第203話 マーズベル満喫Ⅰ

「何やめちゃ色々なお店できてますね」


「レン見て! あそこにたこ焼き屋さんもある!」


 と、レンさんとアズサさんが料理屋、武器屋、花屋などのお店が立ち並ぶ、リリアンのメインストリートできゃぴきゃぴしていた。どこもかしこも観光客だらけでリリアンは大分賑わっているようだった。


「2人共楽しそうですね」


 そう、ふふ――と笑みを浮かべながら俺に話しかけてくるネオンさん。


「そうだな。ネオンさんにもマーズベルを色々知ってもらいたいから、ご飯食べた後気になるお店に行っていいからね」


「はい。じゃあお花屋さん見たいです」


「ネオンさンのイメージを裏切りらないチョイスだな」


 すると、ネオンさんは怪訝な表情を浮かべていた。


「ナリユキ様は私に対してどのようなイメージを持たれているのですか?」


「そうだな。可愛いくて大人しいってイメージだから、花やぬいぐるみとかが好きなイメージかな」


 俺がそう言うとネオンさんは凄い――と呟いていた。どうやら当たっていたらしい。


「レンさん、アズサさん。行き過ぎ!」


「え?」


 2人はそう声を揃えて振り返った。街の景観に夢中だったらしい。


「さあ入るぞ」


 俺がそう指したのは麺屋美白湯めんやびぱいたんというお店だ。


「あ、確かにラーメンの看板前にあった」


「お前、たこ焼きやらお好み焼きに夢中やったもんな」


 ラーメン屋らしからぬ外観のこのラーメン屋さんは、全て木造になっているが、筆で【麺屋 美白湯】とヒノキのプレートに大きく書かれていた。そして入り口には暖簾のれんがあるという蕎麦屋のような外観となっている。


「むちゃオシャレ。梅田にありそう」


「難波にはこんなラーメン屋さん多分ないな」


 と、2人は感心してくれていた。俺はどちらかというと渋谷や原宿に出店したらウケそうな外観を、ラーメン屋の店主をやりたいと言ってきた国民と必死に考えた。


「入って」


 俺が一番先に左開きの扉をガラガラと開けると、オレンジ色の照明が俺達を迎えてくれた。


「いらっしゃいませ!」


 まだ12時になっていないというのに、10脚あるL字型のカウンター席は満席となっていた。


「ナリユキ様来て頂けたのですね!」


 そう元気よく挨拶をしてくれたのは20代前半の店主だった。キッチンの男性他2人と、ホールの女性2の合計5人で切り盛りしているお店だ。あと、ナリユキ様って言ったもんだから、お客さんから視線が集中する。中にはラーメンをすするのを止めてわざわざ一礼をしてくれる人もいた。ご飯に集中していいよ本当に。と思いながら俺も会釈をする。


「2階は空いている?」


「空いていますよ! 案内させます!」


 店主の掛け声で1人の女性が「ナリユキ様、お連れ様どうぞこちらへ」と正面に見える螺旋階段を案内してくれた。


「凄いな」


「うち2階建てラーメン屋さん入るん初めてかも」


 ラーメン屋さんは回転が早いからできるだけ、一回転で大勢を入れたいという思いと、ビガーポークのラーメン屋さんは絶対に流行ると踏んでいた。だから最初から2階建てのラーメン屋にしようと心に決めていたのだ。


 4人がけのテーブル席が合計4席ある2階。そのなかでまだ1席しか埋まっていなかったのでラッキーだ。


「カフェやん!」


 そうアズサさんがウッドテーブルとウッドチェアとオレンジ色の照明を見てそう感想を述べていた。


「そうそう。カフェをイメージして造ったんだ」


「めちゃくちゃええ感じやな~」


 レンさんは内装を見渡しながら席に着いた。


 そして、注文は和紙に筆で書かれたメニュー表だ。


「もはや鮨屋!」


「レンはてっきり回転寿司しか行かんと思ってたわ」


「阿呆。これでも俺は社長さんに気に入られるから応援行ったときはよくご馳走なっててん」


「確かに世渡り上手だもんな」


 俺がそう言うと――。


「腹黒いだけですよ」


「何やと?」


 と、アズサさんの毒に喧嘩腰のレンさん。


「本当にいつもこんな感じなの?」


「はい……お恥ずかしい」


 隣に座っているネオンさんに訊くと俯きながらそう返答がきた。


「ラーメンの種類はこのビガーポーク白湯ラーメンの1種類のみ。これとは別で豚アボカドユッケ丼や、高菜ご飯というメニューがある。後は麺の太さは無料で変更出来て、ラーメンの大盛りは銀貨+1枚って感じだ」


 俺がそう説明するとレンさんもアズサさんも目がとろんとしていた。


「豚アボカド」


「ユッケ丼――絶対にヤバいやん」


 レンさんが話した後に続くアズサさん。2人共大興奮である。俺も正直メニューを考案しているときヤバかった。想像しただけでお腹鳴っていたもん。


「うちは絶対ラーメンと豚アボカドユッケ丼」


「俺はラーメン大盛りと豚アボカドユッケ丼やな」


「ネオンさんはどうする?」


「私はラーメンだけでいいです。そんなに一杯食べる事ができないので――」


 と、言いつつ名残惜しそうな表情を浮かべているので――。


「俺は普段ご飯食べないんだけど、ここの丼は正直めちゃくちゃ美味しいから是非食べてほしいから俺とシェアする?」


「いいですか?」


「ああ。じゃあ注文するときにお椀を持って来てもらおうか」


「はい!」


 この時点で満面の笑みを見れたので俺は大満足。客人が喜んでくれるのは何よりだ。


「出来る男は違うわ~」


 俺の顔をまじまじと見てくるアズサさん。アズサさんも可愛いからそんなに真っすぐ見られると流石に恥ずかしい。


 店員をベルで呼んでメニューとお椀を頼んで出て来たラーメンは、味玉とビガーポークの白チャーシュー3枚、ヤングーコーンが1つ、小葱が振りかけられている。クリームのような白い豚白湯スープに中細麵がしっかり絡む至高の逸品だ。そして、一緒に出て来た豚アボカドユッケ丼は、細かく切り分けたビガーポークをご飯の上に敷き詰めて、お椀の外側にアボカド、そして真ん中には卵黄という組み合わせだ。まあ、マズイ訳がない。


「頂きます!」


 そうガッツくレンさんはまずレンゲでスープを味わった。


「ビガーポークの旨さがこのスープにぎゅっと詰め込まれてるわ。ヤバい――」


「コクが深くてまろやかですね。めちゃくちゃ食べやすくて美味しいから、ラーメンの脂に苦手意識がある女性でも何ぼでもいけますね」


 そうコメントをしながらスープだけで、ほっぺが落ちそうになっている2人。俺はその2人の様子を見ながら、ネオンさんの分の豚アボカドユッケ丼をよそっていた。アボカドはちょうど2つあるので分けることができる。始めは1つだったが、この丼のビュジュアルは確実に食べろと脳を刺激する。でもそんなにいっぱい食べれない――。そう考えると分けるという行為ができるので、アボカドは分ける前提で2つ入れる事にした。


「ありがとうございます」


 ネオンさんもスープと丼を美味しそうに頬張っていた。「ん~」と声にならない声をあげていたのだ。


「うんまっ」


 俺は思わずそう口にしていた。だって、このスープのコクの深さってもはやマリアナ海溝だもん。

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