第304話 調査報告Ⅳ

「よく戻って来たな。調査報告を聞こう」


 カーネル王国で調査をしていたベルゾーグとアリスがやっと戻って来た。カーネル王国に約2ヶ月ほどの遠征だった。まずは無事で何よりだ。


 会議室で俺とミクちゃんの2人でベルゾーグとアリスの報告を聞くことになる。


「情報を流していた人は見つかったか?」


「はい――しかし意外な人物でした」


「意外? 俺が知っている人物か?」


 答えを急ぐ前にまずそう質問した。


「そうです。しかもカーネル王国のギルド本部いました」


 アリスの発言に俺もミクちゃんも驚きを隠せなかった。


「誰だろ――しかもギルド本部って徹底的に探したはずじゃ?」


「それが抜けていたんですよね。ユニークスキルの効果が阻害されていたようです」


「拙者達が彼が犯人だと分かったときに既に逃げる準備をしていてな。情報はあまり聞き出せていないが」


「一体誰だったんだ? マカロフ卿達に情報を流していたのは」


 すると、アリスがすうと深呼吸を行った。


「トレイビさんでした。しかしマカロフ卿では無く」


 その答えを聞いて俺とミクちゃんは思わず顔を見合わせた。


「そもそもあの人記憶ないんじゃなかった?」


「そうです。どういう仕掛けは分かりませんが、その記憶が無くなっているというのも嘘だったぽくて――何らかのスキルで私のユニークスキルが妨害されていたのでしょう。マカロフ卿にではなく、コードに情報が流れていて、それをマカロフ卿達に命じたのでしょう」


「成程な。まあマカロフ卿もコードがその情報を入手したかは分からないって言っていたし、知性・記憶の略奪と献上メーティスを使っても結果は同じだったからな」


「マカロフ卿に対して知性・記憶の略奪と献上メーティスで得ることが出来ない情報は全てコードが握っているということで間違い無さそうね」


「そうだ。それにあながちヒントが無かったという訳ではないらしい」


「どういう事だ?」


 俺がそう訊くと会議室に置いているメモ用紙とボールペンをベルゾーグは手に取った。


「カーネル王国のギルドの受付嬢にはアメリカ人の女子おなごが働いていてな。その女子おなごが言うにはtraybeトレイビという名前は英語でこう書くと聞いた」


 ベルゾーグにそう見せられて俺もミクちゃんも英語で書けばそうなるなと頷いた。


「まあそうだな」


 俺が頷くとミクちゃんもうんうんと頷いていた。


「で、この名前の順番を少し入れ替えると――」


 そこに書かれていたのは、betrayビトゥレイと書かれた単語だった――。つまりこの単語の意味は――。


「嘘――って意味だ」


「確かに――」


 ミクちゃんが呟いた後に俺もそう声を漏らしていた。ベルゾーグもアリスも「やっぱり分かるのですね」と呟いていた。


「彼は存在自体が嘘。トレイビという名前もこの役を演じる為に付けられた名前だったようだな」


「ここにきて英語か――つか俺もよく覚えていたな」


「それにしてもよくそんなところに気付いたね」


 そうミクちゃんが言うと、ベルゾーグとアリスの表情が曇った。


「カーネル王国にも何名か転生者はいる。ナリユキ殿やミク殿とは違ってスローライフを送っている者だ。しかしそういった者に限って自分が転生者だと明かさないから拙者達が認知していないだけだ。そして、ここ2ヶ月半ほど前から殺人事件が起きていたらしくてな。殺害された人は合計5人らしい。そして全員が共通してアメリカ人だったとのことだ。その女子おなごの友達も被害者のなかにいて、色々調べて行くうちにトレイビが浮かび上がったという訳だ」


 ミクちゃんはその話を聞いて思わず口元を手で覆っていた。


「酷い話だね」


「でも不思議なんだよな。皆スキルがあるのに抵抗できなかったのかな?」


「それほどトレイビが達人なのだろう」


「俺達より強い?」


 俺がそう訊くとベルゾーグとアリスは首を左右に振った。


「流石にそれは無いです」


 そらそうだ。俺が視た時の戦闘値は800程だった。だから特に警戒もしていなかったんだけどな。


「多めに見積もっても2,000程――」


「つまりA級クラスくらいか。でも確かに一般人を殺害するなら十分な戦闘値だな」


「そういう事です」


 しかし謎だ――。アメリカ人を殺害していたら自分が怪しまれるっていう懸念点は無かったのだろうか?


「んで? 犯行動機は何だったんだ?」


「そこまで分からない。何しろ情報を聞き出す前に逃げられたのでな。ナリユキ殿もミク殿も既に疑問に思っているだろうが、口封じにしては目立ち過ぎだからな」


「不思議だよね。何も動かなければバレていなかったかもしれないのに――」


「そうなんだよな。行動にしては素人すぎるんだよ――トレイビについての情報は他に無いのか?」


「残念ながら無い。前の世界での職業なども不明だ。ただ――」


 ベルゾーグがそう呟くと、アリスが代わりに続けた。


「血が見たいと言っておりました。口封じとアピールの狭間で起きたような事件な気もしますし、はたまたトレイビが関わっている組織の命令かもしれないので一概には言えないですけど」


「――まあ自分の判断でやったなら少し精神病質サイコパスっぽいところあるよな」


 俺がそう言うとミクちゃん、ベルゾーグ、アリスは大きく頷いた。


「カーネル王国で起きた事件なので、拙者達はこれ以上深入りはできなかったので一旦戻ってきたが、トレイビの情報がまとまり次第、カーネル王が報告にきてくれるそうだ」


「成程な――てか、そう言って遊びに来るだけじゃないのか?」


 俺がそう言うと、ベルゾーグもアリスも「確かに――」と苦笑いを浮かべていた。


「どちらによマカロフ卿達に関してルミエールに報告しないといけないから来てくれるなら有難いけどな」


「マカロフ卿が寝返ったのは流石ナリユキ殿というところだな」


「そうですね! 素晴らしいです!」


 と、ベルゾーグとアリスにべた褒めされた。しかし、今回の事件はコードとQキューをどうにかしないといけない。もしかしたら、その2人の後ろには更なる巨大な組織が絡んでいるかもしれない。創世ジェスだけではなく他の組織――。そして、ログウェルの政治家達が大きく関わっている可能性もあるだろうな――。

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