第54話 建国Ⅵ
屋敷と魔物の小屋を造った後、俺、ミクちゃん、ランベリオン、ノア、ベリト、ミーシャ、アリシア、ベルゾーグをメンバーで会議を行うことにした。会議と言っても座談会みたいな感じだ。
幅250cm、奥行き400cm、高さ70cmの黒い木の会議テーブル。本当はもっと素材に拘りたいがとりあえずという感じだ。椅子は社長椅子みたいな感じの、ちゃんとゆったりできるやつにした。まあ無駄に長い会議なんて何の生産性もないから、30分で片づけるっていつも決めているんだけどね。勿論それが叶わないこともあるが。
「拙者まで入るのか? まだ拙者は協力するとは言って無いが」
「じゃあ温泉なしな」
「ぬ――。それは困る」
「なら、ちゃんと聞いてくれ。皆始めていいか?」
俺がそう言うと皆は「はい」と返事をしてくれた。
「これからは都市の領地を増やしていこうと思う。マーズベル森林に生息している魔物なら、どんな魔物でも受け入れようと思っている。勿論、混乱を招かない善良な魔物だ。食料に関しては、畑を耕して野菜などを収穫する。そのために、ランベリオンにはこの後でモトリーナの村長に会って来て、農業を教える人を引っ張ってきてほしいんだ。頼めるか?」
「勿論だ」
「頼んでおいてあれだが、王の仕事は大丈夫なのか?」
「我は人脈を深めるためにあらゆるところへ行くのが仕事だ。問題ない」
「じゃあ任せた。そんで次はアリシアさんの許可が必要だな。もう貰っているけど、皆がいる前でも合意を得ておきたい。アリシア」
「はい――」
アリシアは律儀にも席を立った。ランベリオンも別に立たなかったし別にいんだけどな。
「
「少し良いか?」
ベルゾーグがそう言って挙手をした。
「いいぞ」
「かたじけない。ずっと気になっていたのだ。別に建国などせずとも今のまま人間達が住めばよかろう」
「それは私ではなく、ナリユキ様からご説明するほうがよさそうですね」
アリシアはそう言って座ったと同時に俺にアイコンタクトを送ってきた。
「建国する理由はいくつかある。人間と魔物が共存する国を造りたい。この土地の自然に付加価値を与えてもっと発展させたい。食べるのに必死な習慣を覆し、ランベリオンのように自由で伸び伸びとしている魔物を増やしたい。訪れる人間に、魔物を気にせず、マーズベルを楽しんでもらいたい。そして俺が圧倒的な他者貢献をすることで、一人でも多くの人の人生を豊かにしたい」
「そして、その中心でありたい――という訳か?」
「ああ。つまり俺のワガママだ」
俺のその発言にミクちゃんとランベリオンは笑っていた。どうせ俺らしいと思われているんだろう。
「ただ、そのワガママに付き合ったほうがより豊かになれる。と――言いたいわけか?」
「そうだ」
「いいだろう。協力してやろう」
ベルゾーグが笑みを浮かべながらそう言うと皆拍手を俺に送ってくれた。こんなに暖かい気持ちになれたのは久しぶりな気がする。
「国の名前や都市の名前はどうするんですか?」
「ナリユキ王国でしょう」
ベリトがドヤ顔で発言しているが、ネーミングセンス無さすぎるだろ。ルックスとスキルの代わりに、ネーミングセンスを捨てたのか?
「そもそもナリユキ様が王になるのですか? 皆さんはどう思われますか?」
アリシアの発言に、俺が王で満場一致だった。そう誰も反対はしなかったのだ。ベルゾーグは反対すると思っていたんだけどな。
けれども俺のなかでこの感覚はちょっと違う。
「反対の一つや二つは出てきても良かったんだけどな。ただ公平でありたいからこそ、俺の次の王様は誰になるよ? って時が必ず来るから、マーズベル共和国にしようと思う。俺の次はトップは、皆で選んでほしいんだ」
「魔物との共存を願うナリユキ殿らしいな」
「異論は無い」
この中の誰しもが頷いてくれた。ちょっとスムーズにいきすぎて驚きだ。
「ナリユキさん、首都の名前は決めているんですか?」
「ああ。この国の中心地。つまり俺達が開拓していくここの地名をリリアンにしたいと思う」
「リリアン?」
ミクちゃんがそう言って首を傾げた。
「女の子の名前みたいで可愛いですね」
アリシアの感想にミーシャが激しく首を振っていた。
「ボクはもっと格好いい名前がいいな。ダークサイドとか!」
ノアの意見にみんなが凄い顔をしていた。
「そんな禍々しい名前は観光客こねえよ。却下」
「うええええ。なんでええええ」
「ノア君おいで」
ミクちゃんはそう言って両手を広げてノアを膝の上に招いた。ノアは「もういいもん。知らないもん」と拗ねてミクちゃんの膝の上に座った。う~ん。ノアは外すべきだった。いや、普通に頭良い時があるから、入れたんだけどさ。次回からは戦術を練る時だけにしよう。
「ちゃんと意味があるんだ聞いてくれ」
俺はそう言って反応を見た後、紙と筆ペンを取り出して、
「その文字は何でしょうか?」
「拙者も知らん」
「知識不足ですね。私も知りません」
「わ――私も知りません」
と、アリシア、ベルゾーグ、ベリト、ミーシャの順で感想を述べた。しかし、ランベリオンはニヤニヤと笑みを浮かべている。
「我には解るぞ。アルファベットと漢字だな! 細かく言うと英語と日本語だ!」
「流石だな」
「その文字は久しぶりに見たな」
「そんな英語ありましたっけ?」
「ん? これは俺が考えた造語だ。3つの意味を込めてLiRian。つまりリリアンって名前にしたいのさ。実はこの言葉、動画配信していたときから使っていた俺が考えた言葉だから割と愛着あるんだよ」
「素晴らしい!」
と、ベリトが声を張り上げて立ち上がった。それに涙をめちゃくちゃ流している。いや、そこまで感動するほどの言葉じゃないから恥ずかしいんですけど。
「リリアン。これほどこの国に相応しい名前はありません! まさに神のお言葉!」
う~ん。ベリト君よ。俺が仲間になってくれって言ったとき、君は俺の後ろに後光でも見ていたのかな? いや、本当に止めてほしいんだけど。
「あのベリト? 一旦落ち着こうか?」
「お――落ち着く? 私は至って普通です! ただ感動しているだけです!」
「とりあえず座れ」
背筋をピーンと伸ばしてどこから取り出した分からんハンカチで涙を拭い、「失礼しました」と言って座った。
その後、「ナリユキ様に嫌われたくない。ナリユキ様に嫌われたくない――」と小声でブツブツ言っている。皆は苦笑している。俺が少し睨め付けただけでこれだからな……。
「それにしても漢字というのか? なかなか渋い字だな。
それはアンタの一人称が拙者だからだろ。強いていうなら語尾にござるも付けてほしいと思っている。
「リリアンでいいか?」
ノア以外は全員頷いた。ノアはミクちゃんの胸を枕にして拗ねている。――羨ましいなこの野郎!
「じゃあこの日を持ってマーズベル共和国と称し、この国の首都の名前をリリアンとする」
こうして、正式にマーズベル共和国を建国した。
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