第138話 激突Ⅰ

「アリシア!」


「はい!」


 俺の掛け声でアリシアが手を向けると、重厚感ある鉄の扉は大きく開かれた。


 部屋の奥には錠で身動きができないミクちゃんと、氷漬けにされているアリスの姿があった。


「ミクちゃん!」


「なりゆきくん!」


 ミクちゃんはそう応えてくれた。どうやら無事のようだ。見たところ、これと言った外傷も無く、酷い事をされたわけでもないようで、内心ほっとした。


「待ってろ。すぐに助けるからな」


 問題は手前にいる3人の人物――。


 中央にいるのは、黒髪のオールバックをした葉巻を吸っている男――。そうマカロフ卿だ。そして、その右隣にいるのは鎧を着ている短い銀髪の男性――。ガープ。そして一番左にいるのは――。


「アマミヤ――」


「待っていましたよ。タテワキさん」


 間違いない彼女だ。生前とは違い、長い黒髪を後ろで束ねたポニーテール。雪のような白いくてきめ細かい肌は変わっていない。そして、ぱっちりとした二重と、凛々しさを感じる釣り目。


 自殺したのにこんな世界にくるなんて彼女は願ってもいなかっただろう。ただ、ブラック企業で勤めるよりかはマシって話だが、あの時と表情はさほど変わっていない。一見何も変わって無さそうにも思えるが、彼女の瞳の奥からは黒い淀みのようなものを感じた。


「こっちの世界でも苦労はしているようだな」


 どう話せばいいのか分からなくて、率直に思ったことを口走ってしまった。するとアマミヤの両目から涙が溢れていた。彼女の身に何が起きているのか到底理解し難いが、現状辛い状況の最中ということは容易に想像できる。


「このなかで自由なのは俺だけだからな。しかし、アードルハイム皇帝の命令だ。部外者は排除するぞ」


 マカロフ卿は葉巻を捨ててスペツナズナイフを取り出した。


「なあ。ナリユキさん。マカロフ卿は俺にやらせてくれへんか? リベンジしたいねん」


「あまり賢明な判断とは言えないぞ」


「アリシアさんのことやから念波動使えるやろ? 俺の今の数字測ってみ?」


 アリシアは「はい」と返事してレンさんの数値を測った。


「5,000――。私より全然強くなっています」


 すると、レンさんはニヤリと笑みを浮かべて眼帯を取り外した。真紅の綺麗な右の瞳はまるで宝石のように輝いているが、瞳の奥は禍々しさが漂っていた。


「ガープ。魔眼で逃げられたって言っていたのはあの小僧のことか?」


「そうだ」


「――。俺が見込んだ通りだな」


「何か言ったか? というか、知っている口ぶりだが知り合いか?」


「ノーコメントだ」


「レンさん――」


 俺はレンさんを睨めつけると――。


「こっわ! え? 言うてへんかったっけ?」


「記憶では聞いてないぞ」


「あれ? おかしいですね」


 と――。レンさんは苦笑いを浮かべている。まさかマカロフ卿と一回接触しているとは思って無かったぞ。


「マカロフ卿俺が相手や。不足はないやろ?」


「そうだな」


 レンさんとマカロフ卿はそう言って戦闘を始めた。


「アリシア。ミクちゃん達のところにバリアを張ってくれ」


 アリシアは俺の指示に従い、ミクちゃんとアリスがいる場所にバリアを張ってもらった。ミクちゃんが使う星光の聖域ルミナ・サンクチュアリとは違い、一時的な防衛スキルではなく、アリシアのMPを消費し続けることで、展開できる聖属性のどんな攻撃も防ぐ防衛スキルだ。


 それにしても、レンさんとマカロフ卿の戦いは見ておきたいところだが――。


 俺は向かってきた小太刀の刃先を、顔の前でピタリと止めた。


「久しぶりだな。アマミヤ」


「そう言っていられるのも今のうちだけですよ。私としては、どうしても貴方に退場して頂かないといけないのですから」


「そうか」


 今は――。君を戦闘不能にすることだけを考えよう。


 アマミヤは目をパっと見開いた。


「それが手から何でも出せるスキルね。タテワキさんらしいわ」


 俺が手から出したのは、フルオートショットガンのAA-12を取り出した。そして、左手をアマミヤに翳す。


排除リジェクト


 その言葉と共にアマミヤは壁に向かって吹き飛ぶ。俺はすかさずアマミヤの足を狙い放った。


氷の壁アイス・ウォール!」


 突如として地面から出てきた氷の壁――。俺はロケットランチャーを手から出して、ぶっ放した。


 俺のパッシブスキルには、銃弾強化Ⅴ、爆破強化Ⅴ、爆破範囲強化Ⅴがついている。よってそんな氷は俺からすれば関係ない。


 放たれたロケット弾は見事に氷の壁アイス・ウォールを破壊した。しかし壁の外側から、アマミヤが壁を思いっきり蹴りこんで俺の向かって飛んできた。このスピードは恐らく身体向上アップ・バーストを使っている。


 俺は大きく息を吸い込んだ。


火炎放射フレイム・バースト


 口から射出された炎は、アマミヤに向かって一直線で飛んでいく。


 すると、アマミヤは驚くことに空中で回転しながら、俺の喉元に向かって小太刀を突き出した。


「もらいましたよ!」


 まあ、さっき防御したけど、俺には斬撃無効が付いているから意味がいないんだけどね。


 残り数メートルとなったところで分かった。アマミヤの左手には冷気が集中している。これは、凍結フリーズ絶対零度アブソリュート・アイスのどちらかだ。


 俺は咄嗟に手を向けてロケットランチャーを放った。


 突如として起こす小規模の爆発。


 零距離で放たれたロケットランチャーの威力は、さすがに反応できないだろう。


 煙で何も見えないが、死の領域デス・テリトリーが発動していないことから、アマミヤは近くにはいないので、不意打ちをしてくる心配はない――。ということはダメージは効いているはず。


 煙から晴れていくと、アマミヤの影が見えた。床に這いつくばっているとこを見るとダメージは効いている。さて――。どう出てくる――。

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