第212話 イーサンの記憶Ⅰ
起床して用意すると俺はレンさんと医療施設に着くと、俺もレンさんも全身防護服を着て、マスクを付けて感染対策をしっかりと行った。
「意識はまだ無いみたいやな」
レンさんの言葉の通り、ベッドの上で寝ている感染者のイーサンという男――。湿疹がある箇所にはテーピングがされていた。湿疹は出血することもあり、血の色で滲んでいる箇所などもある。
「今は落ち着いておりますが、昨日は術後しばらく暴れておりました。脳波を調べたところ、幻惑や幻覚などの類も見えているのかと思います」
リーズはそう言って深刻な表情を浮かべていた。彼のユニークスキルは、対象者に触れることで、その生物の状態を知ることができる
それで暴れているから、手枷と足枷をしているのか――。ベッドに枷で繋がれた姿は、まさに凶悪な犯罪者を監視しているようだった。
「それもヴェドラウイルスの特徴なのか?」
「いえ――幻惑や幻覚などいったものは無かったと思います。ですので、変異型のヴェドラウイルスかヴェドラウイルスに似た別のウイルスなのか――と言ったところですね」
「ナリユキさんに俺が魔眼で視た視覚情報は共有できるんか?」
レンさんはそう言って俺があげた眼帯を上げて、その綺麗な真紅の瞳を露わにした。
「ああ。できるぞ。それも記憶の一部だかな」
「便利すぎへん? じゃあ俺が視た視覚情報は説明するん難しそうやから、まず俺が先にこの人を視て共有しますわ」
「ああ」
俺がそう言うとレンさん魔眼を使って隅から隅までイーサンの身体を視ていた。
「どうですか?」
リーズの言葉に眉をひそめて「ちょい黙って」と言ったレンさん。リーズは「申し訳ございません」と謝罪していた。
「ふう」
一通り視たレンさんは額から汗が伝っているようだ。防護服の隙間から頬に涙のように流れていたからだ。
「OKや」
レンさんにそう言われた俺は
「ほえ~。記憶抜き取られるの怖いな~。さっき植え付けた記憶がそっくりそのまま一瞬やけど消えたもん」
レンさんは自分の頭を撫でながら怪訝な表情を浮かべていた。
「アードルハイム皇帝が腑抜けた顔になった気持ち分かったんじゃないか?」
「確かに――これめちゃくちゃ怖いスキルやな」
「まあ、完全にチートスキルだからな」
「俺のユニークスキルが霞むな」
レンさんはそう言って苦笑いを浮かべていた。
「では次はこの男の情報を俺が一時的に奪う――が、リーズよ。どれくらいの記憶を奪えばいいと思う?」
「直近1ヶ月の記憶で試されてはどうでしょうか? ヴェドラウイルスであれば、遅くても1ヶ月後に発症しますから――」
「分かった」
俺はリーズが言った通り、イーサンの直近1ヶ月の記憶と蓄えた知性を奪う事にした。イーサンが持つ記憶を全て奪ってもいいが、それだと俺の脳がパンクする。
手でイーサンを触れると、情報が脳内に流れ込んできた。
まず、イーサンという男はログウェルに身を置いている冒険者らしい。パーティーも組まずに、1人で冒険者をしているのは仲間が全滅して閉鎖的になったらしい。そしてログウェルの依頼内容には高額な金貨と1つ願い事を叶えるという報酬の代わりに、背負うべきリスクは命と書かれている怪しさ満点のインパクトの強い依頼だった。依頼主は
イーサンはその
イーサンが待っていると、現れたのは黒いローブに身を包み、金色の蛇柄の仮面を付けたいかにも怪しい男だった。
「君が今回の依頼を受けてくれるのかね?」
その声は男のようだが、何やら違和感があった。まるで作り物のような――。イーサンは何か分からないらしいが、俺はこの声はボイスチャンジャ―の類だと推測する。或いは声を変えることがスキルだ。ボイスチャンジャーの類であれば、今回の件に関してもマカロフ卿ではなくとも、転生者が絡んでいる可能性が高いということだ――。
「ああ――どんな依頼内容なんだ?」
「
「どんな
「そんな事はどうでもいい。君は依頼を受けに来たんだろ? 富と願い事を叶えることができるのだ。これ以上にいい報酬が世の中にあるか?」
「確かに……」
イーサンは不信感を募らせながらも
「死んだ人も蘇らせることができるのか?」
「ああ。アルティメットスキルの
この時イーサンは過去に起きた自分以外のパーティーのメンバーがヴェドラウイルスによって全滅したことを思い出した――。それからは1人の冒険者として活動することになった――。
またヴェドラウイルスか――。
俺は思わず苦笑いを浮かべていた。
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