第200話 調査報告Ⅰ

 授与式を終えた翌日。ルミエール、クロノス、レンさん一行が俺リリアンに訪れた。


「めちゃ屋敷デカくなってるやん」


「す――凄いですね」


「ねえねえナリユキ。この屋敷どれくらいの広さになったんだい?」


 レンさんとネオンさんが驚いている中、ルミエールが俺のジャケットの袖を引っ張って屋敷を指した。いや、彼女か。


「いいから袖引っ張んなよ。ここは一応10,000坪あるぞ。だから前みたいに、温泉が直ぐに見える訳じゃないんだ。ちゃんと門を造った」


「立派なお屋敷だね」


「風情があっていいですね」


 ルミエールとクロノスはしみじみとした表情を浮かべていた。一方、レンさん、アズサさん、ネオンさんは口をパクパクさせていた。鯉かよ。


「素晴らしい景観ですね。ナリユキ様はこれくらいがちょうどいいのでは?」


 と、ノーディルさん。アンタ、何気に俺の事ヨイショしてくるよな。もうキャラ分からない。


「さあどうぞ」


 そう言って案内を務めたのはメイド服姿のメイだった。屋敷の敷地内に入ると眼前に広がるのは日本庭園。勿論俺達が屋敷に向かう地面は、石の足場と白砂の地面にしている。左手には池が見える造りとなっている。辺りは草木が生えており、敷地内の外側を竹藪で埋めてみた。


「ものすごく綺麗になりましたね」


「ナリユキさんセンス凄い」


 ネオンさんとアズサさんがそう言っているなか、レンさんは立ち止まって石を触っていた。


「ナリユキさん。この足場の石って大理石ですか?」


「お、良く分かったな」


 レンさんが言った通り、足場の石は大理石にするというアレンジを加えてみた。


「一見、白くなくてグレーやから御影石みかげいしか何かかな思たんやけど、踏んでいる感触が違うかったから気になって触ってみたんや。洋と和の融合やな。こういう造りもあるんやな」


 レンさんはそう感心をして呟いていた。目を見る限りは玩具を与えられた少年のようだ。 


「材質や色は表面加工にしてバレないようにしてみたんだけどな。気付く辺りは流石鳶さんだな」


「せやろ?」


 レンさんがそうニッと笑みを浮かべるなか、一人だ肩を落としている者がいた。


「全然分からなかった」


 そう酷く落ち込むルミエール。その隣で、爽やかな笑みを浮かべて「私は分かっていましたよ」と胸を張るクロノス。本当に従者か? 従者が胸を張って主にマウント取るってどんな関係だよ。いや、俺も人の事言えないか。


 そうしている間に屋敷に着いて客人を貴賓室きひんしつに迎い入れた。


「どうぞこちらへおかけ下さい」


 メイに案内されて着席する6人。


「こんなにかしこまらなくてもいいのに」


 ルミエールは部屋を見渡しながらそう言った。部屋の中は大理石の床に、世界でも最高級ランクに指定されているジェネーブ・ヴァイザーと呼ばれる魔物の革を使った黒い椅子が10席と、ケヤキのテーブルとなっている。


「凄いですね。マーズベルにはジェネーブ・ヴァイザーは生息していないでしょうに」


 クロノスが椅子の肌触りを確かめながらそう呟いている。


「ああ。これは先日青龍リオさんと会った時に貰ったんですよ。絶対にいいから使えって。確かに、五芒星会議ペンタグラム・サミットの時に体の節々が痛くはならなかったなって」


「確かに、五芒星会議ペンタグラム・サミットに使う椅子はジェネーブ・ヴァイザーの革だったね。本当に珍しい魔物の革で入手困難だから、上手に使わないとね」


「ルミエールの言う通りだな。で、今日は調査報告に来たんだろ」


 俺がそう言いながらレンさんに視線を向けると、レンさんは筆ペンで書いた資料を出して来た。


「そうなんですわ。まあマカロフ卿達と直接対峙した訳じゃないのでそこはご安心を。この通りに無事に戻ってきていますんで」


「無事で何よりだ」


「で、しばらく言われた場所で俺達は張っていたんや。そらもう地下から物凄い音がしていたんですけど、マカロフ卿達の戦力は半端じゃなかった」


「それがこの特徴か」


「そうです」


 渡された資料には、6人の似顔絵が描かれていた。左から順番に、青い瞳の黒髪のオールバックで葉巻を咥えている男はジェノーバ・マカロフと名前が書かれている。似顔絵めちゃくちゃ上手いな。それに色付いているし。


 そして、次は金髪で色白の耳が長い翡翠の首飾りをしている女性だ。彼女は森妖精エルフのメリーザ。


「その隣の少年が」


 ネオンさんがそう指して来た。


「俺は人工フラッシュバンを繰り出した少年と同一人物やと睨んでます」


 マカロフと同じ青い瞳を持ち、白い肌の茶髪の少年だった。あの時顔を見ていないから何とも言えないが――。


「念波動の数値が大幅に上がっているようやったけど間違いない」


「感じ取れるエネルギーの感覚は同じでした」


 レンさんネオンさんの念押しに俺はそうだろうなと確信した。


 そして、次は黒装束を纏った目元しか見えない男? だった。いや忍者じゃん。そんで次はウェーブがかった長い金髪と、白い肌に琥珀色の鷹のような眼。鮫のような鋭い歯――。コイツ人間か? 怪しくね?


 最後は黒いジャッカルの顔を持っている人間? いやこれ魔物か。これはどう見たって――。


「これアヌビスだよなレンさん、アズサさん」


「そうなんですよ。誰がどう見てもアヌビスですよね」


「やっぱりナリユキさんもそう思いますか!?」


 レンさんの後に食い気味に前に乗り出すアズサさん。因みに、アヌビスっていうのが意味が分からないここの世界の人間は皆は勿論置き去りだ。


「その――。アヌビスっては何だい? 魔物にしか見えないんだけど」


 ルミエールがそう問いかけてきた。


「アヌビスってのは前の俺達の世界で言い伝えられていたミイラ作りの神様だ」


「そうなのか。レン君とアズサ君に聞いて何か良く分からなかったんだよね」


 てへぺろみたいな表情をしているレンさんとアズサさん。いや、ゴメン。顔腹立つわ。流石関西人。


「本題はここからや」


 レンさんの神妙な顔つきに俺は思わず固唾を飲んでいた。

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