第131話 応戦Ⅱ
「やっとくたばったか」
「ラングドール様!」
クリンコフは真っ先に駆け寄り、ラングドールを抱え込んだ。
「クリンコフ――。彼と共闘して彼等を退けてくれ……」
「いけません。貴方を死なせはしない。今すぐに医療班を呼んできます」
「残念ながら医療班はほぼ壊滅だ。今、まともに治療できる者はいない……」
ラングドールの声は弱々しくなっている。こういう時ガーゼやら何やら――。
「俺が治す」
無意識のうちに俺はそう口走っていた。何でできると思たんか分からへんけど、何かできるような気がしたんや。
俺がラングドールに近づくと、ラングドールは驚いた目で俺の顔を見た。
「邪眼を持っている今、初歩的な事やったら割と何でもできるみたいや。安心せえ」
俺はラングドールの傷口に
「これくらいが限界か。体力までは回復できへんし、傷口を完璧な塞いだわけちゃうから、痛みはまだあるはずやあから無理に動いたらアカンで」
「ありがとう。恩に切る」
ラングドールはそう言って安堵したように眠りに落ちた。
「クリンコフ。ラングドールを安静な場所へ」
「分かった」
クリンコフは奥の部屋にラングドールを連れて行く。
「させるか!」
帝国兵がそう言って投げナイフを飛ばしてきた。
俺が2本の指で投げナイフをキャッチすると、目を大きく見開いて驚いてた。
「何や。そんなに不思議かいな?」
「上位のアンデッドが2体味方にいるからって調子乗りやがって!」
「あ――。忘れてた。お前等反乱軍の兵士の味方になって、帝国兵蹴散らしてこいや。別に殺してもええ。でもアンデッドがあれやと絶対にパニックなるよな――。ちょっとじっとしておけよ」
俺がそう言うと2体の上位のアンデッドは黙って頷く。
俺はアンデッドに触れて
「よし行ってこい」
俺がそう言うとアンデッド、目の前の帝国兵を置き去りにして反乱軍の加勢を行った。
「さっきから舐めた真似を――!」
「何でお前みたいな奴にラングドールが負けたんか知らんけど、とりあえずどけや」
俺がそう言って睨めつけると帝国兵は発火し、断末魔を上げながら走り回っていた。むやみやたらに走るもんやから、味方の剣撃に巻き込まれてそのまま死んでた。
「やっぱりや。他の人間は一切熱くなさそうやから、このスキルは飛び火しやんねや。どういう原理やねん」
不思議な力やなと思いつつ、改めてこの邪眼のスキルの恐ろしさを知った。視ただけで発火するんはなかなかのチートや。
「さて応戦しますか」
店の外を見るとやっぱり酷いもんやった。邪眼の効果である程度はどないなってるんか分かっていたけど、大量にいる帝国兵に対して、反乱軍の数はえらい少なかった。
それでもノーディルスが派遣してくれたアンデッドの活躍ぶりは凄く、帝国兵をバサバサと斬っているようやった。少しばかりの援軍ではあるけど、人手が足りていない壊滅的な状況やったんが――。なんやアレは? 物凄いスピードの剣撃で帝国兵を殺してる奴がおるな。
その人物はこっちに近づいてくる。ローブで身を纏った銀髪の赤い目をした好青年や。
「貴方がレン・フジワラですね。私はベリトと申します。それは邪眼ではなくて魔眼ですね?」
「そうや。アンタそれ邪眼かいな。つか何者や。エライ強いな」
「私は洗脳を得意とするナリユキ様に仕える者です。普段はマーズベルで国防衛ラインの長をやらせてもらっております」
「――。あそこの少年といい、化物ばかりやな。それよりあの少年は誰に氷漬けされてん」
「それが分からないのです。ミク様とアリス様もいないようなので――。ナリユキ様に頂いた指示は果たしているのですが、ナリユキ様から、ミク様への念話も繋がらないので、こっちは少々焦っているところでして」
「そうなんか。あの少年がやられている事自体異常やからな」
「試してみましたが、あの氷はスキルが全く通用しないので、恐らく私達でノア様の救出はできません。急ぎ、アリシア様に来てもらう要請しました」
そうベリトと会話していると、帝国兵に囲まれていた。
「べちゃくちゃ喋ってる暇無さそうやな」
「魔眼を持っているなら訳ないですよね。何なら私はティータイムに入ってもいいくらいです」
「よう分かっとるやんけ」
俺は囲んでいる帝国兵全員を視た。すると辺りの帝国兵は燃え始めて、走り回ってた。
「熱い! 熱い!」
「助けてくれ~!」
そう断末魔が聞こえる――。
頭に激しい痛みを覚えつつ、右目の視界がゆっくり消えていった。
「魔眼は本来は魔族などの私達が習得するもの。人間には無理があるようですね。恐らくその右目は、魔眼を発動するときにしか開きません。それ以外の日常生活では、視力を失っているのでしょう」
「やっぱりそうなんか。じゃあ閉じたら強制的に使用できへんようになるんやな?」
「そういう事ですね。なのでレン様はしばらく休んでおいて下さい。私がこの戦いを終わらせますから」
「格好いい事言うやんか」
「ミク様とアリス様が心配ですからね。それにまだまだ仕事は終えていませんから」
ベリトはそう言って、黒翼を生やして低空飛行を駆使しながら、次々に兵士達をタッチしていた。タッチされた奴等は呆然と立ち尽くしていた。
数十秒待っていると、ここのいた人間は全て魂が抜けたような表情をしていた。
「何をしたんや?」
「まあ見ていて下さい。さあ貴方達は帝都に出るのです」
ベリトの指示で帝都を出て行った反乱軍と帝国兵。
ベリトという強力な助っ人により、この場所を制圧することができた。それにしも何のスキルやねん。
「洗脳系か何か?」
「そうです。それより急ぎましょう。私はミク様とアリス様を探します」
「分かった」
俺がそう返事をすると、ベリトは微笑みながら黒翼を駆使して空高くはばたいた。
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