第53話 建国Ⅴ
戻って来ると源泉は掘り起こされていた。
「お待ちしておりました!」
そう言って
「温泉を作るんだ。あ、お湯に浸かる文化は魔物には無いか」
「そうですね。
「生産性をあげるためには必須のルーティンだ。浴槽に浸かることでリフレッシュ効果ができ、睡眠の質をあげることができる。つまり生き物にとっては必須の文化なのさ」
「成程。しかし我等は魔物である。故に眠りは浅いという概念で育っている。どれだけ足掻いてもいつ殺されるか分からない世界線で育っているから、睡眠が浅いのは生物の本能なのだ」
「まあその前提から覆してやるよ。平和な国にしようぜ?」
「まあ平和にはこしたことないがご飯はどうするのだ?」
「自給自足するつもりさ。品種改良なりを重ねて安価で美味しい食材を生産する。そのためには――」
「モトリーナの村の人何人か呼ぶんですね!」
「お、ミクちゃん分かっているじゃん。じゃあ早速屋敷建てるわ」
そう言われて私は思わずガッツポーズを決めてしまった。ふと横を見てみると、ベルゾーグさんとアリシアさんがチンプンカンプンになっていた。いきなり謎の話をされても分からないよね。そうだよね。
「温泉というのは聞いたことがあります」
ベリトさんがそう呟き始めた。え? 知っているの?
「この世界には転生者がたまにやってきますので、当然ミク様と同じ日本人の方もいらっしゃいます。ですので、他国では温泉という文化があると伺ったことがあります。ですので、その情報によると、シャンプー、リンス、ボディーソープが必要になってきますね」
「ベリトさんすご――その通りですよ!」
「しかし、ナリユキ様のスキルでは油は出せませんよね?」
「そうなんです。だから入手する必要があるのです」
「油が欲しいのですか? どんな油が必要なのですか?」
「ココナッツオイルとかあればありがたいですね」
「ありますよ」
あるんかい。流石森の管理者。何でも聞いたら資源を教えてくれそうだ。
「必要なものがあれば調達しますよ。代わりに温泉に入らせていただければ」
「じゃあ今度一緒に入りましょう!」
「勿論ですとも」
気付いたら私はアリシアさんとハグしていた。そんなときにベルゾーグさんが「失敬」と声をかけてきた。
「何でしょう?」
「拙者の仲間を
ベルゾーグさんが指した魔物の死体の置き場? に
でも、どっからどう見ても死んでいそうなんだけど。
「流石に死んでいるのは――」
「いや、生きているのは何匹かいる」
「解りました。とりあえず確認してみます」
魔物の山のところに向かうと、ノア君がこっちに気付いた。というか、
「あ、ミク! おかえり!」
「ただいま! ねえノア君。そこにいる魔物達ってもう息していないよね?」
「ん? 多分生きているよ」
「ありがとう。あ、その魔物達襲ってこないよね?」
「ボクの支配にいるから大丈夫さ。お前たちミクに手を出したら駄目だからね」
ノア君がそう言うと、多種多様の魔物達は首がもげるかと思うくらい頷いていた。いや、もう何なの。懐かれているのか脅しているかどっちなの。
とりあえず私からすれば生きていたのが驚きだ。脈に触れてみて、生きていることが確認できると、
血まみれだけど、
ある程度パチッと目を見開き立ち上がる。尻尾をぶんぶん振って顔を舐められた。くすぐったい。そして、数回舐められた後、
ベルゾーグさんの方に向かって走っていくときは、尻尾の振り方が尋常は無い。もはや飼い主をずっと待っていたご主人様命! みたいな振り方だ。
ベルゾーグさんは「無事で何よりだ」と喜びを噛みしめていたので、本当にごめんなさいと心底反省した。元はと言えば私の案で魔物を襲ったから、
私は罪滅ぼしのような気持ちで
「できた!」
20頭目の
「まさに神の如きお力ですね!」
「こ――これが温泉。拙者も入ってみたい」
「流石ナリユキ様。私の光そのものです」
「我が一番に入るぞ!」
アリシアさん、ベルゾーグさん、ベリトさん、ランベリオンさんというような順番で感想を述べていた。そして、
ナリユキさんが言っていたことが少し分かった気がする。一人でも多くの人の人生を豊かに! という目標の元、建国したいと言っていた。そのゴールがこの笑顔と達成感だ。今はまだ100人ちょっとだけど、ナリユキさんはこれをもっともっと増やしたいんだと思う。
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