第159話 元の日常Ⅰ

 戦闘しない平和な朝を迎えた。


 勿論、隣に寝ているのは天使――。服はだけているな。ミクちゃんの服は、前のボタンが全て外れていて、白い柔肌がこれでもかという程開いていた。当然、少し服を脱がせればナイトブラ姿のミクちゃんを拝めるわけだ。いや、まあ既にちょっと見えているんですけどね。因みに色は黒。


 昨日は22時くらいには寝ていたから、がっつり8時間の睡眠をとったことになる。現在の時刻は朝の6時。ミクちゃんが起きるまで残り1時間。


 俺はシャワーを浴びた後、髪を早速整えた。そして、部屋を出て外を散歩することにした。


 自然の香りを存分に堪能することができる。気持ちいい朝だ。小鳥達のさえずりが聞こえてくる。


 そう自国の自然を堪能していると、アマミヤがポニーテールの髪を揺らしながら、こっちに向かって走ってきた。服装を見ると戦闘服では無さそうだ。白いシャツに短パンという軽装。首にはマフラータオルを巻いていた。俺が用意していた宿のアメニティをがっつり使ってくれているようだ。


「タテワキさん朝早いんですね」


「そういうアマミヤこそ早いな」


「朝5時に起きてランニングするのが日課なんです。この国凄くいいですね。空気が本当に美味しい」


「俺が感じたマーズベルとアードルハイムの違いは、マーズベルが東北の空気で、アードルハイムが東京の空気くらい違う」


「確かにそうですね」


 「ん」と両手を上げながら伸びをしたときに、一瞬だけ見えた脇にドキッとしてしまったのは内緒だ。ミクちゃんごめん。


「あれ? どうしました?」


「いや、何でもない」


 と、言うとアマミヤは首を傾げていた。


「出発はいつするんだ?」


「そうですね。朝の9時くらいを予定しています」


「場所はどこ?」


「ログウェルなんですよね」


「えらい遠いな」


「そうなんですよ。でもまあ長旅だと思って楽しんできますよ」


「一応近道知ってるけど」


「本当ですか?」


「ああ。レンファレンス王国から行けるんだ。ブラックマーケットに通じる道なんだけどな。裏ルートで行けるから待ってくれ。ランベリオンが帰ってこないことには話が進まんからな」


「ありがとうございます! じゃあとりあえず私、シャワーしてきますね。タテワキさんの屋敷の露天風呂気に入りました」


「おう。それは何よりだ」


 アマミヤはそう言って俺の屋敷の方へ向かって行った。


 で、俺はというと久しぶりに魔物小屋に顔を出した。もう朝早くからノアが魔物達に餌を上げている。


「ナリユキ早いねおはよう」


 小屋に足を踏み入れるとノアが爽やかな笑顔で迎えてくれた。始めは眠い眠いと駄々をこねていた気がするが、今は慣れたのか、こんな朝早くでも活気溢れるいい爽やかな表情をしている。


「おはよう。昨日は寝るの早かったからな」


「なるほど。ミクは寝ているの?」


「そうだな。せっかくだし久しぶりに覗いていいか?」


「勿論」


 そう言われて、ノアに案内された魔物小屋。電黒狼ボルト・ウルフや、地風竜ローベスクなどの魔物達が沢山いる。顔色を見る限りきちんと世話は出来ているようだ。


 認知されているのか、電黒狼ボルト・ウルフや、地風竜ローベスクは俺を見るなり軽く頭を下げて会釈しているのように思えた。


「何か会釈された気がするんだけど」


「この子達はボク達が話す言語が話せないだけで知能は高いからね。自分達を束ねていたリーダーは勿論だけど、そのさらに上の存在のナリユキのニオイやミクのニオイは覚えているのさ」


「成程――。それ凄すぎない?」


「だから知能高いって言ってるじゃん。ボク達が話している内容もきちんと理解しているから、ボク達を侮辱するような事を、ここで話す奴がいたら襲い掛かるだろうね」


「嬉しいが複雑な気持ちだな」


「ボクは嬉しいけどね」


「だろうな」


「じゃあついでだから、庭園にも顔を出しに行く?」


「そうだな」


 小屋を一通り歩いた後、庭園と呼ばれるところに来た。ここは魔物だけのスペースになっており、木々に囲まれた中に突如現れる噴水と、その噴水を飲んでいる様々な魔物。小型のグァイアスやその他の怪鳥、巨大なエリマキトカゲみたいな魔物もいて、冷静に考えるとこの辺りはサファリパークそのもの。当然、野放しってのは危ないので、ある程度の強さがないと、入れない結界を辺りには施している。襲わないように指示しているけど、万が一のことを考えての施策だ。


「皆、元気そうだな」


「ボクなかなか頑張っているでしょ」


「そうだな。何気に食料もめちゃくちゃ取って来るもんな」


「もっと優遇してくれてもいいんだよ」


「考えておくよ。まあノアが他にやりたいことがあれば別にいつでも言ってくれていいけどな」


「いや、ボクは今こうしてのんびりできているから満足だよ。それにしてもナリユキ強くなったから、ボクに勝てるんじゃない? 800層目のボスも倒せると思うよ?」


「本当か?」


「うん。多分900層もクリアできるんじゃないかな?」


「マジか――。でも1,000は無理なんだよな」


「未知数だからね~」


「めちゃくちゃ気になるんだけど」


「Z級の強さだから誰も戦いたと思わないと思うけどな。気になるって好奇心は分かるけど」


 と、頑なにノアに止められている。え? そんなに強いの? ノアが怖気づくほど? まあでも800層の時点でヤバいらしいから、それはそうか。龍族って言っていたもんな。めちゃくちゃ強そうだけど、ガープとアードルハイム皇帝のお陰で大分強くなったからな。つか、スキルを貰っただけだけど。


「そろそろ戻るか」


「そうだね」


「朝飯食べるだろ?」


「勿論!」


 と、明るく元気に返事をしてくれたノア。ショタコンホイホイとは恐らくこの事だろう。

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