第232話 悪夢Ⅰ

「拷問部屋や牢屋よりかはマシか」


 俺が連れてこられたのは壁一面が真っ黒な気味の悪い部屋だった。広さはおおよそ8畳くらい。1人で生活するには十分な広さではある。一人暮らしの1kみたいなところだ。ただし、電気が無いので部屋は真っ暗だ。


「これまた凄い部屋だな。色々と」


 俺がそう言うとメリーザは「ええ」と呟いた。


「あるのは、ペンと紙、トイレとシャワールームとベッド。牢屋よりかは大分マシだな」


「貴方にはこれからここで過ごしてもらいます。私が閉めたら貴方は部屋の外へ出る事はできませんので」


「そうか」


「それではその枷少し改良しましょう。マカロフ卿からの指示なので」


 メリーザが俺の枷に触れると枷が無くなり、俺の両手首にはリングが付いていた。


「これは?」


「スキルを出せないリングです。枷だと生活するには不便でしょうから」


「意図が分からないんだけど」


「気にしなくてもいいです。ただ貴方はこの部屋にいるだけでいいのですから」


 メリーザはそう言って苦い表情を浮かべていた。


「そうか」


 俺がそう言うと「くれぐれも負けないで下さい」メリーザはそう意味深な発言をして部屋を出て行った。


 手を今まで通りに自由に動かすことができるならば割と何でもできるじゃん。


「暗いな~」


 部屋の中は本当に真っ暗で物がまともに見えない。別に部屋の中が散らかっているわけではないから、怪我する心配はないけどさ。でもこんなに暗ければ中には精神を病む人いるだろうな。


 俺は溜め息をつきつつも、体の汚れをどうにしかしたいので、とりあえず俺は風呂に入ること事にした――。


 服を全て脱ぎ捨てて、浴槽・洗面台・トイレがある3点セットのユニットバスだ。贅沢言うとバストイレ別がいい。何か狭く感じるからな――と文句を垂れていても仕方ない。


 シャワーの蛇口のところを見てみると――。


「お湯が出ないタイプか――」


 俺は洗えるだけかマシかと思いながらシャワーを浴びてさっさと出ることにした。最近はまともにタンパク質を摂れていないし、部屋には暖かいお茶なども完備されていないことから寒気が走った。浴室にあった着替えの服と下着はご丁寧に用意されていたので、着替えるなりベッドの中に潜り込んだ。水でシャワーを浴びるという慣れていないことをしてしまったせいで寒かったからだ。入る前に確認しておけばよかった。


「寒いな」


 俺はとりあえず足のマッサージを始めた。先程の冷水シャワーで体を目一杯冷やしたのに、今日の外の気温は0℃前後近くあると予測できる。だってめちゃくちゃ部屋の中も寒いもん。スキルも何も無いただの人間だ。


 このままではマズいと思い、真っ暗な部屋のなかで筋トレを始めた。腕立てやら腹筋やらスクワットやらを一通り行った。これで少し体は暖かくなったが、シャワーした意味よ。


 30分ほどの軽いトレーニングを終えた後、俺は歯を磨いてベッドの中に再び潜り込んだ。


「こんな真っ暗な部屋だとやること無いな」


 そう思いながら目を瞑っていると意識がだんだん薄れていった。


 俺はマーズベルの皆とお酒を飲みながらご飯を堪能していた。いつも通り隣にいるのはミクちゃんだ。


「なりゆき君早く戻って来てね? 皆待っているから」


「ああ」


 そうかこれは夢だ――。けれども夢の中でも皆と顔を合わすことができるならもう少し見ておこう。


 と思っていたら見ている夢は直ぐに切り替わり、カーネル王国でマカロフ卿達に襲われたときの映像が出ていた。俺は何故か戦う意思を見せて、兵士達も反抗的だった。


 結果――マカロフ卿とワイズによってたくさんの命が惨殺された――。


「マジかよ」


 俺は冷や汗を流しながら飛び起きた。スキルが発動しないので正確な時間は分からないが、感覚的には2時間ほど寝ていた。


「身体が怠いな」


 そう思って額に触れてみると案の定熱かった。身体の寒気も収まらないことから風邪を引いたなと思った。原因は勿論あの冷水シャワーだ。それに頭痛も酷い――。こうなんか頭がぎゅっと締め付けられるような痛みだ。


「無理だな寝よう」


 俺は再び眠りについていた。


 しばらく経ったときのことだ。意識が目覚め始めて聞こえたのは部屋の扉が開く音だった。


「寝ているのか? ナリユキ・タテワキ」


 聞き慣れた声――間違いないマカロフ卿が俺の部屋に入って来た。手には大きな巾着袋を持っている。


「アンタが来るまで寝ていたさ。その袋は何だ?」


「ああ。これか? これは貴様への手土産だ。貴様に拷問しても協力関係にならないのであれば、こうするしか無かろう」


 俺はその時寒気が走った。風邪を引いているからではない。


 マカロフ卿は黙ったまま巾着袋の中を開けて、俺に向かってソレを投げてきた。


 真っ暗でほぼ何も見えない筈が鮮明に見えた。


「テメェ――!」


 俺はソレを置いて次の瞬間にはマカロフ卿の胸倉を掴んでいた。


「いいプレゼントだろ? 貴様が我々の要求を断るからそうなるのだ」


 マカロフ卿に怒っても俺に渡して来た兵士の命が戻ることは無い――。そう俺が渡されたプレゼントとは、一緒に連行されたカーネル王国の1人の兵士の生首だった。


 俺はマカロフ卿の顔面を一発殴った。しかし勢いで殴ったものの、俺の拳は血まみれになり、殴った俺の拳のほうがダメージを受けていた。拳に鈍痛が走る――。


「っつ――」


 勢いは何発も殴る予定だったが、一発で俺の拳はボロボロになっていた。


「どれだけ殴ろうと私には鋼の体がパッシブスキルで付いている。ただの人間になり下がった貴様のパンチなど効かない」


 俺はそのまま腹部を思い切り蹴られて壁に叩きつけられた。


「くそ……」


 悔しい――。


 それに自分が憎い――。

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