカナをアリシアさんが胎児の時に渡した人物がいました。本来、ユニークスキルを渡すスキルなんて聞いたことないですよね? ただ、聞いたことがないだけで、そんなスキルが無いとは限らない。もしあったなら、そのユニークスキルを持っている人の実力が相当高い事が予測できます」


「確かにな――相当強いユニークスキルを持っていて弱い生物など聞いたことがない」


「ユニークスキルが大したことなくても強い人間や生き物はいるからの」


 ランベリオンさんの後にフーちゃんがそう同意をしていた。


「フーちゃんならこの話――というか伝説を知っているかもしれないですよね? 長生きしていそうだし」


「なんだ?」


森羅万象アルカナ天変地異アース全知全能ゼウスの話です」


 私の話でフーちゃんは「う~ん」と唸っていた。


「確かにいたな。前提としてその3つのユニークスキルは実在する。今となっては一部の者が知る伝説となっているがな」


 フーちゃんのその言葉に私は驚いていた。ランベリオンさん、アマミヤさん、メルム・ヴィジャは話が見えてこないので困惑した表情を見せていた。


「そうか!」


 フーちゃんはそう言って土の壁を見ていた。


「土の壁よ。森妖精エルフがこの空間に来ると言ったな!?」


「ええ」


「大ヒントだ! しかしもし奴がいるのであれば相当マズいぞ――」


 フーちゃんはそう喜んだり焦ったりと世話しない。


「どういう事?」


「その3つのスキルを有していた人物は実在していた。人々からは神と崇められていた」


「神?」


「また随分と話が飛んだな」


「この世界にも神はいたのね」


 私、ランベリオンさん、アマミヤさんの順番でそうリアクションをとるとフーちゃんは続けた。


「その人物の名前はミロク。東の国の多くを創った森妖精エルフであり、森妖精エルフの始祖とも噂をされている」


森妖精エルフの祖って何か凄そう」


 私がそう反応すると、ランベリオンさんは首を左右に振って「信じ難い」と声を漏らしていた。


森妖精エルフの祖って一体そのミロクという人物は何年生きているのだ。何万歳とかになるぞ?」


「そうね。でも重要なのはそこじゃない。森羅万象アルカナ天変地異アース全知全能ゼウスの3つの強力なユニークスキルを持っている事だ。もし本当にここにミロクがいるのであれば、遭遇する前に逃げた方がいい」


天変地異アース全知全能ゼウスはそんなに凄いスキルなの?」


 アマミヤさんの質問にフーちゃんは「そうだ」と言って頷いた。


天変地異アースで東の国を創り上げたと言われているくらいだ。確か自然災害を起こすスキルと聞いたことがある。豪雨を降らすことも大地を陥没させることも、火山を噴火させることも、津波を起こすこともできると聞いたことがある。全知全能ゼウスのユニークスキルについては正直よく分かっていないが、ミロクに会ったことがある人間は力を与えてもらったって言っていたな」


天変地異アース凄いわね」


「それが本当であればまさに神の力だな」


 ランベリオンさん、アマミヤさんがキョトンとしているなか、何故かメルム・ヴィジャだけは眉一つ動かさずにフーちゃんの話を聞いていた。


「あまり興味無いの?」


 私がメルム・ヴィジャにそう問いかけると――。


「そうだな。そもそも我はこの目で見た物しか信じない主義なのだ。確かにそんな力が本当にあれば手には負えないだろうが」


 と、割と現実的な考え方だった。確かに噂に左右されると、国同士が争うとなればなかなか動けないもんね。戦いにおいても相手のハッタリ左右されてしまっては勝てる相手も勝てないし。


「その力というのがユニークスキルの事なの?」


「そこまでは分からない。アクティブスキルを付与する事ができるのかもしれないしな」


「そもそもそのような森妖精エルフがいたことに驚きだ。それに森妖精エルフの始祖という話が本当であれば、何故マーズベルに森妖精エルフの始祖に纏わる石板や石碑がないのだ」


 ランベリオンの言う通りだ。始祖という存在がそこまで偉大であれば何か情報があってもいい筈――。けど森妖精エルフの楽園にはそれがない。いや? もしかして隠している? それとも気付いていないだけ?


「ミクちゃん。今考えても絞り出すことはできないと思うわよ」


「確かにそうだね」


 私がそう反応するとランベリオンさんが神妙な顔つきをしていた。


「どうしたの?」


 アマミヤさんがそう問いかけると――。


「写しを持ってこのまま引いた方がいいかもしれないな。ミク殿がいればこの島の結界も割ることができるだろうし」


「そんなにややこしい結界が張られているの?」


「そうなの。結界のせいで完全に閉じ込められているの」


 アマミヤさんはそう言ってため息をついていた。


「それなら私がいれば大丈夫だね! とりあえずここから出よう!」


 私がそう声をかけると皆は頷いて同意してくれた。ミロクという森妖精エルフが一体どれほど強いのか分からないけど、Z級の強さなのは間違いないだろう。


 巻物に書かれているラテン語を全て写し終えると、元の場所に戻した。すると巻物はまた壁の中へと収納された。


 それを確認し終えた私達はこの部屋から出て地上へと向かった。

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