第262話 ヴァース島Ⅰ

「もうすぐ着くぞ」


 ここは上空500m。


 あれから数時間後。私はランベリオンの背中に乗って世界の中心に位置するヴァース島に足を踏み入れようとしていた。広大なサンゴ礁があるエメラルドグリーンの海に囲まれた緑豊かな島。そして直径一体何kmあるのだろうと思わせるような雲を突き抜ける巨大な樹。とても力強く優雅な姿に私は思わず涙を流していた。


「凄い迫力だな」


「そうね。ランベリオンありがとう」


 私がランベリオンにそうお礼を言うと「何に対してか知らんがどうも」と言っていた。単純にこんな綺麗な光景や臨場感はランベリオンの背中に乗っていないと味わえない。勿論、マーズベルには飛行船もあるからタテワキさんに頼めば出してくれるかもしれないけど、やっぱり空から生身で見るのと、機内の中から覗くのは臨場感がまるで違う。


 奥行何m? 横幅何m? 幹の太さ何m? そして高さ何m? と言った感じだ。Googleで直ぐに世界樹の情報を入手できるわけでは無いからこれはこれで、ワクワクが減ることがないからいいかもしれない。


「もうすぐヴァース島に着く。ゆっくりと降下していくぞ」


「飛ばしてもいいわよ?」


「うぬの世界ではジェットコースターという遊具があるのだろ? 確か絶叫系と呼ぶんだな? それとは比にならんが大丈夫か?」


「今更でしょ? だってジェット機のような速さでこのヴァース島に来たじゃない」


「確かにそうだな。では」


 ぐいっ! 力強く顔が前に引っ張られた。目に関してはゴーグルを付けているから何の問題もない。 身体向上アップ・バーストを使っているから身体への影響も特にない。


 あっという間にヴァース島の沿岸に着いた。本当に綺麗な海だ。それに白い砂浜――マーズベルも自然豊かでいい国だけど、ここの島は別格だ。


「島には特殊な結界が張られているな」


「どうやらそうみたいね。でも追い払われるわけじゃないのね」


 私達がそう話をしながら歩いているとドシンドシンと地鳴りのような音が私達が歩いている地面に響く。


「な――何? この地鳴り!?」


「アレだな」


 ランベリオンは凄く冷静にそう言って前方を指した。ランベリオンが指した先には長めの黒髪を後ろに流している、コンドルを模した白い仮面を付けた人間だった。身長は驚くほど高い――およそ15mくらいだろう? そして下半身には赤い糸を紡ぎ合わせたような履物を履き、褐色肌の上半身には何も付けていないというファッションだ。恐らくこの島の民族衣装なのだろう――。そして、身の丈と同じくらいの巨大な槍を持っている。


 試してみたが、ステータスを視る事はできない。究極の阻害者アルティメット・ジャマーが発動している。


「お前達何者だ? 結界を素通りできた人間は何百年ぶりだろうか?」


 そう言いながら近付いて来るこの男。身体から放たれる雰囲気を感じ取ると、とりあえず私達には敵意は無いらしい。普通の展開なら、この神聖な地に足を踏み入れよって! 貴様達何者だ!? くらいのやりとりは覚悟していたんだけど。


「我はランベリオン・カーネルだ。見ての通り飛竜ワイバーンだ」


 ランベリオンはそう言って自己紹介を行った。人型化ヒューマノイドを行っていないランベリオンの姿は、どこからどう見ても巨大な飛竜ワイバーンだ。


「ほう――ランベリオン・カーネルか。確かカーネル王国の英雄だな」


「こんな遠い島にまで我の情報が届いているのは光栄だな」


飛竜ワイバーンで☆を3つも持っているのだろ? お主を知らん者のほうが常識外れだろ」


「褒めても何も出ないぞ」


 ランベリオンはそう言うと、その巨大な男は「ガハハハ!」と豪快に笑っていた。巨大な人って当然だけど声も大きい。だから私は思わず両耳を軽く塞いだ。


「で? お主は?」


「私はミユキ・アマミヤです。宜しくお願いします」


 私がそう言って軽く一礼をすると巨大な男は「ほう」と顎をかいた。


「珍しい名前だな――もしかして噂で聞く転生者とやらか?」


「はいそうです。ニホンという国から来ました」


「ほう! ニホンという国から来たのか。遠路はるばるご苦労だったな」


「うぬの名前は?」


「申し遅れた。俺は巨人族のジャックだ」


 ――童話と紐づけできるから、もう多分この人の事は忘れないだろう。巨人族のジャックさんね。


「気になったのだが結界を素通りというのはどういうことだ?」


 ランベリオンに問いに対してジャックは「ああ」と声を漏らした。


「この島は世界樹ユグドラシルがある神聖な島だ。それに島の魔物はやたらと強い。なので、戦闘値が4,000を超えている事と、清い心を持っている人間のみが結界を通ることができるのだ。俺がお主たちのような客人を見たのは100年ぶりくらいだ」


 100年ぶり――それはもしかしてペルソナと関係あるのでは?


「100年ぶりと仰いましたよね? その時の客人はどのような方でしたか?」


「金色の蛇柄の仮面を被った中年の男だったな」


 ジャックさんの言葉に私とランベリオンは顔をハッと合わせた。


「間違いないわね」


創世ジェスの構成員だろうな」


「その話、もっと詳しく聞かせてくれないですか!?」


「意図はわからんが別にいいだろう。お主たちはその情報を掴むためにわざわざここに来たのだな?」


 話が早くて助かる。


「ええ」


「それほど詳しい事は知らんが知っている情報なら提供しよう。ついて来てくれ」

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