第160話 元の日常Ⅱ

 そしてあれから朝食を摂り終えて、ひとまずストレッチを行った。いつもミクちゃんとコーヒータイムを9時頃まで楽しんでいるが、今日はというと最近筋トレしていないことに気付いた俺は懸垂マシンやらダンベルやらを屋敷の外に置いた。


 俺がその懸垂マシンを使い、とりあえず10回程頑張ってみた。久しぶりにやるとその10回で背中はクタクタになる。こういうハードなトレーニングを行う時は、EAAっていう必須アミノ酸を摂取しながら、トレーニングすると、筋力増強が促進されるからいいんだけど――。


「無いもんな~」


 俺がそう呟いていると、ミクちゃんが水を持って来てくれた。


「なりゆき君、本格的にしているね」


 そう言ってほいと渡してくれた。屋敷近くでとれるマーズベルの美味しい天然水は、この世界では珍しいペットボトルに入っている。


「サンキュ」


 俺は水を一口を飲んだ。


「美味しいな。本格的にトレーニングにしているのは、スキルばかり使っていると筋肉がね――。増やすのは大変なのに、衰えるのって早いから。それに戦闘はしていたけど。実質、身体向上アップ・バーストとかで補填しているからな」


「それで懸垂10回できるの凄くない?」


「慣れだよ慣れ。やってみるか?」


「うん」


 ミクちゃんはそう返事してくれたので、懸垂マシンの使い方を教えてた。左右に2種類ずつ取っ手があるが、俺が行っていたのは、背中を鍛えるトレーニングなので、肩幅の倍以上ある位置にある取っ手を持ってもらった。取っ手に届かかないミクちゃんの為に補助台を用意して、いざチャレンジ。


 腕がプルプルしているだけで不動のミクちゃん。


「む……り……」


 顔を真っ赤にしてそう言うもんだからどこか艶めかしい。


「無理しなくてもいいよ」


 ミクちゃんは補助台に一度足をつけて降りた。


「できる気がしない」


「最初はそんなもんだよ。無理にやって痛めるのも駄目だしね」


「一応、回復ヒールで回復できるけどね」


「確かにそうだった」


 そうしていると、ランベリオンが帰って来るなり、物珍しそうな表情な目で、懸垂マシンを見ていた。


「ナリユキ殿。それは何だ?」


「懸垂マシンってやつだ。こんな風に筋力トレーニングをするんだぜ」


 俺がそう言って手本を見せると、ランベリオンは人型化ヒューマノイドになった。


「我もやってよいか?」


「勿論」


 するとランベリオンは「よし」と意気込み、数回やってみせたが、俺が言った目標の10回はできなかった。


「馬鹿な――。我は飛竜ワイバーンの王だぞ!」


 と――。かなりショックを受けていたが、俺から言わせれば当たり前だ。


「ワイバーンって背中をトレーニングする習慣あるのかよ?」


 すると、ハッ! とした表情をしていた。このワイバーン本当に天然だよな。


「それより、ルミエールは何て言っていたんだ?」


「ああ。またナリユキは――。って頭を抱えていた。結論から言うと、やはり五芒星会議ペンタグラム・サミットに呼ばれる可能性は高いとのことだ。従者を一人連れて行くのが定石だから――。まあミク殿だな」


 ランベリオンがそう言うと、ミクちゃんはえっへんと威張っていた。いちいち可愛いと思う俺は病気でしょうか?


「ってことは、魔族と龍族の国主に会えるんだな!」


「そういうことになるな――」


 と、何故か気圧されているランベリオン。何で?


「ナリユキ殿が気になっている2人を紹介しよう。まずはヒーティス共和国だ。ここは比較的に女性が多い国で、男にしてみればまさに楽園の国と呼ばれている。もう元の国に帰りたくなくなるほど、男という存在が重宝される。その国を統べる国主こそが、アスモデウスと呼ばれる女性の魔族だ。彼女を見た者はその美貌で、まるで生気を吸われるかのようだとか――」


「だとか? 会ったことないのか?」


「あまり憶えていないんだ。友人が言うには会ったことあるらしいが――」


「お前、もしかして生気吸われて、記憶飛んでるんじゃね?」


 俺とミクちゃんがジトリと見ると、ランベリオンは首を左右にブンブンと振った。


「そ――。そんな事はないはずだ!」


 と、威張っているが少し焦りの表情も見せる。これはつまり友人の話が信ぴょう性が高くて、自分の記憶に自信が無い証拠だ。


「で? 龍族のほうはどうなんだ?」


「オストロン連邦国を統べる龍族は、青龍リオ・シェンラン。近接戦闘を得意とした国を統べる長だ。国主になって1,500年ほどと聞いている。つまり我が生まれる前から国主だ。五芒星ペンタグラムのなかでは一番長い間国主をしている」


「えらい。長いな。それだけ人気ってことか」


「そういう事だな」


「何か質問あるか?」


 すると、ミクちゃんが挙手した。


「ミク殿」


「そのアスモデウスさんって人は、男性を皆魅了するんですか?」


 と――。不安気なミクちゃんに何となく察した。それが、例えば洗脳の類な俺には効かないけど、それ以外のことならヤバいな。アスモデウスって明らかに色欲の女王の名前だし――。相手は魔族。相手は魔族。相手は魔族。そう、唱えて一切の邪念を払うしかない。


「そうだな――」


 そう言いながら考えるなり俺を見たランベリオン。


「人によるとは思うがナリユキ殿なら大丈夫ではないか」


 すると安堵した表情を見せたと思えば。


「ふぇ!?」


 そんな腑抜けた声を漏らした。やばい。今の声録音しておきたかった。クソー!


「何でナリユキさん何ですか!?」


「え? そういう事だったろ?」


 かあっと顔が紅潮していくミクちゃんは屋敷の中へ入って行った。


「我なんか変な事言ったか?」


「いや、恥ずかしいから逃げたんだよ。お前分かってて言ったろ?」


「そういう質問だと思ったから」


 と、困った表情されても! 鋭いのか鈍感なのか分からん!


「分かった。ありがとうな! それともう1つ頼まれてくれないか?  親友ともよ」


「何だ?」


「アマミヤがログウェルにいる子供達をこっちに連れて来たいらしいから、レンファレンス王国からブラックマーケット行けただろ? そのルート使ってログウェルに連れて行ってやってほしいんだ」


「分かった。ミユキ殿はどこに?」


「今は風呂に入っているから、念話で集合させるから準備ができ次第行ってくれ」


「了解した」


 そうしてランベリオンを屋敷のなかで待機させた。勿論俺は筋トレの続きだ。適当にダンベル25kgずつくらいでトレーニングすることにした。


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