第263話 ヴァース島Ⅱ

 巨人がいるくらいだ。森の中を入って行ったが一本一本の樹がジャックさんより高い事を考えるとおよそ50mくらいはあるんじゃないだろうか。それに森の中からは小鳥のさえずりや、恐らく犬や猫のような類の巨大な魔物の鳴き声やら、聞いたことも無い鳴き声もあるので正直言うと不気味だ。


「あそこが家だ」


 ジャックが立ち止まって私から見て左の方を指した。立ち並んでいた樹は突如として広大な平地となっていた。そして木造の巨大なドームが数十軒ほど見える。勿論私からすれば巨大だ。なにせ高さ30mほどの円型の一軒家なんて誰が見たことあるのよ? 


「流石に大きいわね」


「そうだな。我はこの元の姿で家に入ったことがないから少し新鮮でワクワクしている」


「ランベリオンは全長15mくらいだっけ?」


「そうだ。立ち上がってみようか?」


「アンタ、竜の姿で二足歩行できたの?」


「ふふん。我は器用だからな」


「凄いわね」


 そう会話しているうちにジャックさんの家の中に入ることになった。土足で「お邪魔しま~す」と中に入っていたがやっぱりジャックさんのおよそ2倍くらいの高さが天井までありそうだった。家の中央には巨大な囲炉裏と巨大なわらの座布団があるくらい。他は寝床は巨大な何かの魔物の毛皮がかけ布団で、敷布団は白い芝だった。この島独自の芝なのだろうか? 白い芝なんて初めて見たけど、見た感じはとてもふかふかしていて心地よさそうだ。


「適当にかけてくれ。今お茶を出す」


「失礼します」


「すまない」


 私とランベリオンは言われるがまま巨大な座布団に座って待機。座り心地はとても良い。しっかり編みこまれていて、トゲトゲとした不快感なども全くなかった。ただ座って思うのはやっぱり大きい。


 作り置きをしていたようだ。お茶はものの20秒ほどで出てきたけど、出されたお湯飲みもまあ巨大だった。大きさは大体バケツくらいの大きさだが、巨人にとっては最小サイズになるのだろう。


「ありがとうございます」


「申し訳ないな」


 私とランベリオンがそう言うとジャックさんは「いやいや」と言っていた。


「それで確か100年程前に訪れた人間の特徴だったな」


「そうです。どんな人間でしたか?」


「そうだな~。銀髪の中年の男性だったことは覚えているぞ。物腰しが柔らかい人間だった」


「どんな事をされていた人物ですか? 名前とかは憶えていますか?」


「名前はCシーと名乗っていたな。職業については色々やっているとしか言ってなかったな」


 Cシー――一体誰だろう――。もう、何でCシーとかQキューとか英単語1つなのよ――。これ以外にも何か共通点は無いものかしら――。


「他には何かなかったのか? ジャック殿」


「そうだな~。そう言えばその人間をあれっきり見ていないな。今思うと観光ではなくて移住だったのかも」


「場所は分かりますか?」


「正直場所は分からんが少し引っかかっていることがある」


「引っかかっていること?」


 私がそう聞き返すとジャックさんは頷いた。


「そうだ。その男が来た時くらいから、少しずつだが島民は消えていってな。我々以外にも別種族が住んでいるのだが、出かけたまま戻ってこなくなった者もいれば、世界樹ユグドラシルの使者たちがいる楽園エデンに行った。感激したと話す者もいるらしい。その話に興味を持って探しに行って、そのまま戻ってこなくなった者が確認されている。島民の捉え方としては様々で、世界樹ユグドラシルの使者たちがいる楽園エデンと呼ばれる場所を求める者もいれば、俺のように特に何も感じずこうしてのんびりと暮らしている者もいる」


 楽園エデン――それはもしかしてペルソナの事だろうか?


「その楽園エデンという場所の手がかりはないのか?」


「残念ながら聞いたことがないな」


「そうですか――ジャックさんの仲間で消えてしまった方はいるんですか?」


「この辺りに住む巨人は皆大丈夫だ。ただもっと奥に行くと――つまり世界樹ユグドラシルの付近で消えることは多いとされている。ただ、たまたま我々が無事なだけで、消える箇所は様々だ。世界樹ユグドラシル付近に楽園エデンがある確証はない」


 確かに――だから、手がかりは無いって言ったのか。一瞬、世界樹ユグドラシル付近で消える人が多いなら手がかりあるじゃん! って思ったんだけど甘かったわね。


「それだとその場所を探すのはかなりの時間かかりそうだな。そもそもヴァース島広いし」


「そもそもだが、何でお主達はその場所に行きたがるんだ?」


「金色蛇の仮面を付けた人間の正体を突き止めたいのです」


「それはまたなんで?」


「ヴェドラウイルスはご存知でしょうか?」


「確かアーディン王国が滅亡した事件だな。知っているぞ」


「それなら話が早いです。端的に言うと、ヴェドラウイルスの感染者がマーズベルに現れました。そして、ヴェドラウイルスと同じ症状を訴える人が何人かいるのですが、ヴェドラウイルスをマーズベルに撒いたのは金色蛇の仮面を付けた男で、名前はQキューと呼ばれています」


「成程な。ただ何でここに辿り着いたんだ?」


「それは、調査をしていた結果、その金色蛇の仮面をつけた男は創世ジェスという組織に所属しているらしく、そのアジトがこのヴァース島という情報があったのだ。聞いた話だと古くからある組織らしいが、我が知っている情報では、創世ジェスという言葉は、100年程前にできたペルソナという国の言葉なのだ」


「物知りだな――流石ランベリオン殿と言ったところか――それで、そのペルソナという国がこのヴァース島にあるのか?」


「あくまでかもしれない――という話だがな」


 ランベリオンがそう言うと、ジャックさんはう~んと唸っていた。


「確かにその話を聞くと、100年程前に現れた男がペルソナという国を造っていても時系列としては違和感が無い。寧ろものすごく怪しいな――つまりそれが島民が言っている楽園エデンかもしれないという事か――」


「聞いている限りでは間違いないそうですね」


「いいだろう。どうせ暇だしお主達は土地勘が無いだろうから一緒に手がかりを探してやる」


「是非!」


 私とランベリオンは声を揃えてそう言った。まさかここまで話がスムーズに進むとは思わなかった。私とランベリオンは目を合わせて「よしっ!」とガッツポーズをとった。

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