第234話 脱出作戦Ⅱ

「くそ! 侵入者め!」


「邪魔だ」


 青龍リオ・シェンランさんの拳が鎧を割りながら腹部に衝撃を与えていた。当然兵士は白目を向いて泡を吹きながら気絶する。


「さ……さすがだ」


「この人数をあっさりと――」


「俺達何もしていないぞ?」


「ただ眺めているだけだったもんな」


「クロノス様が凄いのは知っているが、青龍リオ・シェンラン様は流石生ける伝説だ。それに聖女様も可愛いのに凄い――」


 と、このように解放された5人の兵士には私の結界を張って、絶対攻撃が通らないようにしていた。そして、私、青龍リオ・シェンランさん、クロノスさんは横幅10mはあろう廊下で100人程の兵士を相手にしていた。当然、私達は無傷だ。


「残念ですが、ここにいる者の中にはナリユキ様の情報を握る者はいませんね」


 クロノスさんは気絶している人に手を当てていたのを止めて立ち上がった。クロノスさんの時を駆ける者タイムリープでも手がかりは0だった。


「そうでしたか」


 私がそう言うとクロノスさんは「申し訳ございません」と肩を落としていた。この人数がいるのに誰もナリユキ君の手がかりを持っていないってマカロフ卿ってどれだけ用心深い人なの? 結局、強かった人達や、指揮をとっていた人に時を駆ける者タイムリープしても何も無いって言っていたし。


「とうとう出て来たな」


 青龍リオ・シェンランさんの言葉の意味がすぐに分かった。強い気配を廊下の奥の感じ取ることができる。


「来るぞ」


 奥から3人の人影が見えた。


「侵入者ってのはテメェ等か」


「びっくりだよね。メリーザの結界を張っていたはずなのに全然感知されてないって言っていたもん」


「ああん? メリーザが嘘をついているんじゃないのか? それともやっぱり使えないカス女だったか」


「カスなどと言うんじゃない。メリーザの結界は森妖精エルフの中でも随一だ。あそこにいるナリユキ・タテワキの側近の腕が相当いいのだろう」


 そう近付いて来たのは、銀色のペイズリー柄の仮面を付けた金髪の男がワイズが中央に。そして右側には黒装束に身を包んだ小太刀を備えた男のレイ。最後に左側にいるのは、ハリウッド映画の子役のような可愛い顔をした茶髪の

少年スー。


 ワイズという男に関しては聞いていただけでヤバいと感じていたけどまさかここまでとはね――。龍騎士に会った時の絶望感とまではいかないけど、内に染めている悪は今まで見た人間の中では最恐だった。聖属性のスキルを使えるせいかな――ワイズという男から放たれるオーラには、死者の怨念のようなものが大量に込められていた。現代風に言うと歩く事故物件。うん――ダサいか。


「流石に一筋縄ではいかないな」


「あの真ん中にいるワイズとう男は余が相手をする」


「大丈夫ですか?」


「心配するな。何とかなる」 


 そう言った青龍リオ・シェンランさんの瞳には強い自信が宿っていた。うん、これはフラグじゃない。手助けは寧ろ邪魔そうかな。


「私はレイを相手します。クロノスさんはスーを相手して下さい」


「お任せください」


 クロノスさんは首をポキポキと左右に振って深い深呼吸を行っていた。


「僕は怒っているんです。子供だからと言って遠慮はしません」


 久々に聞いたなクロノスさんの僕。それにあの気合いの入りようは凄まじい。私はナリユキ君の為にクロノスさんが怒ってくれていると思うと嬉しくなっていた。


「こんなところで立ち止まっている暇なんて私達にはないから」


 私がそう言うと相手をするレイは「ほう」と頷いていた。


「これは驚いた。メリーザより強い女性を見たのは初めてだ」


「世間は広いでしょ?」


「確かにそうだな」


 と、やたらクールな忍者さん――しかし隣の人は――。


「カカカカカ! これは傑作だ! まさか生ける伝説の青龍リオ・シェンランと手合わせができるとは夢にも思わなかったぜ! 大丈夫かよトカゲちゃん! 俺様とここで戦うのはちと狭すぎるじゃないのか!?」


「確かにそうだな」


 青龍リオ・シェンランさんはそう言って、手にはナイフの形をした水色のオーラを纏っていた。間違いない。あれは水刃ウォーター・カッターだ。


 ブオン――。


 その音と共に振りかざされた一刀。建物の屋根を見事なまでに真っ二つにっした。横幅だけで数メートル。切り裂かれた範囲は数十メートルにも及ぶので、アリスちゃんの水刃ウォーター・カッターとは別次元なのが明白。


 案の状後ろを見ると、異次元過ぎる水刃ウォーター・カッターに、カーネル王国の兵士達は目を丸くして腰を抜かしていた。


 ブオオオオ! と冷気と共に雪も入って来た。


「少しやりすぎたか」


 青龍リオ・シェンランさんがそう言うと、ワイズが「面白い」と呟いていた。


 2人は飛んであっという間にこの廊下から姿を消した。ん? 青龍リオ・シェンランさんは分かるけどあのワイズって人も飛べるの? それとも跳んだの? あっという間に消えたもんだからよく分からない。私が視た鑑定士ではそんなスキル無かったんだけどな~。


「暴れ者は消えたか。アイツが隣でいるだけでストレスが溜まるからな」


 レイはそう吐き捨てていたので、ワイズという男はあんな性格だから仲間にも嫌われているんだなと察した。


「周りの目を気にせず暴れ回るから敵が2人いるようなもんだからな」


「本当だよね。もうちょっと考えて行動してほしいよ」


 頬を膨らませるスーはとっても可愛い。弟としてマーズベルに持ち帰ることできないかな? 無理か。解散。


「ミク・アサギ待たせたな。いつでもいいぞ」


「では」


 私はその瞬間、足を大きく蹴り上げた。私VSレイ。クロノスさんVSスー。そして青龍リオ・シェンランさんVSワイズの戦いが開戦した。

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