第273話 第2ラウンドⅠ

「何が起きたんだ? ミクちゃん」


 俺が見た光景はマーズベルの戦士達のほとんどがやられていた。ベリト、フィオナ、レンさん、アズサさん、ノーディルスさん、ネオンさんはボロボロの体になりながらも辛うじて立ち上がっているところだった。対して、あっちは大きく息を切らしながらもレイや、スーも入れた戦力は30人程だった。唯一無傷なのにはミクちゃんだけ。


「あれを見て」


 敵の集団の中から睨みを利かせて歩み寄って来たのは俺が倒したはずのマカロフ卿だった。とは言ってもあの状態でこんなにも早く復活するとは思わなかったが――。と、言う事はマカロフ卿を止めることができる人間がいなかったので、俺がいない間に一気に押されたのか。


「流石に戦況的に不利だよね」


「そうだな」


回復ヒールをしても正直体はボロボロですわ」


 レンさんはそう言って苦笑いを浮かべていた。マカロフ卿の攻撃を受けることでいっぱいなのだろう。


 するとマーズベルの森の奥の方から地風竜ローベスクや、電黒狼ボルト・ウルフ、グァイアスなどの怪鳥が沢山来た。その多さは明らかに倒れている戦士達を運ぶことができるほどの魔物の数だった。当然それを統率しているのは。


「ナリユキお待たせ! 遅れてごめんね!」


 そう言って電黒狼ボルト・ウルフに乗って来たノアだった。


「ありがとう。とりあえず倒された皆を安全な所へ運んでやってくれ」


「そのつもりで来たから大丈夫だよ」


 魔物達は倒れている皆を自分の背中などに乗せて森の中へ戻ろうとしていた。


「させん。やれ!」


 マカロフ卿の命令でマーズベルの魔物達にスキル攻撃を仕掛けようとする敵軍。


「ミクちゃん! ネオンさん!」


 俺の掛け声に2人は横幅数km、高さ50m程の大型のバリアーを展開した。勿論、こんな大型のバリアーを展開すれば2人のMPの消費量は多い。


「ボクも久々に暴れるよ。ナリユキも結構疲れているようだし」


 ノアはそう言いながら小石を敵軍に投げつけた。その凄まじい威力と速さを持つ小石は敵兵数人に直撃。結果として敵兵が立てなくなるほどの大ダメージを負わせた。


「音のような速さの石ころだと?」


「アイツ。ボクとキャラ被ってない? 一人称も同じだしムカつく」


「アイツはノアって名前のガキだ。舐めてかかると痛い目に見るぞ。カルベリアツリーのダンジョンのボスだからな」


「他の皆がたかが石ころで戦闘不能になるくらいだもんね。やってくれる」


「奴を仕留めろ。お前ならできる」


「分かった」


 すると、スーはそう言って先陣を切って突っ込んできた。


「ナリユキ。あれはボクがやる」


「任せた」


 俺がそう言うと、ノアがスーの迎撃しに行った。


「アヌビスは何もしてこないんだね」


「ああ――多分この人間同士の醜い争いを見届ける気なのだろう。まあ出て来られたら敗走も考えないといけないけど」


「だね。結局今の実力じゃ、マカロフ卿もアヌビスも止める事ができる人はナリユキ君だけだし」


「だな。ミクちゃんは状況を見ながらでいいけど、ネオンさんと同じサポート役にメインで回ってくれ」


「分かった。回復ヒール強化バフを与えていればいいのね?」


「そういうことだ。ヤバそうな人がいたら、そこにバリアーと張ってサポートもしてくれ」


「いいよ。頑張ってね」


「ああ」


 こうして俺の隣にはベリトとレンさんが両脇についてくれた。


「まだまだ行けます。お供させて下さいナリユキ様」


「国主さんが先頭に立ってるんやったらもっと気張らないとな。ノーディルス、アズサ! 準備はええか?」


「勿論」


「任せろ」


 俺が走り始めると皆は俺の後についてきた。


「突撃だ!」


 マカロフ卿が号令をかけながら真っ先に俺の方へ向かって来た。「おお~!」と気合いの入った声は、こっち側の戦力を大幅に削ったことにより、士気が高まり腹から声が出ているようだった。


「ナリユキ・タテワキ!」


「ジェノーバ・マカロフ!」


 俺達はそうフルネームで呼び合い互いの拳をぶつけ合った。この分からず屋をどうにかして捕縛して本当の敵は誰かを叩きこまないといけなかった。


「メリーザがやられたんだろ? なら、狙うべき敵は俺じゃない!」


「まだほざくのか!」


 マカロフ卿はそう言った後、俺の左腰にかけているホルスターからマカロフを取り出して俺の脚に撃ってきた。勿論、俺は直撃したので痛いが――。


「俺の戦闘値舐めているだろ?」


 俺がそう言うとマカロフ卿は「何だと?」とドスの効いた声で睨みつけてきた。俺がグッと力を入れるとマカロフ卿の拳はゴリッ! という鈍い音を立てた。


「馬鹿な! 私は元軍人だぞ!?」


 さっきの攻撃でマカロフ卿の手は腫れてしまっている。「痛い!」と思ったのは勿論の事だろう。一瞬気が緩んでいたので俺はそのままマカロフ卿を拳で押し込んだ。


 マカロフ卿が体を後ろにのけぞったのを確認すると、俺は手からポンプアクション式ショットガンのレミントンM870を出して放った。狙うのは足だ。鋼の体Ⅴと言えど、同じ箇所に何発も攻撃を入れられると後々苦しくなってくるに違いない。


「おのれナリユキ・タテワキ!」


 マカロフ卿がそう言ってきたので、足にもう一発お見舞いした。ポンプアクションじゃあリロード時間長いの厳しいかもしれない。俺はレミントンM870を消してAA-12の二挺持ちデュアルハンドでマカロフ卿の足を狙って連射した。

 

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