第272話 ナリユキVSワイズⅢ

「ワイズ!」


「とうとうキレたか?」


「キレるに決まっているだろ! この悪魔野郎!」


 言葉でそう冗談っぽく言ったが、実際のところは自分にも腹が立つしアイツにも腹が立っている。冗談っぽく言ったのは、キレて冷静な判断が出来ないようになるのを防止する為だ。


「その割にはまだ随分と冷静だな」


 もうワイズの言葉に耳を傾けるのは止めよう。俺は転移テレポートイヤリングを使ってワイズの後ろに回り込んだ。


「なっ!?」


 ワイズは驚いた表情を見せながらも俺に対して裏拳を繰り出して来た。


「俺に物理攻撃は効かないって言わなかったけ? まあ咄嗟の反応だから仕方ないよな」


 ゴリラのようなこの腕も俺からすれば――!


 ゴリッ!


 そう鈍い音が響き渡った。右腕を折られて「テメェ!」と怒号を散らすワイズの声量は、まるでジャイアンの歌声の如く五月蠅い。


「うちの兵士達をよくも殺してくれたな。お蔭で新たなスキルを手に入れたよ。どうやら俺は爆発とは縁がいいらしい」


 俺がそう言うとワイズは顔が強張っていた。ワイズを強引に俺に引き寄せて、ワイズのその巨大な胸に――。


復讐の時限爆弾リベンジ・タイムボムだ」


 俺の手からナノサイズの爆弾をワイズに大量に送り込む感触が分かった。


「吹き飛べよ」


 俺が「爆破しろ」と念じただけで、C4のような威力のような大爆発をワイズは起こした。俺のパッシブスキルには爆破現象が起きるスキル、武器の火力を150%アップする爆破強化Ⅴと、武器の爆破範囲を150%アップする爆破範囲強化Ⅴがあるお陰で、大した威力でなくても戦車を破壊するくらいの威力には爆発力が向上する。勿論、耐久力の面だけで言えば当然戦車なんかより、ワイズという生き物のほうが強い。空さえ飛ぶことができれば、飛行中のジャンボジェットも 身体向上アップ・バーストを使った手刀で機体を真っ二つにすることが可能のレベルだから、普通の爆破では簡単に殺すことができない。


 しかしこのスキルはなかなか特別だ。それはナノサイズの爆弾というところだ。ナノサイズというとても小さな爆弾が体中で爆発を起こすことによって体内の臓器などに大ダメージを与えることができる。


 故に――ワイズはそのまま白目を向いて地面に倒れてしまった。


「俺をあまり怒らせるなよ」


 完全に意識を失っている。でもまあ、まあまなな爆発だったのに、体全身が黒焦げになっただけで気を失っているだけってのはやっぱりタフだな。


「ナリユキ様――いつの間あんなスキルを……?」


「見ていたんやけど、細菌かってくらい小さい何かの物質を送っていたな――ナリユキさんの体にもあるものと同じなん考えると復讐の時限爆弾リベンジ・タイムボムを習得したんやろうか?」


「またユニークスキルを手に入れたんですか?」


「多分な。これでナリユキさんのユニークスキルは4つや」


「その通り。マカロフ卿から奪った復讐の時限爆弾リベンジ・タイムボムを習得した」


「ガープのスキルはそんなに強かったんですか。同じ魔族なのに正直そこまで強いとは思わなかったです――強いスキルがナリユキ様が扱う事によってもっと強くなった気がしますね」


「だろうな。俺も吃驚だ。ただマカロフ卿の復讐の時限爆弾リベンジ・タイムボムは俺に仕掛けれているままだ。いつアイツが起きて爆発させるか分からないから俺から離れていた方がいい」


「そうですか――アリシア様の所に行けば治してくれるのではないでしょうか?」


「おう。そのつもりだ」


「気を付けて!」


「ああ」


 俺はレンさんにそう声をかけられると、そこからアリシアの所に転移テレポートイヤリングを使って向かった。到着したところは、マーズベル山脈まであと3kmといったところのマーズベル森林の道中だった。


「ナリユキ様! ご無事でしたか!?」


 真っ先に気付いてくれたのはアリシアだった。その後に続くように、マーズベルの国民達が俺の名前を呼んでくれた。皆、無事で何よりだ。


「心配してくれてありがとう。急ぎで悪いが、森羅万象アルカナでマカロフ卿に仕掛けられた復讐の時限爆弾リベンジ・タイムボムを解除してくれないか?」


「かしこまりました。それにしても戦闘値が上がっているようですが、また何か習得されたのですか?」


 アリシアはそう俺に問いかけながら、俺の腹部に手を当てて森羅万象アルカナのスキルを発動した。今回は体に眠るナノサイズの爆弾のスキル効果を無くすという目的だ。


「ああ。マカロフ卿の復讐の時限爆弾リベンジ・タイムボムを習得した」


 俺がそう言うと、皆は「流石ナリユキ様! と皆は大喜びだ。ミーシャに関しては喜ぶというより、俺がどんどん化物じみていくからついていけないと言った表情を浮かべていた。


「これで大丈夫です」


 正直俺には魔眼など何も無いから本当にスキル効果が無くなったのは分からないが、それはレンさんに見てもらえばいい。


「ありがとう」


「もう戻られるのですか?」


「皆が待っているからな」


「そうでしたか。くれぐれもお気を付けて下さい」


「ありがとう。アリシア、ミーシャ皆を頼んだ」


 俺がそう言うと、アリシアとミーシャは「任せて下さい」と頭を下げた。


 しばしの別れを惜しんだ後再び戦場へと戻った。


 しかし、ほんの一瞬目を離しただけでこの有様――。


 凄惨な光景に俺はしばらく戦場で立ち尽くしていた。


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