第211話 エルフの十賢者Ⅲ
「ヴェドラウイルスじゃと?」
「はい」
アーツさんの目つきが明らかに変わった。温和そうな雰囲気から一変し、神妙な顔つきになっている。
「話だけ訊いてみよう。ルミ坊、別室を用意してはくれぬか?」
「勿論です。どうぞこちらへ」
カーネル王に案内されて私達は別室へと移動した。カルカラの他の貴族はというと、クロノスさんの案内で客室に案内するらしい。今晩はもう遅いので宮殿で泊まるそうだ。
案内された部屋には長い銀髪に純白のドレスに身を包んでいる背中に天使の羽根が生えた綺麗な女性が待っていた。
「久しいのうガブリエル」
「アーツ様お久しぶりです」
ガブリエルと呼ばれる女性はそう言ってアーツさんと握手を交わしていた。
「ランベリオン最近会ったばかりね」
「そうだな。何気にうぬとこんなに短いスパンって会ったのは初めてだな」
「そうですね」
ガブリエルさんはそう言って微笑んでいた。
「そちらの女性の方は?」
「私は、元アードルハイム帝国軍、第2騎士団団長のミユキ・アマミヤ。現在はマーズベルに身を置いております」
「貴女様が氷の女王でしたか――初めまして大天使のガブリエルと申します。ルミエール・カーネル王の側近を務めさせて頂いております」
ガブリエルさんはそう頭を下げて来たの、私も頭を下げて挨拶を行った。
「挨拶は大丈夫そうだね。さあソファにかけて。さっきの話の続きを聞かせてくれるかな?」
私達は白い3人掛けのソファに座らされて、カーネル王とアーツさんと対面することになり、ガブリエルさんはそのまま立っていた。
「ヴェドラウイルスが出たということは真なのか?」
「はい。本当です」
「ルイ坊も頭を下げてきたがお主はそもそも見たのか?」
「いえ――見て確認をしたわけではありませんが――」
すると、アーツさんはしばらく沈黙していた。表情からするに何かを考えているようだ。
「ヴェドラウイルス――何て単語を軽々しく言うものではないが――実際どのような症状が出ているのじゃ?」
「症状としては発熱、体中に湿疹などの症状があります。医療施設にはリリアンにいた国民及び観光客が次々と運ばれているそうで」
ランベリオンがそう説明するとアーツさんは首を横に振った。
「それだけではヴェドラウイルスと断定するのは難しいのう。今まで発熱など倒れる者はないなかったのか?」
「少なかったですね。マーズベルの近辺は強い魔物がいるので、よく冒険者パーティーが経験値を稼ぎに来るので、主な患者は怪我人となっております。それこそ、カーネル王国のギルドに所属している者達もよく来ます」
ランベリオンがそう言うと、アーツさんはランベリオンの左隣に座っているルイゼンバーンさんを見た。
「ランベリオンの仰る通りです」
「マーズベルにはお世話になっていますから~」
ルイゼンバーンさんの後に陽気に答えるカーネル王。
「ふむ。で、ヴェドラウイルスと言い始めたのは誰じゃ?」
「リーズです」
「ああ――奴は若いがなかなかの腕を持っているからの。確かに奴がそう言うならば信ぴょう性は高いわな。で、ワシにどうしてほしいのじゃ?」
「感染防止に協力してほしいのです。勿論、マーズベルに滞在して頂いている期間は全力で優遇致します」
ランベリオンの言葉にアーツさんは眉を寄せた。
「勿論、それ以外にも対価はキチンとお支払いするつもりです」
「いや。正直そういう問題ではない」
「と、申し上げますと?」
ランベリオンがそう訊くとカーネル王が横に首を振っていた。
「アーツ様は今、カルカラの国民になっている。カルカラ側が指定した人物は国を自由に行き来することができない。アーツ様はカルカラの最重要人物の中の一人で、医療施設の責任者をいくつも兼任しているんだ。だからアーツ様をマーズベルに向かわせることはできない」
「そんな……」
ランベリオンもルイゼンバーンさんも、カーネル王も表情は曇っていた。
「私自身、ヴェドラウイルスの恐ろしさは身をもって経験しているからね……何とかしてあげたいことだけど――」
すると、ランベリオンがハッとした表情を浮かべた。
「そうだ! ナリユキ殿には
私も含めてアーツさん以外はその意見に同意した――が、アーツさんは渋った顔をしていた。
「
「そんなことはしません!」
私も含めたガブリエルさん以外が食い気味にタテワキさんを庇った。それに驚いたアーツさんはコホンと咳払いした。
「信頼されておるようじゃの。ルミ坊よ、マーズベルの国主をどう見る?」
「ナリユキ・タテワキ閣下は非常に優しく正義感の強い人物です。強い魔物がいるマーズベルの中でも一番強い――それに今後国主という役目をしていくうち、オストロンの
カーネル王がそう言うと、アーツさんは「う~ん」と唸る。
「よかろう。明日出立を少し遅らせるのでナリユキ・タテワキ閣下をこの宮殿に連れてこい」
「ありがとうございます!」
私達全員がアーツさんに対して頭を下げた。これでヴェドラウイルスに対して策を練れる――と思っていたが、それが甘い考えだったことに気付くのはもうしばらく後だ。
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