第217話 クセの強い冒険者Ⅱ

「じゃあ早速だが、幻幽蝶げんゆうちょうを探してきてほしい」


幻幽蝶げんゆうちょう? 何だそれは?」


幻幽蝶げんゆうちょうも知らんのか? 100年に1度しか現れないとされている魔物だ」


「カリブデウス。お前俺にマウントを取ろうとしているのか? 殺すぞ」


 カリブデウスにそう睨みをきかせるカルディア。仲間同士の筈なのにそんなに火花散らしてどうするんだよ。


「ナリユキ殿。いつもの事だから気にするでない」


 スカーはそう言って手元にあるホットコーヒーを口に運んだ。


「いつもの事なんだ――クセの強い3人が集まっているけど、何で冒険者なんかやっているんだ?」


「我々は誰にも縛られることなく自由に生きたいのだ」


「でも冒険者だと気に食わない依頼主もいるだろう」


「そういう奴はカルディアが締め上げている」


 めちゃくちゃ怖いじゃないカルディア。


「で? その幻幽蝶げんゆうちょうとやらを捕まえたらいいんだろ? 何匹欲しいんだ?」


 あ、考えてなかった。てっきり依頼は断られると思っていたからだ。俺が隣に座っているクロノスを見ると、コホンと咳払いをした。


「珍しい生き物だが絶滅する生き物でもない。できるだけ多い方がいい」


「そうか。で、その幻幽蝶げんゆうちょうの場所と報酬はどれくらいだ?」


「場所はキメール山。報酬は成果報酬だ。なかなか難易度が高く魔物が強いからとりあえず前払いで金貨1枚ずつだ」


「金持ちってのは羽振りがいいな。いいだろう引き受けてやる」


「カルディアよ。しかし、今回の任務は相当難易度高いぞ? 拙僧もカリブデウスも長い事生きてはいるが、幻幽蝶げんゆうちょうを捕獲した話なんて300年程前に聞いたくらいだ」


「やる気が無いだけだろ。そもそも100年に1度なんて誰が決めたんだ? 誰かがそう言いだして騒いでいるだけではないのか?」


 あらま。この人めちゃくちゃ体育会のニオイするんだけど――身体は細身なのにな。


「まあ――それは言われてみれば」


「姿を現さないなら姿を現す環境を作ればいいだけだろ。幻幽蝶げんゆうちょうが過ごしやすい気候とか、好きな食料とかあるはずだ」


「確かにな――」


 カルディアの意見にカリブデウスは「う~む」と唸っていた。


「おいクロノス。その幻幽蝶げんゆうちょうってのは何が好きでどういう場所を好むんだ」


「正直分からない」


「使えないな。じゃあ何だ? 現れたとされているキメール山の近くまで行けば伝記か何かはあるのか?」


「恐らく」


 クロノスの返答にカルディアは「ほう」と呟いていた。


「まあこれ以上話をしていても時間の無駄だな。早速キメール山に行くか」


 そう言っていたので俺は3人に金貨を1枚ずつ配った。


「本当にくれるんだな。まあくれなかったら殺していたが」


 そう軽く言っているがカルディアの口からは俺を殺せるという自信があるようだ。


「あ、ナリユキ・タテワキ。言っておくが、アンタが視ている念波動の数値は出鱈目だからあまりアテにしないほうがいいぞ? それにスキルもだ。カリブデウスとスカーはそのままだが、俺だけは違うからな」


 どういうことだ? 鑑定士Ⅵで視ているステータスと、念波動の数値が出鱈目ってどういうことだ? 今でも4,600という数字だから大分強いと思うのだが――。


「4,600はただの飾りってことだ」


 そうカルディアが意味深な発言をした瞬間だった――。


 ゴゴゴゴ――という大きな地鳴りが響き、ギルド内を大きく揺るがした。


「なかなか耳障りだな。外が騒がしい」


 カルディアはそう言って扉の奥を睨めつけていた。恐らくパッシブスキルの異常聴覚が発動しているのであろう――騒がしいってことは……。


「何だ? 人が騒いでいるのか?」


「そうだ。察しがいいな。流石に今までの依頼主とは頭のキレが違うようだ。今までは考えずに直ぐに答えを求めてくるアホが大半だったからな」


「とにかく様子を見に行きましょう!」


 クロノスが必死にそう訴えると、俺達は黙って頷きクロノスの後をついて行った。


 ギルドの外に出ると既にギルドメンバーが何かと戦っていた。民家や商店を顧みずに大暴れをしているナニカ。


 ギルドメンバーが全員倒れるとその正体が分かった。


「マーズベルにいるナリユキ・タテワキより、単身で他国に乗り込んでいる貴様のほうが倒しやすいと踏んでな――迎えに来てやったぞ?」


 そう葉巻を咥えながら不敵な笑みを浮かべるのは久しぶりの御対面の相手だ。


「マカロフ卿――随分と派手な登場だな」


「正面突破ってのは前の世界の時からでも好んでいてな」


 そう得意気に喋るマカロフ卿は以前と違い格段にパワーアップしていた。もう完全にノアで勝てる相手では無くなっている。


「何だあの偉そうなのは?」


「あれはマカロフ卿だ。カルディアも聞いたことはあるだろ?」


「アイツがそうか。生意気な奴だな」


 カルディアの問いにクロノスが答えると、何とも言えない苛立ちを見せるカルディア。


「ナリユキ・タテワキ。アンタは依頼主だ。俺が片付けてやるよ」


「いや、マカロフ卿相手は流石に――」


 マカロフ卿にスタスタと歩いて行くカルディアは突如現れた何者かに顔面を殴打された。


「何だお前?」


 ただ、顔面を殴られただけで吹き飛んではいない。風貌は少し違っているが間違いない。あのペイズリー柄の仮面を付けている金髪の男はワイズという男だ。戦闘値は6,300だったはず。何で受け止めれているんだ?


「テメェ!」


 ワイズがそう叫び拳を振り上げようとしたときだった――。


 ワイズの左腕は鮮血をまき散らしながら地面にゴロっと落ちた。


 周囲はその異様な光景に騒然とした。俺やクロノスは勿論。マカロフ卿は葉巻を落とし唖然としていた。


 

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