第233話 悪夢Ⅱ
「このままではカーネル王国の兵士達は死んでしまうな。勿論、クロノスは最後にとってある」
「貴様何がしたいんだ」
俺の言葉にマカロフ卿は咥えている葉巻の煙を大きく吐き出した。
「何度も言っているではないか。貴様を仲間に取り入れるのが使命だと」
「それがコードの命令だからか?」
「ああ」
「コードの命令なら何でも行うのか?」
俺の言葉にマカロフ卿は眉を寄せた。
「何が言いたい?」
「アンタに正義とか信念とか何も無いのかって聞いてんだよ。そりゃ俺もアードルハイム帝国の兵士の命を沢山奪った。それも万という単位の人間を――。けど、アンタがやっている人殺しと俺の人殺しは明らかに違うんじゃないか? 教えてくれよ。この一人の兵士を奪った先にどういう未来があるんだよ」
俺はこの兵士に罪悪感しかない。俺のせいで犠牲になってしまったんだ。そうネガティブな思考に陥っていたものの、メリーザが言っていた台詞が引っかかっていた。マカロフ卿という人間をもっと知らなくてはならない――。そんな気がしていた。なので、俺のマカロフ卿への質問は咄嗟に出たものだった。俺には見えていない世界があるかもしれない――そんな気すらしていた。ただ、しかしマカロフ卿の答えは――。
「五月蠅い」
そう小学生でも言えるような回答だった――。人間誰しも人をまとめるときは、何らかの信念があって動くものだ。そして周りの人間もその信念に触発されて動かされる。今回の件に関しても、マカロフ卿に何か強い信念があれば、俺に堂々と答えるはずなんだ。貴様を仲間に取り入れることができればよりよい世界を作り上げることができる。だから、彼の尊い命は必要な犠牲だと――。理想の世界を述べて、問題点を話し、改善案を述べた後に、具体的なアクションプランを発言するものだ。
でもそれが「五月蠅い」という一言で済まされるならば、マカロフ卿は無意識のなかで、彼の命と引き換えに素敵な未来が待っている。と言った綺麗事の世界が無いのは気付いているんだ。あるのはコードに対する忠誠心。ただそれだけ――。そしてコードは俺という人間を使って暇つぶしをしている。もっと言えば、ゲーム感覚で楽しんでいるのだろう――。
「空っぽなんだよな?」
俺がボソッとそう問いかけると突然首をガッと掴まれた。必死に抵抗するが首にマカロフ卿の爪が食い込んでいく。俺はひたすら断末魔をあげていた。
こんな声をあげても誰も助けてくれるはずなんでないのに――。俺の意識はそこでプツンと切れた。
大量の冷や汗を流してガバっと起き上がった。
「夢か……」
何て嫌な夢だ。部屋もチュエーションも全然ありそうじゃないか。
「くそ頭が痛い……」
相変わらず頭が痛かった。真っ暗な部屋で窓も無いから時間帯なんて当然分からない。せめて外の景色を見ることができれば気持ちは少し楽になるのに。
「水を飲もう」
山奥だから水に関しては美味しいはずだ。とは言っても、肝心な洗面台がトイレとお風呂とセットだから、そこの蛇口から出る水って何か嫌だけど――。
ただ風邪を引いているからそうも言っていられない。先程の悪夢のせいで汗もいっぱい流していたっぽいしな。
俺がそう水を飲んでいる時だった。ギイと扉が開く音がした。
「マジで嫌なんだけど」
もう誰が入って来たかは見なくても分かる。葉巻のニオイが部屋に充満したからだ。
「陰気臭い部屋だな」
そう声がした。水を飲み終えて部屋を出るとマカロフ卿が部屋をキョロキョロと見渡していた。しかし俺の目に映ったのは夢に出てきた同じ巾着袋を持っていたことだ。
「おい……それ……」
明らかに袋がパンパンに膨れ上がっている。
「ああこれか? 貴様への土産だ」
マカロフ卿はそう言って俺にその袋を渡してきた。
「今の貴様じゃ重たいだろうな」
そうズシッとくる重量感――。中には複数の何かが入っていた。俺は背筋が凍るように冷たくなった。
ゆっくりと地面に袋を地面に置いて震える手に、止まれ! 止まれ! と念じつつ袋の中を開けてみた。
そこに入っていたのは俺の方をまるで向くように入っていた2人の生首だった――。こんなに惨いことがあってもいいのだろうか……?
そして、1つに関しては夢に出て来た兵士の生首だった。白目を向いて歪みまくった顔は、死ぬときに酷い拷問を受けたのだろうと容易に想像ができる表情だった。
俺は胸をぎゅっと締め付けられる思いをした。気付けば涙が止まらない――。マカロフ卿に向ける怒りよりも、ただ自分の頑固さが仇となり、彼等の命を奪ってしまった……。
体の力が一気に抜けた感じだ……。
そんな中、ある重要な事に気付く。あの重さで考えると生首の数は2つじゃない――。
俺はそう思うと血の気が引いていた。袋の中身を取り出すと案の定兵士達の生首がどんどんと出てくる。どれも惨たらしい表情をしており、彼等が酷い拷問を受けながら絶命したことを想像すると苦しくて仕方なかった。
そして最後に残っているこの生首――。
この生首だけは俺を向いていなかった。けれども銀髪ということで誰かは直ぐに分かる。分からない訳がない。俺はそれが誰の生首かを想像するだけで、申し訳ない気持ちがより膨れ上がっていた。
顔をゆっくりとこっちに向かせて見る。俺が手に持った最後の生首は予想していた通り――。というか間違えるはずがない。クロノスが目を瞑って安らかに眠っていた。
「うあああああ! ちくしょおおお!!!」
「それは貴様が招いた結果だ。せいぜい苦しむがいい」
マカロフ卿はそう言ってこの部屋から立ち去っていた。俺は床を何度も何度も叩いた。
やはり俺は生きていては駄目な人間だったのだろうか……?
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