第163話 お迎えⅠ

「で? 来たと」


 あれからしばらく経ちルミエールとクロノスがうちのマーズベル山脈のワイバーンに乗って遊びに来た。いや、言い方に語弊がある。俺を迎えに来たのだ。


「そうだよ。本当にしっちゃかめちゃかにするの得意だよねナリユキは」


 と、言う割には怒っていない。寧ろ清々しいまでの笑顔。


「本当に素晴らしいですよナリユキ様。そもそもアードルハイムを潰そうと思っても行動に出る人はいませんからね」


 クロノスはそう言って片方の膝をついて俺に敬意を払ってくれたほどだ。


「クロノス、別に膝をつかなくても」


「いえいえ。我々では到底できないことだったので」


「そうか。それにしても、五芒星ペンタグラムなんてあるんだったら、連合軍でも組んで潰したらよかったじゃないか」


「それをすると、無害な国民まで被害がこうむるだろ? それに潰したいとは言っておきながら、ガープという存在があまりにも大きいので手を出せなかったんだ。貴重な戦力を割いてまで相手をしたくないのさ」


「成程な――。いや、俺もベルゾーグやベリトがいなかったら行動に移していないかもな。ベリトがいなかったら帝都の国民は地獄を見ることになるし、ベルゾーグがいなければ確実に潰すことはできない。つかまあ、皆のお陰だ」


「羨ましいな。私も王様辞任してマーズベルの国民になろうかな。ほら、私の場合回復玉ヒールオーブをつけることができるから、そこそこのサポーターにはなれるよ」


 と、笑顔で言っているけどクロノスの表情が凄い。


「何をおっしゃいますか! 貴方は歴代でも最高クラスのカーネル王! 国民の圧倒的な支持率を知っているでしょう! それに後継ぎがいません! カーネル王の血を引く者がいません!」


 いつも冷静なクロノスが凄い真剣に怒っているし焦っている。これはこれでレアだ。どんだけ必死なんだよってのは顔の近さ。わずか数十センチなので男女ならもれなくキスの秒読みだ。俺ならする。ミクちゃんと。


「冗談だよ。そんなに怒らなくてもいいじゃん――」


 そう笑っているが俺には分かる。絶対嘘だ。


「嘘ですね。絶対本気でした」


 クロノスが睨めつけると、ルミエールは次第に苦笑いになり、屈みながら地面に文字を書き始めた。


「いいじゃん。私なんか産まれた瞬間から君はカーネル王だ! って言われたんだから……。産まれた瞬間に職業が決まっているなんて虚しいよ」


「何か、ブツブツ弱音吐いてるぞお宅の王様。朝から酒でも飲んだ?」


「いえ飲んでいません。単純に愚痴でしょう。普段絶対に言わないのですが、近くにいるのは私とナリユキ様とカーネル王だけなので」


「成程ね」


 と、クロノスとヒソヒソ話をしていた。


「よし! 飲もう!」


 そう言っていきなり立ち上がるルミエール。この人の情緒は一体どうなっていやがるんだ。


「昼からお酒ですか?」


「何か飲みたくなった。前注いでもらった日本酒が飲みたい」


「どんだけ自由なんだよ。お昼まで我慢できないか? 日本酒に合う料理提供するからそれまで待ってくれよ」


「お! いいね!」


 きらっと目を輝かせて鼻歌を歌いながら屋敷の中へ入ってくルミエール。


「ナリユキと2人で飲んだ部屋に行こう!」


 そうしてルミエールは、以前お互いに酒を酌み交わして名前で呼び合い、タメ口で話し合うと決めた椿の間へ向かった。


「クロノス。俺ちょっと厨房にオーダーしてくるから椿の間に向かってて。案内人つけるから」


「不要ですよ。付けたところで、カーネル王が先についちゃいます」


「それもそうだな」


 そう話し合って椿の間に向かったクロノス。俺は厨房に和食のフルコース松を用意してくれと頼んだ。それだけで、俺とミクちゃんが考案した日本酒に合う料理が出てくる。でもまあ、本当はソムリエとかいれば考案してもらうんだけどな。あくまで庶民の舌で考えたコースだし。


 プラスお茶も持っていくことにした。従者サーヴァント達から、私が持っていきます! いえ、私が持っていきます! と謎の争いを始めていたが、いいんだいいんだ。俺が持っていきたいんだ。と適当に流した。ぶっちゃけ俺が持っていく方が生産性がいいからな。


 椿の間に着くと、ルミエールとクロノスが座布団に座り待っていた。


「ほれ、お茶持ってきたぞ」


「申し訳ございません」


 そう深々とクロノスが頭を下げてきた。この人も大変だな。いや、まあ心のこもり方が異常だから本気でそう思っているんだろうけど。


「ありがとう! で、話が戻るんだけどアードルハイムは結局どうなったんだい?」


「とりあえず、帝都は全部修復したってのはランベリオンから聞いた?」


「聞いたよ。帝都って言ってもリリアンの何百倍もあるけど、数日で立て直したんだろ? 神業だね。ていうか神だよ」


「いや、真顔で言うなよ。まあ復興するには時間かかるからな。超簡易的だったけどな。宮殿と帝国兵本部基地を立て直すだけで丸1日使ったからな」


「で、アードルハイムの国主を五芒星会議ペンタグラム・サミットで決めてほしいと」


「そういうこと」


「で、思ったけど騎士団長はどうなったんだい?」


「ああ。残っている騎士団長は2人だけだな。第1騎士団長のガープはアードルハイム皇帝に殺害された。第2騎士団長のミユキ・アマミヤは俺の国で住むことになる。第3騎士団長のレヴァベルは、ラングドールの助言により帝都外に逃亡で生き延びた。第4騎士団長のラドクルスは帝都内にいたため死亡。第5騎士団のラングドールは当然生きていて、国主の最有力候補かな。まだまだ粗削りだけど国民からの人気が半端じゃない」


「そうか。とは言え兵力数は多いけど、兵力としては大幅にダウンだね。恨みを持っている国がアードルハイムに攻め込む可能性は十分にある」


「そうなんだよ。念話の距離も遠すぎて届かないからな。いいアイデア無いかなって模索していた所なんだ。パソコンでインターネットが使えれば直ぐなんだけどな~」


「パソコン? インターネット?」


 ルミエールもクロノスも頭に全く意味が分からないといった表情を浮かべていた。


「ああ。俺が前に住んでいた世界ではこんな感じの機械で」


 俺がそう言ってパソコンを出してやると、2人は目を輝かせていた。俺が出したのは、ただの黒のノートパソコンなんだけどな。


「この美しい形をしたアーティファクトが、パソコンっていうものかい?」


「そうだ。この機械で世界中の人と簡単に繋がることができる。このパソコンっていうアーティファクトに、仕組みを加えてやると、その動作が可能になるんだ。しかし、俺は残念ながらそのノウハウもない。だから無理なんだよな」


「念話より全然凄い」


「とても便利な世界ですね」


 と、俺の話を聞いて2人は感心していた。

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