第306話 ノックⅡ

「ノックはログウェルの政治に大きく関わっている。それで他国と外交を行う訳だが、最近でカルカラの貴族と会っていたな」


「内容までは分からないのか?」


「流石にそこまで分からんが、私の部下の話だと何やら他国を潰すという話をしていたらしい。私達はそれをマーズベルだと思っていたが、私達はノックと交流することはできないからな」


「それは何でなんだ?」


黒の殲滅軍ブラック・ジェノサイドは裏の組織と言っただろ。存在を知っている人間はお前達が思っている程少ないんだ。ログウェルの国民のなかでは、マカロフ卿が率いている特殊傭兵集団があるらしい――という認識くらいだ。存在を秘密にするためにノックとの接触も避けているんだ。私も話をしたことがあるのは数回しかない」


「成程な。でも、何で情報を得ようとしているんだよ。裏でコソコソと情報収集させる理由は何なんだよ」


 俺がそう言うとマカロフ卿はふうと大きく息を吐いた。


「一言で言えばトラウマだな。私が前の世界で反乱軍を立ち上げて本当のキッカケは教えたことはなかったよな?」


「何となくの話を人伝えで聞いているだけだな」


「そうか――結論から言うと私は軍に裏切られたのさ。自分が所属していた軍に、いきなり処分の対象とされるんだぞ? それまあ私なりに当時トップにいた人間達の汚職を暴こうと思ったことから始まった事なんだがな。だから、基本的には人の事を信じていない。自分の上司が良いと思っていても、他の上の人間が煙たがっている可能性が十分にあるんだ。だから、私は食われない為に、自分が所属している組織であろうとありとあらゆる情報を手に入れる」


「やられる前にいつでも戦える準備をしておくって事だな?」


「そういう事だ」


「で? マカロフ卿を殺した軍人ってのは?」


 俺がそう言うとマカロフ卿の目の色が変わった。明らかに胸糞悪そうだ。


「その人の事をまだ恨んでいるのか?」


 俺がそう問いかけるとマカロフ卿は「悪い」と言って立ち上がった。


「窓際で吸うから一本吸わせてくれないか?」


「ああ。いいぞ」


 俺がそう言うとマカロフ卿は「すまない」と言って窓を全開にして葉巻に火を点けた。俺はその間に灰皿を手から出す。


「恨んでいるさ。もう私の復讐の時限爆弾リベンジ・タイムボムは、その人間を恨みに恨んで手に入れた攻撃系のユニークスキルだ。未だに殺された時の夢が出てくるんだ」


 マカロフ卿の目は曇っていた。それを見かねたミクちゃんが話を戻した。


「そうだったんだ――と、言う事はノックの情報も集めた方が良さだね。コードはノックの弱みとかは握っていないの?」


 ミクちゃんの質問にマカロフ卿はニッと笑みを浮かべた。


「ノックとコードボスは仲が悪いんだ。それはコードボスがノックの弱みを握っているかららしいから、コードボスさえどうにかすれば、ノックが隠し持っている情報を本人から聞き出すのも難しい事では無いと思う。直近の他国の貴族達と何を話していたか――どんな企みをしているのかが聞ける」


「つまり脅すんだよな?」


「それしか無いだろ。しかしここに残っている者達は隠密には向いていない」


「レイ達の部隊が向いているのか?」


「そうだな。それまでしばらく待ってほしい」


「分かった」


     ◆


「貴様等! こんなことをしてタダで済むと思っているのか!」


 そう俺達に怒号を飛ばして来るのはログウェルのお偉いさんだというノックという男。特殊なスキルか何かが施されているのか、本名は分からない。ただ言えるのはコイツがQキューが誰なのかを知っているという事だ。カルカラの貴族とマーズベルについて対談しているところを連行した。


「それほど死にたいようだな」


 カリブデウスはそう言って手足を縛られているノックに対して足にナイフを突き刺した。下衆の断末魔がこの地下室に響き渡る。


「くそ――絶対に殺してやる」


 そう俺達に睨みをきかせてくる雑魚。流石ログウェルの国営を担っている男というべきか。


「早めに質問に答えたほうがいいぞ?」


 俺はそう言いながらナイフでノックの左頬を少し剥いだ。またしても断末魔をあげるが、ここはコイツ等が好かっているカルカラの一部の貴族しか知らない地下30mの拷問室だ。全てに見張りは全員殺しているので、この施設にいるのは、俺とカリブデウスとスカー。そしてこのノックだけだ。


「悪魔め……」


 ノックはそう言って息を切らしていた。俺の直感が言っている――この男は絶対にQキューの正体を吐かない。


「貴様達にとってQキューとはどういう存在なんだ?」


 俺の質問にノックは不気味な笑みを浮かべて高らかに笑い始めた。


「頭がおかしくなったか?」


 スカーがそう付け加えたがどうやらそうでも無いらしい。ただ、ノックの目は狂気じみていた。


Qキュー様は我々にとって神だ。あの方の事は他言無用だ。Qキュー様の事を話すくらいなら死ぬ」


 そう不気味に口角を吊り上げていた。言っている事に偽りはないようだ。俺は改めてこの部屋に横たわる他4名のカルカラの貴族達を見てそう感じた。この調査を始めて分った事は、今回のヴェドラウイルスの事件は、ログウェルのノックとその部下数名。そして、ナリユキ・タテワキの連行を命じたコードと、他数名のカルカラの貴族――。カルカラの貴族とノックはQキューの命令に従い、コードはQキューと協力関係にあるようだった。だから、ノックを何とかすればQキューの正体を掴めるかもしれないと感じていたが思った以上に口が堅い。


 強い忠誠心があるようだ。





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