第161話 元の日常Ⅲ

 しばらくトレーニングした後は、自分の仕事部屋に戻って、溜めまくったタスクを処理することに。アードルハイム行っていたから考える事がいっぱいで大変だが――。


 その前に書類をどうにかしなければ――。


 俺は隣に置かれている書類の山を見た。


「皆、意外とアイデアを出すんだな」


 1つは、俺がアードルハイム帝国に行く前に、残っている皆に出した宿題だ。マーズベルを発展するためのアイデアなら、何でもいいから出してほしいと。


 当然何でも出していいと言うと、皆が困ってしまいストレスを与えてしまうので、ある程度制限を設けた。例えばリリアンでやりたいお店はあるか? とか、こういうアーティファクトがあったら観光客が増えるんじゃないか? とかなどだ。また、マーズベル山脈の鉱脈をもっと拡張したい! とかなどの要望でもいいわけだ。


 この書類に関しては合計で50枚。他の書類に関しては、俺が留守にしている間の報告書とかだ。運営ってのはやっぱり大変だな。俺が昔やっていたことは、営業活動と5人の部下のマネジメントだったからな。それ考えるとまとめる人数が一気に増えたな。普通なら統率も難しいが、俺が神格化されているのでその辺は楽だ。


 そう書類に目を通しながら1つずつ赤ペンで修正してほしい箇所コメントしたり、いいと思った事はただただ褒めるだけのコメントをした。しばらくそうやっていると、コンコンと部屋をノックする音が聞こえた。


「どうぞ」


 俺がそう言うと部屋に入っ来たのは 従者サーヴァントではなく、メイド服姿のメイだった。


「あれ?」


 俺が首を傾げるとメイはあたふたとしながら。


「お――。お茶をお持ち致しました」


 と、頬を紅潮させながらコップに入ったお茶をデスクに置いてくれた。


「もしかしてその服装が恥ずかしいのか?」


「は……い……」


 と、耳の先まで真っ赤に染まっていた。もし、ミクちゃんがいなければ可愛いさ故に爆発していたところだ。それこそ、SNSなんかで写真が上がってみろ。裏垢なら間違いなくいいねを押している。イラストだったらどうかって? 本垢でもいいねしているな。


「この服どうですか? あまりその慣れていないので」


「似合っているよ。まあ――。あれ? メイのだけワンピース全体的に短くないか?」


「え? そうなんですか? ミーシャさんにこれを着るように言われたのですが――」


 アイツ何を考えているんだ? あとで聞いておこう。オジサンからすると丈が短いのは眼福だがな。ただ目的が分からんから、もう少し長いいつものメイド服でいい。いや、無難にメイド喫茶なんか開いたら、観光客の男共はお金落とすよな? いや、でも大事な国民に色目使わせるのってどうなんだ? メイみたいな引っ込み思案な 森妖精エルフではなく、アリシアみたいな色気がある、オープンな性格の人の方がいいか。変な事したら普通に怒るだろうし。うん、検討しておこう。


「いい! サンキュ!」


 俺がそう言ってガッツポーズをすると、メイは「あれ? あれ? あ――。ありがとうございます!」と、とりあえず訳も分からず頭を下げていた。


「では私はこれで失礼します。また何かございましたら念話でお声がけください」


「おう。分かった。ありがとうね」


 俺がそう言うと、何故かまた顔を紅潮させていた。いや? マジで何で?


「さて――」


 と、意気込んでいると、またノックの音がした。マジで?


「どうぞ」


 すると、レンさん達が入って来た。


「失礼します。忙しいのにすみません」


「おう、どうした? もう出発?」


「いや、せっかくやしマーズベル観光したいなと思いまして。んで、誰かつけてくれへんかなって」


 と、申し訳なさそうなレンさん。


 勿論、アズサさんも、ノーディルスさんも、ネオンさんも同様の表情をしている。


「誰もいいぜ。特別な」


「じゃあべりーちゃん!」


 と、レンさんが即答した。


「――。却下。その稟議は通りません」


「何でなんですか! クソオオオオ!」


  と、めちゃくちゃ頭をかいていたレンさん。いや、オーバーリアクションが凄い。流石関西人。


「ミクちゃん、ランベリオンは仕事があるから無理。じゃあアリシアとかどうだ?」


「お、お、お、恐れ多いです!」


 と、全力で拒んできたネオンさん。もう何かギャグ漫画みたいな表情しているぞ。つけてほしそうだけど、申し訳ないみたいな。そんな複雑かつ面白い顔。普段のネオンさんをイメージしていると想像つかん。某顔芸モノマネタレントのような顔の忙しさだ。


「うち、アリスちゃんがいいです! 面識あるし!」


「確かにそうだな。よし念話で呼ぶか」


 て、思ったけど冷静に考えたら、 人魚姫マーメイドの姫を安売りし過ぎである。当人は気にしていないだろうがな。そうしてアリスを待つこと数分。


 アリスが部屋をノックして来て入って来た。


「どうぞ」


「失礼致します」


 そう入って来るなり、アズサさんがアリスに飛びついた。


「可愛いわ~」


 と、抱きしめながら頬ずりする姿は、久々に家に帰った時に、愛犬に向ける愛情表現のソレだった。ミクちゃんも一緒の事するし、同性からでも好かれるタイプの童顔美少女だもんな。んで、出るところ出てるし。


 何だろ。アリスの結婚相手は絶対に立ち会いたいのだが?


「じゃあ回ってきますね」


「おう! 楽しんできてな!」


 そう言って、レンさん、アズサさん、ネオンさんが出て行った。と――。ノーディルスさんが残ったまま。


「どうした?」


「レン達が観光している間、鍛錬をつけて頂きたく存じます」


「遠距離だもんな――。ベリトとかどうだ? ベリトは遠距離に特化したアクティブスキルがあるからな。あと一応近接攻撃も覚えておいたほうがいいから、剣術教わるのもアリ」


 俺がそうやって厨二病臭い剣を出してあげると「おお!」とめちゃくちゃ喜んでくれた。金色の骸骨が柄になっている黒刀だ。適当に考えたけど、まあまあ凝ったデザインだと思う。


「ありがとうございます!」


 全力で頭を下げてくれた。もう誠意がうるさいくらい伝わる。


「いいんだよ。連絡して来させるから、屋敷の前で待っててくれ」


「かしこまりました。本当にありがとうございます! 失礼致します!」


 そうキビキビと動き、この部屋を出て行った。人型化ヒューマノイドだからそんなに違和感無いけど、ノーディルスさん冷静に考えたら、体長5mの上位アンデッドだもんな――。シュールだ。


 これで一安心と。さて仕事続行だ。

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