第134話 始動Ⅵ
ナリユキ殿と、アリシアを背に乗せてアードルハイム帝国に向かった。勿論、張られていた結界はアリシアが解除して、帝国側に気付かれることなく通過できた。こうして考えると警備はとても薄い。いや、まあそれはマーズベルにとってはの話だな。
「それにしても、俺がお前に殴られる日がくるとはな~」
「ナリユキ様吃驚しておりましたもんね」
「おい、ちょっとからかっただろ」
「それは反応が可愛かったので」
と、クスクスと笑っているアリシアの顔が容易に想像できる。仲がいいのはいいことだが、ミク殿がこの光景を見て嫉妬しないか心配だったりする。
「痛かったのは科学的根拠になるものが無いからな」
「そもそもスキルっていう概念が科学でも何でもないのですが。俺達の世界じゃあり得ないもん」
「それはそうだった。さて飛ばすぞ」
我が猛スピードを出すと帝都に近付いてきた。眼下に見える森の中に一度入る。
そこで一旦、我等は先程の作戦述べた作戦を実行する。
「ここで待機していろ。家を建てておくからよ」
ナリユキ殿はそう言って、小屋をいくつも建てた。これをする度に、マーズベルの国民は、ナリユキ殿に異常なくらい感謝する。こう言っては何だがこの光景は飽きた。
「ナリユキ様。くれぐれも気をつけて下さい。ご武運を」
フィオナがそう言うと、ナリユキ殿はクスっと笑みを浮かべていた。
「まるで俺が長い旅をするようじゃないか。大丈夫だ。安心しな。アードルハイム帝国の暗黒時代に終止符を打とうぜ」
「はい」
そう頷いたフィオナはそれ以上に言葉が出ない程感極まっていた。
我等も――。昔ではあるがアードルハイム帝国が絡んで大切だった友人を失くしている。けれども、ナリユキ殿には死相や嫌な予感というものは見えない。絶対的な安心感――。これがナリユキ殿の神髄だ。
「さあ行こうぜ」
「はい」
「おう」
フィオナを含めた
「もっと中心に行ってください。そこから大きなパワーを感じます。恐らくノア様かと」
「それはどの辺りになるのだ?」
「説明が難しいですね――。あ! あそこで大量に倒れている鎧を着た兵士の近くですね」
「分かった。スピードを落とそう」
そうゆっくりと飛行していた。これはベリトがやったのだろう。民間人がいないことを考えると、もう任務を終えているようだ。勿論、ただ逃げた人もいるだろうが。
「あの家ですね」
「妙に縦に横に長いな。いや家からすると縦か」
「どうでもいいことグチグチ言っていないで、降りようぜ」
「いつも通りの雑さで安心だ」
「――。今思ったんだけど、それが俺の精神バロメーターになってる?」
我が見抜かれたので無視していると――。
ブチッ――。
「いったい! ナリユキ殿! 我の体毛抜いたろ!」
「お――。分かるんだ」
「ワイバーンの王の体毛を抜くのは流石に酷すぎるぞ。よし着いたぞ」
我は着陸すると、建物の入り口が破壊されて剥き出しになっていた。それに建物の前には黒焦げになっている人が数人倒れている。
「誰がやったのだろう」
「多分レンさんだな。俺が依頼した冒険者グループで一番強い人だよ。炎の攻撃スキルで近距離と中距離が得意っぽいんだ。アルティメットスキルなんてバリバリの和名だしな」
「何という名前だ?」
「
「ほう。ちゃっかり初耳だな」
「あら意外。アリ――」
ナリユキ殿がそう言おうとしたとき、アリシアは既にノアのスキルの解除に取り掛かっていた。
「俺の部下優秀じゃね?」
「元マーズベルの森の管理人だからな」
ピキピキと氷が割れる音がした。
「お、ナリユキ! 皆!」
と言って無邪気にナリユキ殿の胸に飛び込むノア。
「ごめんね。ミクとアリスを守れなかった――。一瞬で氷漬けにされちゃったんだ」
と、すすり泣きをしているノア。ここまで子供っぽい表情を見せたのは何気に初めてかもしれないな。
「ノア様が氷漬けで動きを封じられるなんて、凄い手練れですね。本当に私のスキルでなければ解除できる人間は他にほぼいないでしょう」
「まあミクちゃんで無理だったくらいだからな。アリシア有難う」
「いえいえ。褒めても何も出ませんよ」
なんで。腰をクネクネさせているんだこの
「とりあえず状況を教えてほしい。ノアは誰にやられたんだ?」
「ちょっと待ってね――」
ノアはしばらくう~んと考えた。しばらく考えた後、手をポンと叩き。
「思い出した! ミユキ・アマミヤって名乗っていた」
「ミユキ・アマミヤ――?」
ナリユキ殿は何か思い出しかのように、名前を小さく呟いていた。知り合いなのだろうか? そして、ゆっくりと口を開いた。
「黒髪の女性で、肌はミクちゃんと同じくらい白かったか? 釣り目だったか?」
「そんなに言われても分からないよ。ボクは根本的に他人に興味ないから、名前を憶えていただけでも褒めてほしいくらいだよ!」
「ああ悪い」
ナリユキ殿の顔色は明らかに悪かった。まるで血の気が引いたような――。そんな顔色だった。
「もしアイツだったら俺に復讐か? いや、そもそも何でアードルハイム帝国なんだ?」
「大丈夫――。では無さそうだな? 我に話してみてもよくないか? 少しは楽になるかもしれないぞ?」
ナリユキ殿は立ちくらみをしていたので、我が支えると「悪い」と感謝の述べた。普段、ナリユキ殿はこのような弱い面を見せない。少し人間味があってホッとしたような気がするが、冷静に考えると、ミク殿が隣にいたからこそ、弱い自分を見せたくない――。という想いが顕著に出ていたのだろう。勿論、ミク殿の行方が分からない為に、余計に精神名が不安定になっているようだが。
そう考察していると、ナリユキ殿がスウと息を吸った。そしてゆっくり吐く。
「同姓同名だが――。俺がこの世界に来る前の友人に、ミユキ・アマミヤという人間がいた。その
意外な繋がりではあるが、それは同時に複雑な繋がりのような気がしてならなかった。
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