第305話 ノックⅠ

 トレイビの話を聞いている限りではマカロフ卿の話も聞いた方が良いと判断し、この場にマカロフ卿を放り込んだ。


「ここは禁煙か?」


「ああ」


 俺がそう言うとマカロフ卿は少し残念そうな表情を浮かべながら席に着いた。


「本当に仲間になったんだな」


「敵意が全く無いんですもんね」


「仲間では無い。協力関係にあるだけだ」


「――何が違うのか分からんが」


 そう言っているベルゾーグに向かってマカロフ卿はフンと鼻を鳴らした。


「で、トレイビという男についてだな?」


「ああ」


「知っているのは知っているぞ。奴は前の世界にいたとき、ニューヨークで10人程を殺害した連続殺人犯だ」


「それは流石に引く」


「まあミク嬢がそう言うのも無理は無い。が――殺している数なら私の方が多いぞ? 生涯で500人程は殺していたんじゃないかな」


「戦争でって付け加えろよややこしい。アルバート・フィッシュじゃないんだし」


 俺がそう言うとマカロフ卿は目を丸くした。


「よく知っているな。海外のシリアルキラーに興味あるのか?」


「一時期本を漁っていただけだよ。内容は胸糞悪かったけどな」


「そうか。まあクレイジーさで言うとうちのワイズもそんなところがあるけどな――と、話を戻すぞ」


 マカロフ卿にそう言われて全然違う話を展開していたので話を戻すことにした。


「奴の本名はエド・ファーバーだ。聞いたことは無いか?」


 それを聞くと知っている――。


「確か黒の殺し屋と呼ばれていた男だ。barを経営していてその柔らかい口調から繰り出される思慮深い話に女性は色気を感じていたらしい。実際、barの評判はよくエドのファンは多かったとのことだ。勿論女性だけでは無く男性からも人気だったそのbarは繁盛していたらしい」


「――何か複雑な気持ちだね。お酒はめちゃくちゃ美味しかったから」


 ミクちゃんはそう言って残念な表情を浮かべていた。


「私も飲んだことはあるが実際彼のお酒は美味しいからな」


「で? そのトレイビは実際のところ誰と繋がっているんだ?」


 ベルゾーグの質問に手元にあるコーヒーを口に運んでから口を開く。


「ああ。詳しい事は正直知らん――しかし、聞いた話ではログウェルの上層部と関わっているらしい」


「ログウェルの上層部って一体どんな組織図になっているんだ?」


「そうだな。そのペンを借りていいか?」


「ああ」


 俺がそう返事をすると紙をペンでマカロフ卿は図を書き始めた。


 一通り書き終えると俺の方に紙を渡して来た。


「そこに書いているように当然トップはログウェルの王は、そこに書かれているミスト・ログウェル王だ。そして、その下には3人の幹部がいる。ログウェルの国の運営を統制しているノック。ログウェルの軍を統制しているシグナル。そしてログウェルの闇の部分全てを統制しているコード。この3人がミスト・ログウェル王の忠実な家臣だ」


「それは全部コードネームだよな?」


「ああそうだ」


「成程ね――で、マカロフ卿っていう呼称は?」


「私の実力が単純に認められているからいつしかログウェルの貴族になっていただけだ」


「今更だけどそれ結構マズくないか?」


 俺がそう訊くとマカロフ卿は首を左右に振った。


「軍事力だけならうちのほうが強い。元々、黒の殲滅軍ブラック・ジェノサイドはログウェルの軍事力が残念だったから世界から選りすぐりの戦闘員を集めて立ち上げた組織だ。その組織作りをする為に実際に動いたのは私だしな。立場上はマズいだろうが、実力としてはマズいことはない。」


「成程な。構成員を集めたのはコードの命令か?」


「そうだ。実際に私に敗北したからついてきた人間が多いからな」


「ログウェル王に忠誠している人間はいないのか?」


「無いな。黒の殲滅軍ブラック・ジェノサイドは闇の部分を見て来た人間が多い。故にログウェル王にはきな臭さを感じるのだ。お前たちがコードボスの事をそう評価しているようにな」


 成程な――。


「国民はどんな風に感じているんだ? ログウェル王の評価は」


「いい王だと言っているぞ」


「ナリユキ殿やカーネル王の方がよっぽど良い気がするが――」


「確かにそうですよね」


 ベルゾーグとアリスがそう呟く。


「今の時点で決めるのはナンセンスだ。実際に会って話をして初めて評価するもんだぞ」


 俺がそう言うとベルゾーグとアリスは「そうですね」と小さく呟く。


「で、エドはその中の誰の部下に入るんだ?」


 俺の質問にマカロフ卿は一息ついた。


「ノックだ。大方、好きなだけ殺しても良いとでも言われたのだろう――」


「しかし、それならコードの部下になるんじゃないか? 明らかに闇の部分だろう」


「確かにな。しかしそこまでは分からん。だから調べるならノックにも接近する必要がある。調べるところはたくさんあるぞ」


 マカロフ卿にそう言われた俺は気が滅入りそうになった。


「俺を潰すためにどれだけ人が絡んでいるんだよ。いい加減にしてほしい」


「人気者じゃないか」


 マカロフ卿はそう言って笑っていた。他人事だと思っているだろ絶対。


「ただ私が思うにはログウェル王の指示ではなく、ノックとコードが色々な人を巻き込んでいる」


「そのなかでカルカラの貴族と交流がある人間はいるか?」


コードボスは人脈が広いからありそうだが、ノックは確実にあるぞ。外交も担当しているからな」


「その話もっと詳しく聞かせてくれないか?」


 俺がそう問いかけるとマカロフ卿は「ああ」と頷いた。



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